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3・最悪の異世界転生

 一つ目の巨人と紅の竜。


 その組み合わせに見覚えがある。

 そう思った瞬間に頭の中で何かが弾けた。






 乙女ゲームが大好きだった私。人気作から知る人ぞ知るマイナー作までやりまくった。


 そんな中、究極の意味不明作があった。キャッチコピーが『あなたは運命の相手を見つけられるか?』で、ずいぶん陳腐だと鼻で笑った。


 乙女ゲームでは珍しいアラビアのお姫様が主人公で、数人いる攻略対象とのエンドはトゥルーとバッドしかなかった。

 晴れてトゥルーエンドを迎えたと思い喜んでいると、そこから謎の展開が始まる。


 王宮に一つ目の巨人と紅竜がやって来て、姫をひとり、紅竜が食べるための生け贄として差し出せという。そして父親のカリフは、一番年若くまだ未婚の主人公を選ぶのだ。


 魔物に連れ去られる主人公。でもご安心。攻略対象が追ってきて、助けてくれる。だけれど。

 ほとんど全ての対象が、死んだり姿を消したりしてしまうのだ。ちゃんと生き残って主人公と幸せになれるのはたった一人。


 その一人は最初から決まっているから、誰のルートを進もうが、どんな選択をしてトゥルーエンドに辿り着いていようが関係ない。だからこそあのキャッチコピー『あなたは運命の相手を見つけられるか?』となるようだ。






 そして今、私はそのゲームの中にいるらしい。これはもしかしなくても異世界転生ってやつだ。


 私を見下ろす一つ目の巨人。その手の爪は長い。私を噴水に引き込んだ手だ。そして隣にうずくまる紅竜(くれないりゅう)


 ぎぎぎ、と音が出そうなぎこちない動きになりながら首を巡らすと、アラビア風の格好をして、蒼白で悲哀に満ちた表情のヴァイクリフが私を見下ろしていた。


 10年ぶりに会うヴァイクリフ。それなのに彼本人だと確信できる。何故なら私は彼が攻略対象のひとり、『異国の貴人ヴァイクリフ』と知っているからだ。


 そしてこのゲームにおける私は、主人公でもモブでも悪役令嬢でもない。顔も名前も出て来ない、うっすらその存在が匂わされるだけの……


 身代わりの生け贄姫!!


 ゲームでヴァイクリフは主人公を助けた後に姿を消す。

 哀しむ主人公はヴァイクリフと共に救出に向かった護衛から、何故それが可能だったかを聞く。


 それは。ヴァイクリフが魔物に懇願して主人公の代わりに幼なじみの異国の姫を生け贄に差し出したからだ!



 つまりそれは、わ・た・し!!



「ヴァイ!!これはどういうこと!?」

 尻餅をついたまま叫ぶとヴァイクリフは目を伏せた。


「ごめん、エミリア。君のことは大好きだった。だけど僕が今愛するひとを助けるためには、どうしても代わりの姫が必要で、僕が知っている姫は君しかいなかった。……魔物の話じゃ、呼びかけに答えて『助ける』と言ってくれないと、ここに呼べないらしいんだ」


 つまり主人公のためには、私なんて紅竜に喰われて構わない、ということだ。

 ずっと、ずっと、彼が帰って来るのを待っていたのに。


 涙が目に浮かぶ。


「本当にごめん」とヴァイ。

 だけど彼はすぐに魔物に向き直った。聞いたことのない異国の言葉で話している。


 それから彼は再び私を見ると哀しげな顔のまま言った。

「僕の大事なひとを送り届けたら、すぐに戻る。待っててくれ」


「……戻る?」

「ああ」とヴァイは青ざめながらも力強くうなずいた。「突然呼び出しておいて、ひとりで……ここに放置する訳にはいかない。ちゃんと戻ってくるから。僕にだってそれぐらいの誠意はある」


 ……それはどういう意味だろう。彼は言葉を濁したけど、私はこれから竜に食べられるのだ。彼も一緒に食べられるつもりなのだろうか。


「それじゃ」とヴァイは言って部屋を出て行った。




 ヴァイクリフ。

 大好きだったのに。


 彼の姿が見えなくなると、こらえがきかなくなって大粒の涙がこぼれた。後から後から滝のようにながれ、しゃくりあげる。


 食べられてしまう事実よりも、ヴァイに身代わりの生け贄にされたことがショックだった。



 ◇◇



 どれだけ泣いたのか分からないけれど、ふと冷静になった。

 私が号泣している間、魔物は私を食べもせずに何をしているのだろう。


 顔を上げて辺りを見回すと、うずくまった紅竜にもたれて一つ目巨人が座り、竜の頭を撫でていた。



 ……なんか、いい光景。仲が良さそうだ。


「× × ×……」

「っ!!」


 突如背後から話しかけられて飛び上がった。

 振り返ると、そこにいたのは全身黒いアラビア風衣装に身を包んだ黒髪のイケメン。

 思わず目を見張る。


 彼は攻略対象で私のイチオシだったムスタファだ!


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