エセ関西弁
エセ関西弁を覚えたいという謎の願望。
展開する不穏当な発言に相方は気が気でない。
ちなみに私は関西弁はしゃべれないでんがな。
こういうノリや、某コナンの例のあの回はイラついてしかたがない系の人は、たぶん、お目汚しになるだけだと思うのでおすすめしかねます。
B:僕ね、エセ関西弁を使えるようになってみたいんですよ。
A:また唐突かつ意味不明ですね。エセ関西弁? 関西弁じゃなく? なんでまた?
B:だってね、関西弁っていくら上達しても、ものっすごいどうでもいい些細なとこまで、ここが違うそこがどうだクソだ味噌だとケチつけるじゃないですか、あいつら。
A:言葉に気をつけろってレベルをはるかに逸脱した罵詈雑言ですね、冒頭から。超怒られるぞ。
B:だったらね、最初からエセ関西弁のていでハードル下げればあいつらも文句言わないかなって。
A:違う方向ですごいハードル上がりましたけどね。死ぬほどお叱り受けるぞ。てか、まともにマスターする気ないですよね、それ。
B:だってですよ、たとえ99%まで達しても、残り1%が違うだけで全否定ですからね。「なんやねん~、自分それぇ、関西弁ちゃうやん~」てあいつら――
A:さっきからちょいちょいあいつら呼ばわりするの、まずなんとかしてもらっていいですかね。それと、普段、菩薩のように温厚な関西人が、標準語のアクセントで「おいテメぇブッ殺すぞ」てブチキレる系の不穏当な発言も。
B:でも関西だけですよ。北海道も東北も、九州も沖縄も、非ネイティブの発音に対してわりとおおらかなのに、関西弁だけは、重箱の隅をつついて鬼の首取ったように障子の桟をなぞる小姑のごとく――
A:だから言いかた! なんなの、その関西一円に全力でケンカをふっかけてくスタイル。関西人に恨みでもあんの、親殺されたとか全財産奪われたとか。
B:いえ全然。本当に純粋に素朴な疑問で。
A:態度は素朴と真反対ですけどね。
B:よそ者にしてみればどれも全部同じなのに、なに全然違うみたくギャーギャーわめ――
A:だーかーらー! 口! 口のききかた!
B:なんかネイティブが言うには、ひとくちに大阪弁といっても河内弁だ摂津弁だ泉州弁だ船場言葉だと細分されたり、近畿すべてが京阪式アクセントとは限らず、京都の丹後地方の一部・兵庫の但馬地方・奈良の県南は東京式だったり、また、関西弁がすべて同じに聞こえるのは実はある意味正しく、地方ごとの差異は年々薄まりつつあり、若い世代ほど地域差が少ない傾向に――
A:えっ、なに? 意外とそこそこ詳しいの? さっきからむだに煽ってるわりに。
B:敵を知り己を知れば百戦あやうからず。
A:結局、敵なのかよ! てか敵ってなんだよ、おかしいだろ。なに戦おうとしてんだよ、なにとどう戦うんだよ、見えない敵かなんか?
B:そういうわけでエセ関西弁をマスターしたいっ。
A:無視かよ! それ身につけたらなにか有利になるの? てかエセ関西弁をマスターってなんだよ、どういう段階に達したらマスターなの? もうさ、どうせ目指すなら通常のでよくない? あえてまがいものを習得する必要なくない?
B:レッスン1。「おまんがな」
A:だから無視すんな! レッスン1じゃねえよ、勝手に始めんな。しかもいきなり一番ヤベーやつだろそれ。
B:ほおー、これが東京でっか! ワテ、初めてやってきたでおまんがな!
A:殺されるわ! 関西人100人中60人ぐらいにフルスイングでぶん殴られるわ!
B:レッスン2。「さいでっか」
A:進めんな! さっきのと大して変わんなそうじゃねえか!
B:あのサイ、ビッグマクド並にでっかいでんなー。さいでっか~。括弧、ここで大阪じゅうが爆笑の渦に包まれる、括弧閉じ。
A:括弧閉じ、じゃねえよ! お笑いの中心地のレベル、どんだけおとしめる気だよ! 大阪人100人中85人ぐらいに無言・無表情で前触れもなく殴られるわ! そのまま道頓堀に叩き込まれてすっげえ悪臭放ちながら銭湯で入浴断られろ!
B:レッスン3。「きょ――
A:もおやーめーてー! 「きょ」とか絶対、京都いじる気だろ! あの人ら、もんのすげえこえーイメージあるもん! 子供が騒いでたら「元気どすなあ」って笑いながら「るっせえぞクソガキが!殺すぞ!」とか普通に腹んなかで思ってんだろ? ぜってーヤベーって!
B:おまえもわりとひどいな……。
A:てかさあー、その明らかに使う場のないやつ習得してどうすんの。俺の想定するエセ関西弁って「似て非なるもの」だけど、おまえのは「似てもないしただの非なるもの」だもん。おまえの、エセ関西弁のエセのエセぐらいだよ。
B:でもまあ、関西弁をいじるとすぐむやみやたらにキレるのも、それだけ関西の人々が方言をたいせつにしている証拠と言えるでしょう。
A:えっ、なに今までの悪口雑言が全部なかったかのように、ちょっといい感じにまとめようとしてんの? そのわりに最後まで地味に煽るし。結局なにも質問に答えてねえわ、なにがしたかったのかわからずじまいだわ、なんだったの?
B:また来週~。
A:いやこれ来週とかねえから!
B:さいなら~。
A:だからぁ!




