サポセン研修
サポートセンターの研修で初めてのロープレ。
講師のフランクさに一抹の不安を覚える。
B:はい、それじゃあ時間がきましたんで研修始めたいと思います。サポートセンター、よくサポセンって略されますけどね、難しくないです。ポイントを押さえて普通にやってけばね、普通にやれますんで、気楽に臨んでください。
A:あ、質問です。難しいお客さんにからまれたりするって話をよく聞くんですけど、大丈夫でしょうか。僕、そういうの苦手で……。
B:ええ、全然心配いりません。うちはもうね、めんどいのはすぐ上司が代わりますんで、そこんとこは安心してもらってけっこうです。
A:お客さんのこと、めんどいのとか言っちゃってるけど大丈夫かなあ……。
B:うちは頭より体で覚えるスタイルですんで、いきなり本番形式のロープレをやってきます。あー難しくないです、もうマニュアル見ながらのトークで全然オッケーなんで、気ばらずにね、友達と雑談する感じで応対してくれたらいいんで。
A:いや、友達感覚はまずいような……。
B:はい、皆さんヘッドセットいいですかー。それじゃ、んーと山田さん。トップバッター、いってみましょか。
A:軽いなあ……大丈夫かな。ロープレとはいえ緊張するな……あっ、かかってきた。お電話ありがとうございます、ブラックリストの最後の味方、マックローン、担当の山田がおうかがいいたします、って今さらだけどひどいキャッチコピーだな……貸すなよ、ブラックに。
B:ぐぉらあぁっ、とりあえず上の奴と代われやあっ!
A:えええっ、開口一番で代われ!? ちょ、ちょっと、ロープレの第1発目がこれっておかしくないですかね!?
B:なにをわけのわからんことぬかしとんじゃこのホンダラがあ! はよ上のもん出せゆうてんじゃカスゥ!
A:ちょっ、ちょっ、ちょっ。絶対これ、今日初めてのビギナーがやる練習じゃないですよね!?
B:なぁーにが練習じゃい、このクソが! はっ倒されんぞコラァ! 自分、名前なんちゅーんじゃ、お!?
A:ヤバいヤバいヤバい、迫真の演技すぎ、気あい入りすぎ! これどこの端末から……って、よく考えたらこんなバカデカい声出してたら部屋じゅうに聞こ……
B:くぅおらぁ、こんガキィ! さっきからグダグダグダグダなぁに意味不明なことほざきくさっとんじゃこのダァホッ!
A:い、意味不明なのはこの人のテンションだよお……。と、とりあえず上の者に代われって言ってるから……、しょ、少々お待ちください! すみませんっ、お客さんが上司に代われって……。
B:――ですんで、ま、うちは取りたてとかが業界でもワンランク上のシビアさなんでね――お客さんもちょいちょいエキサイトしてちゃってる場合も――
A:ええーっ、無視ー!? てか今一瞬、チラって見たよなっ?
B:ぐうぅおらあー! いつまで待たすつもりじゃワレェ! 自分っ、まだ名前答えとらんな! 匿名かっ、このサポセンは匿名か、おおん!?
A:い、いや、最初に山田ですって名乗ってるし……てかこれ、画面に出てる個人情報、年収から借入履歴からすごい詳細だけど……、ロープレでここまで再現――
B:くるぅうぉらぁーっ、山田ぁー! 今から自分んち火ぃつけに行ったろかい!
A:名前把握してるしー! ロープレで放火なんて絶対言わないよな!? やっぱ本物……? あっ、あのーっ、すいませーん、なんか間違って本当の電話が――
B:――ま、わりとうちは実戦形式重視なんで――初っぱなからリアルに出てもらったりも――
A:意図的かよぉー! おかしいだろ研修でぇ! てかまたチラ見したよな!
B:――あせらずあわてずにね、ぼちぼちと――
B:やぁまだぁーっ、火ぃいくぞぉー!?
A:あせらずあわてずにとかムリぃー! てかどこのなまりなんだよこれ関西弁? もう超こえーよぉ。講師の人、無視すんなってぇ。すぐ代わるんじゃないのかよぉ!
B:――だいじなのは5つの「ない」。お客さんをさえぎらない、否定しない、逆らわない、命令しない、勝手に切らない――
A:なんか俺置いてきぼりで普通に研修進行してるけど、その段階、開幕突破してっから!
B:やぁーまぁーだぁーっ! 火ぃー!
A:ひいーっ! もう助けてー!
B:あーもー、さっきから騒がしいですね、研修中なのに。
A:いや俺も研修中だよ! 明らかに状況おかしいけど!
B:めんどいなあもう。はいお電話代わりました、上司です。
A:助かった……。めんどい言うなよ、あんたの仕事だろ。
B:え? 僕の名前? そんなのどうでもよくないですか? えっ、待った待った、ちょい待ち、ちょい待ち。
A:いや、ついさっき言ってた「5つのない」と全部逆じゃね……? てかフラットすぎね?
B:借りた、ものは、きちんと返す。以上。
A:切ったぁーっ!
B:はい、そしたら山田さん、次のロープレいきまーす。
A:また俺かよ! やらねえよ、もう!