第六話
今回は少し長いです。
そしてその次の週の平日。大学の授業終了後に待ち合わせて向かうことが決定した。
俺と真冬は違う授業を受講していることが多い。したがって大学で基本、顔を合わせることはない。一緒に帰宅することもあるが、それも大学外で待ち合わせることがほとんど。
それではここで、同じ授業をなぜか多く受講している男を紹介しよう。
上の名を河井、名を創という。河井創。可哀想。ところで可哀想ってかあいそうって読むよね。
「で、その子と今日また顔を合わせるんだ。」と創は板書しながらノートから目を離さずに言った。
「まあな。」と俺は腕を組みながら応える。
創とは大学で知り合った。
彼は名前通り可哀想な人であり、いつだってぼっちである。本人曰く『俺は望んでぼっちをやっている』と言っていた。
だが、以前、彼が壁に話しかけているのを見たのでそれは違うだろう。
「ふーん、で?」
「で、その子がめちゃくちゃ可愛いんだよね。」俺は答える。
「あ、そう。で?」彼は喧嘩を売っているのではない。単純にオチを要求しているのだ。
創は、スーパーハイスペックだ。クールなフェイスながら、ときおり放つ鋭い眼力、頭脳明晰、痩せてるわけでもなく太ってるわけでもない抜群のいけ好かないスタイル。皆無のコミュニケーション能力。あ、最後のは違いますね。
きっとそれを自負している性格などが人を寄せ付けないのだろう。
「まあお前女性に興味ないからな。」と俺。
「女性ってか人間に興味ないからな。そもそもお前も女性に興味ないだろ。」
創はノートから目を離さずに言う。
「いや俺も女性の友達くらいいるからな?」
「友達止まりなのが本当にお前可哀想だな。」
「友達さえもいないお前が言うか?」
他人止まりのあなたに言われたくないんですがね。
「ったくお前友達何人も作ってなんの意味になるんだよ。」
「バカだな。お前は。利用すんだよ。」
「クズだな。お前は。利用って言ってる時点で友達じゃないだろ。」
「お前からまさかそんな言葉が飛び出すとはな。」
あ、別に利用なんて思ってないからね。どちらかといえば利用されてる方なので。
「あのさ、一ついいか?」と創が真面目にこちらを見て真顔で話す、
「あーどうぞ。」と俺はノートから目を離さずに答える。
「お前、今まで俺が人生で会った中で、初めて俺と並ぶくらいのクズだわ。」と創。
俺は真顔で毒を吐く創の方を向くと、努めて静かな声で、
「お前人と関わったの親を除いて俺が初めてなんじゃないか?」と会話を終えた。
その日、授業を終え俺は校門で真冬を待つ。
少し待つと、校門からこちらに歩いてくる一人の影。帽子を深く被っている。
「は?ま、真冬……?」
「いやちょっと男性っぽくしようかなって思ったら案外男っぽくなっちゃって。」
真冬は、キャップをかぶり、パーカーを着ている。そして青のGパン。男の娘になっている。
「まあいいや。行くか。」
逆になんか普段よりドキドキするんだが……。
「うん。」と真冬は帽子を深くかぶり直すとうなずいた。
俺らはサイゼリアで四人席に案内してもらってソファー側に座って待つ。
「望?サイゼリアって……?」とキャップを深く被った真冬に話しかけられる。
「え?本八幡第一号店に置く大人気ファミリーイタリアンレストランだけど?」
「誰もそんなこと聞いてないよ!なんでポイゼリアにしたの?」
「いや割と普通じゃない?」
「嘘…でしょ?相手女性だよね?」と怪訝そうな顔をしてこちらを伺う真冬。
「うん。」
「本気で言ってるの?」
「え?そうだけど。」
「だから彼女できないんだよ……」と呆れる真冬。
「失礼なこと言うなよ。」
わかってないなーと首を振る真冬。
だが何かを見つけたように
「あの子じゃない?というかめちゃくちゃ綺麗だね。」と言う。
真冬の視線を追うと
「おー」と俺から声が漏れたくらいには顔の整った女性がこちらを伺っている。
「こんにちは。」と近づいてきたその女性はやはりどこか見たことがある。
「あ、そこに座ってください。」と真冬が座るのを進める。
声バレしないために少し声を低く変えている。
「はい、」と女性は俺と対面になる形で座る。そこで目が合う。
一、二、三、四、五、秒。
そこで女性が赤面して視線を外す。
「す、すみません。」
「あ、いやこっちこそ。」
「もう……。」と呆れ顔の真冬。
「よろしくね。」と俺は取り直す。
「あ、自分真…夏と言います。」と真冬。
ウィンタバレると思ったんかな?にしても真夏って……と少し笑ってしまう。
「何笑ってるの?」とまあまあな睨みを効かせている真夏さん。
「あ、いや。で、俺がベル。改めましてよろしく。」俺は頭を軽く下げる。
「はい、よろしくお願いします。」と合わせて頭を下げる女性。
「ちなみに、どうして一緒に働いてくれるって話だったっけ?」
「大学生なんですけど、周りが色んなところで経験してるなかで自分も興味をもったところで働きたいと思いまして…好きだからってよりは近くで働いてみたい…と…」
「そんなに堅苦しくなくていいんだけど、本気だよね?」
「はい。」
「結構荒い仕事だけど大丈夫?」
「はい。大丈夫です。」とこちらを見据えてうなずく女性。
「名前を聞いてもいい?」
「え、えっと蘭です。」と女性。
蘭…?ってのがやっぱりどこかで聞いたことある。
「ねえ、俺とやっぱ他で会ったことない?」
「い、いやない……と思います」と女性。
どこかで見たことある面影が…。まあどうでもいいんだが。
「了解。で、詳しい話じゃ、ここではできないんだけど、」
と、ここで考える。
もしも花峰さんがゴシップ系の人だったり、ただのリスナー、あるいはアンチの差金だったら。
というのはどういうことかと言うと、もしもこのまま家に連れて行ったら住所特定となる。
じゃあどうすればいいのか?
「私の部屋……くる?」と真冬が聞く。
「お前それはだめだろ。」
真冬の部屋でも話せないような内容だ。
「の…ベルの部屋のほうが、駄目じゃない?」気まずそうな顔をしてこちらを見る。
「私はどこでもいいですよ。」取り直すように花峰さんが応える。
うーん……。どうしようか。
と、一人の男の顔が浮かぶ。おい、あいつがいたじゃねえか。
「ごめんちょっと待って。」と俺は携帯を持って席を離れる。
店の外にでると、ある人物に電話をかける。
「もしもし」
『あ?なんだよ』と気だるそうな声。
「まあ落ち着けって。これからお前の部屋行くけどいいか?」
『しばき倒すぞ』と低い声で脅されるが、慣れっこである。
「女子二人一緒だ。」
『だからなんだよ。』
「まあ別に暇だろ?頼むから部屋の一部貸してくれ。」
『ったく仕方ないな。何時頃?』
「まあ三十分でつく」
『了解。』
創だ。
創と真冬に面識はない。彼らは同じ大学にいながら、授業で居合わせることはないのだ。創とは家が逆方向なので一緒に帰ることはない。
だが、それぞれに互いの話はしている。創には真冬の素晴らしさを。真冬には創のクズ具合を。
「いいとこあったわ。移動しよ。」
「どこ?」と尋ねる真冬。
「クズの家だ。」
「創くんの家?」と真冬。
「ああ。じゃあ行くか。」
「あ、はい。」と荷物を持ち用意をする蘭さん。
「ここに呼び出して悪いね。」
「大丈夫です。」
「僕はどうすれば?」と真冬。
「お前は来てもらわないと困るな。悪いな。」
「そ、そう。わかった。」と真冬はうなずき用意する。
彼らが行ったのはサイゼリアです。みなさんが行くところはサイゼリヤです。
今晩二十時頃にもあがります。
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