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7・最善の選択

「……どちらにしろ後味が悪いわ。それで助かっても、私は楽しく暮らせなくなる」

 私がそう言うと、神様は不満げな表情になった。


「じゃあどうしろって言うんですか。我が儘な魂ですね」

「神様の言葉じゃないな。あんたがミスったんだろう?」と一つ目。「俺が食べてやろうか?人を食ったことはないけど、多分、いけるぞ?」

「いやいやいや、いけません!私、神様ですから」

 再び後ずさる神様。


 と、素晴らしいアイディアが閃いた!


「分かった!竜が不調をきたさないようになればいいのよ!常に食欲全開、溶岩だけで問題なしにしてあげて」

「いいな、それ」と竜もご満足。

 だけれども神様の表情は曇った。


「……・・・」

 神様の声が小さくて聞き取れない。

「「「「え?なに?」」」」四人の声が重なる。

「出来ません!私の専門は転生。魔物の設定を変えるなんて無理です!」

「神様なのに?」とムスタファ。

「専門なのに彼女の転生、失敗したのか?」と一つ目。

「役立たず」と竜。

「上に報告したほうがいい」とムスタファが私に言う。

「わあ、やめてやめて!!」と神様は目に涙を貯めている。

 きっとこの人、神様の中でも出来損ないに違いない。


「それならせめて、薬を姫じゃないものに変えるというのはどうかしら?」

 ムスタファがため息をついた。

「お前、お人好しだな」

「だって文句を言うより解決策を探したほうが、私の生存率は上がるよね?」

「……そうだな」

「さっきムスタファが話していたナントカ鳥の卵はどうかしら?」

「ロック鳥?」

「そう、それ!」

「……それも、私には無理です」と神様。


 ムスタファ、一つ目、竜が盛大なため息をつく。

「おーい、この神様の上の神様ー」と竜が天に向かって叫ぶ。

「ていうかお前、喰ってみたら?」と一つ目。「神様だし、もしかしたら姫より効くかもよ」

「そうか。まだ神様は試したことがない」と竜があんぐりと大口を開けた。


 途端に熱波が吹きかかる。

 さすが溶岩を食べている火竜なだけある。体内は灼熱地獄かもしれない。こんなところに放り込まれるなんて絶対に嫌だ!


「ま、待って待って!!」更に後ずさる神様。

「なあ、神様」とムスタファ。「あんたは転生が専門」

 神様がうなずく。

「それなら彼ら専門の神様もいるのか?」

「勿論います」

「じゃあ、その神様のところに行って頼んで来いよ!そのくらいの責任を持て!」

「ムスタファ賢い!!」


 私は思わず拍手を送った。


「いや、でもですね」と神様。「私の送った魂が身代わり姫に間違えて入ってしまったから助けに来ただけなんですよ。元々身代わり姫は竜に食べられる運命です」


 ……そうか。

 前世なんて関係なく、私はヴァイクリフに生け贄にされて死ぬ予定。改めて言われると、きついな……。


「だからなんだって言うんだ!」

 ムスタファの力強い声が広い宮殿に響き渡った。

「どんな事情だろうと、あんたはミスをして彼女は泣いてる。それを助けに来たんだろう?だったら手を尽くしてくれたっていいじゃないか。竜だって好き好んで姫を喰ってる訳じゃない」

「そうだそうだ」と竜。そしてまたカパァッと口を全開にする。

 熱いぞ!


「わ、分かりましたよ。ちょっと相談してくるので待ってて下さい」

 神様が渋々のていでうなずく。

「ちゃんと戻って来るんだぞ」と一つ目。

「神様は嘘をつきません!」


 その言葉が終わる前に、神様は姿を消していた。


「……なんだかみんな、ありがとう」

「だって惨めすぎる」と竜。

「10年も想い続けていたのに、相手はそうじゃないどころか素敵な姫君とラブラブ熱愛中」と一つ目。

「マリーナ姫は美人で淑やか、しかも才女」と竜。

「優雅で妖艶、更にスタイル抜群」と一つ目。


 魔物たちが私を見た。

「「可哀想に!!」」

「ねえ、待って!私だって国では一応美人の部類だし、スタイルもいいのよ!」

「……」

「本当よ」


 一つ目がパチンと指を鳴らした。

 途端に床の上に、見たことのない果物や菓子が現れた。

「まあ、これでも食いながらあの神様を待て」


 腑に落ちないものを感じながらも、うなずいて座った。

 手近の果物を取って口に運ぶ。

「美味しい!ムスタファも食べましょうよ」

「あんたの国じゃ姫君と護衛が一緒に食事をしていいのか?」

「まさか。だけどここは私の国じゃないし、この国のマナーは知らない。それにこれから生け贄になるかもしれないって時にそんなこと拘らないわ」

「生け贄?」とムスタファ。

「だってあの神様、頼りないもの。あまり期待しないでおくわ」


 浮かんだ涙を手の甲で拭う。


「一つ目巨人も紅竜も愛着が沸いてしまったし、一応、覚悟はしておく。その代わり」

 私はムスタファをしっかりと見つめた。「もし本当に私が彼に食べられてしまったら、ヴァイクリフに一発拳を決めてくれるかしら?」


「……二発、入れよう。あんたと、俺たち三人分だ」

「ありがとう」

 私は出来る限り最高の笑みを浮かべた。


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