5・ごねてみる
「私、食べられたくないの!」
そう言うと一つ目巨人は、どことなく申し訳なさそうに見える表情になった。
これ、案外説得できるんじゃない?
「だって私、ずっとずっとヴァイクリフの帰りを待ってたのよ。10年もよ!星の数ほどの縁談を断ってきたわ。彼を裏切りたくなくて。初恋だったの!それなのに彼に騙されて食べられる最期なんて、あまりに酷いわ!」
ため息の三重奏がした。隣りのムスタファと、一つ目巨人と紅竜だ。
「確かにな」と一つ目巨人。「それを聞くと気の毒になる」
やっぱり彼は話がわかる魔物なんだ!
「だけどな」と一つ目巨人。「ジャイファルは」と竜を見る。「姫君を食べないと死ぬ」
「……どういうこと?食料が姫君限定なの」
「違う」と竜が喋った!
竜って喋れるんだ。勝手に人間の言葉が通じない魔物だと思っていた。
「俺は火竜だ。普段食べるのは、もちろんアララト山の溶岩だ」
「溶岩?」
そうだとうなずく紅竜。
ムスタファを見ると彼は、知らんと首を横に振った。
というか溶岩って食べられるものなのかな?
もちろん、っていうことは魔物界では当然の食料なのかな?
「だけれど数百年に一度、溶岩を全く受け付けなくなる時期がくる。どんなに腹が空いても食べられない。この症状を直すには、正真正銘の姫をひとり食べるしか方法がない」
「ええと……。つまり姫が薬的なものということ?」
魔物たちがうなずく。
またムスタファを見ると彼は目を丸くしていた。
「初耳だ」
「そうなの?」
「ああ。だが数百年に一度、一つ目巨人と紅竜に姫の生け贄を出さなければならないことは、我が国に古くから伝わっている」
再び魔物たちを見る。
「それって姫じゃないとダメなの?」
「他のものはどう頑張っても喉を通らない」と竜。「俺だってサイードと同じ形をした人間なんて喰いたくない。不味いし」
「不味いの?」
「激マズだ!!」
サイードと呼ばれた一つ目巨人が、よしよしといった様子で竜の背をさする。
「仕方ない、薬は不味いって相場が決まってるんだ」
……なんだかな。
この魔物たちはそれほど悪い存在ではないようだ。しかも姫君は薬で、食べないと死んでしまうなんて言われたら、どんな感情でいればいいのか分からなくなってしまう。だって二人は見るからに仲良しだもの。
「何故、姫なんだ?」とムスタファが尋ねた。
「知らん」と竜。「昔から治すには姫と決まっていたし、姫以外はさっきも言った通り、喉を通らない」
「姫ではない人間はダメだから、お前では代わりにならないぞ」と一つ目。
「ロック鳥の卵の殻は?」とムスタファ。私を見て、「人間には万病に効く薬になるんだ」と説明する。
「ダメダメ」と竜。「いつだったか試したが、吐き出して終わり」
「そうか……」と肩を落とすムスタファ。
「悪いな、姫さん」と一つ目。「あんたがそんな惨めな境遇だとは知らなかった。知っていたら呼ばずにマリーナ姫を喰わせたんだが」
うなずく紅竜。
うっ……。
思わず胸を押さえる。
「自分でも惨めだと思うけど、他人に言われると更に惨めになる!」
「ごめんよ」と竜。「痛くないよう、丸飲みするからな。腹の中でどうなるかは分からないけど」
「そんな最期嫌よっ!」
また涙が溢れてきた。
「こんな惨めな大失恋、可哀想だな」と竜。
「よし!姫さん、好きな食いもんはなんだ?なんでも出してやる。最期にたんと食っておけ!せめてものプレゼントだ」と一つ目。
「いいけど食わせすぎるなよ」と竜。「太って喉に引っかかるようだったら、ちぎって小さくして喰わないといけなくなる。余計に姫さんが哀れだ」
「うっわーーーん!!!食べられたくないー!!!でも竜が死んじゃうのもなんか可哀想ー!!!」
「……お前……」
ムスタファが痛いものを見る目を私に向けている。
だけど気にしている余裕なんてない。また大量の涙と鼻水と嗚咽が止まらない。
「……あのー」
「……もしもし」
「すみません、無視しないで」
えぐえぐ泣いていると、そんな声が聞こえた。
「誰だお前?」とムスタファ。
ムスタファのびしょ濡れハンカチが使い物にならず、自分の袖で顔を拭うと声のしたほうを見た。
そこにいたのは性別不明年齢不詳で白い貫頭衣を着た人物。
その姿を見た途端、私の中で二度目のスパーク。
「転生の神様!」
神様は
「あ、覚えてましたか?」
と困り顔で言った。