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初恋は、叶わないとは言うけれど。いくら何でもひどすぎる!!  作者: 新 星緒


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4・私の推しはどんなヤツ?

 ムスタファ(と思われる)黒髪イケメンが手を差し出した。ハンカチが載っている。


 あ。私、涙だけじゃなくて鼻水も大量に出ている。姫君なのに。

 羞恥で顔に血が昇る。

「ありがとう」

 伝わるか分からないけれどお礼を言って受け取り、顔を拭く。


 それにしてもこの人はなんでここに残っているのだろう。

 主人公の護衛である彼は、ゲームではヴァイクリフと共に彼女の救出に向かい、無事に帰っている。

 ……いや、一緒に帰ったかは不明だ。帰りは別だったのかもしれない。だとしたら、なぜ?


 気持ちが少し落ち着いたので辺りを見回してみる。


 目の前にはムスタファ(推定)。黒曜石のような瞳が素敵な細マッチョイケメン。


 振り返ると和んでいる魔物たち。

 私がいる部屋はアラビア風の宮殿。ただし天井が異様に高い。魔物サイズなのだろう。


 ……というか、今、逃げられるかな?

 魔物たちは私に興味が無さそうだ。


 と思ったらムスタファ(推定)が魔物に話しかける。二人?二体?の彼らがこちらを見た。一つ目巨人がうなずいて、パチンと指を鳴らす。


 ムスタファ(推定)が再び私を見た。

「俺はムスタファ。ダハブフィッダ王国の王族の護衛だ。……俺の言葉が分かるか?」

 思わず息を飲む。

「分かるわ!」

 うなずくムスタファ。

「彼らに頼んで言葉が通じる魔法をかけてもらった」


 一つ目巨人と紅竜をみる。二人は仲睦まじく寄り添っていて、もうこちらを見ていない。なんとなく、恐ろしい魔物、というイメージとは違う。


 翻って、目前のムスタファ。彼があげたのは、やはりあの究極の意味不明作と同じ名前、同じ王国だ。


 前世の私……のことは全く思い出せないけれど、どうやら死んで異世界転生を果たしたのは間違いないようだ。

 だけどどうしてこのゲームなんだ。もっと好きなゲームは沢山あった。なにより普通、転生といったら悪役令嬢とかヒロインとかモブじゃないのか。

 なんでよりによって竜に喰われる生け贄なんだ。

 ヴァイクリフの帰りをひたすら待っている可愛い姫だっただけのはずなのに。


 また涙が浮かぶ。


「ヴァイクリフの幼なじみなのか?」とムスタファ。

 うなずく。

「彼の話だと……」


 ムスタファがヴァイに聞いた話しによると、政変に巻き込まれて家族とはぐれてしまったヴァイは、旅商人に助けられ、彼らとともに混乱に陥った国を脱出。そのまま一緒に、祖国から遠く離れたこのダハブフィッダ王国にやって来たらしい。


 ヴァイは両親や私に何度となく手紙を出したそうだ。だが返事は来なかったという。恐らくあまりに遠すぎて、途中で行方不明になってしまったのだろう。


「……それで、今、ちょっとばかり、彼は窮地にあって」

 それまでの話しぶりとうって変わって、突如歯切れが悪くなったムスタファ。

「助けが必要で君を呼び寄せた。あの魔物たちの魔法でね。ヴァイは用事を済ませるために一旦ここを出たが、いずれ戻ってくる。それまでは俺がそばにいる。……状況を飲み込めたか?」


 ムスタファの表情は強ばっている。

 彼は彼なりに、泣きじゃくる私を気の毒に思って声をかけてくれたのだろう。

 だけれど。

 彼は攻略対象だし、元々主人公の護衛だ。彼女の代わりに私が生け贄になるほうが助かるのだ。


 彼がここに残ったのは、ヴァイクリフが戻るまで私が逃げ出さないように監視するためだろう。


 私はうなずいた。

「私、マリーナ姫の代わりに、あの竜の生け贄になるのでしょう?」

「ヴァイはそこまで話したのか!?」

 ムスタファが驚きに目を剥く。イケメンはそんな顔をしたってイケメンだ。ありがたや……。


 って尊さを拝んでいる場合ではなかった。

「あなたは私の監視役ね?」

 ムスタファは目を伏せた。

「……このやり方は間違っている。だけれどマリーナ姫を助けたい気持ちもある。俺に出来ることがひとつだけあるが、それは賭けのようなものだ」


 ちらりと彼の腰に下がった三日月刀に目をやる。護衛である彼は体術剣術の達人だ。

 ムスタファルートの場合、彼が魔物たちと戦い倒して主人公を助ける。だけれど彼も深手を負い死んでしまう。


「俺がどうなろうと構わないが、万が一失敗して姫に危険が及んだらと思うと」

 ムスタファは視線を下げて、唇をかんだ。


「分かった、あなたには期待しない」

 最推しだけど、仕方ない。私は主人公じゃないのだから、彼に助けてはもらえないのだ。

 悔しいやら悲しいやらで気持ちはぐちゃぐちゃだけど、だからと言って悲劇のヒロイン気分に浸っていたら、確実に喰われてしまう。


 すくっと立ち上がると、魔物たちのほうを向いた。


「ねえ!私はこれから食べられるんでしょう?」

 魔物たちが再びこちらを見る。

「そう。悪いが紅竜の生け贄になってもらう」と一つ目巨人。


『悪いが』?

 やっぱり彼らには魔物の禍々しさを感じない。

 首をかしげた。


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