第一話
「真冬ー聞こえる?」
「あ、うん。聞こえる。開いた?」
「おう。」
「おっけー」
俺はその返事を確認すると、マウスをそのまま近くのチェストへと持っていく。
チェストの中には一つの本がある。
本を自分のアイテムボックスへと持っていく。
ちょうどメンバー表示にHuyuと出る。
「入れたよー。というか今回脱出?苦手なんだけど…」
「大丈夫だ。俺がついてる。」と俺は答える。
さて僕らはどんな関係でしょうか!
一、リア充
二、親友
三、神々の遊び
正解は二。
俺の名は涼峰望。あることを除けば普通の大学生である。
あることとは、配信者であること。
顔出しはしていない。年齢も公開していない。そこそこ有名な配信者だ。
基本的な活動は凸待ちやゲーム実況。
凸待ちとは、スカイプIDを画面に置いておき、リスナーがそこに電話をかけること。内容は悩み相談が多い。
頻度は基本週末二日。土曜日の夜と日曜日の昼。たまに不定期。
配信者は稼げる。まあ駆け出しのブラック企業サラリーマンくらいには。
主な収入源は広告。ごくたまにくる案件。それにグッズ。広告に関しては、自分はお小遣い程度の収入で良いと思ってるのでほとんどつけていない。
配信者によってはめちゃくちゃつけてるところもある。
もちろん、広告はつければつけるほど、金になる。広告とは金のなる木同然のものなのだ。
で、今俺が通話してるのは藤堂真冬という友達。
真冬は俺と中学から同じ学校である。よくゲームをして遊んでいる。
少し茶髪でボブの髪型。背は俺より少し低いくらい。普通に可愛いながら全く男の噂はたたないという奇跡の女性だ。
理由は僕という一人称などで引かれていること?だろうか。
そんな真冬は俺の親友だ。友達以上恋人未満と言えないあたり悲しいが。
「何を言ってんの?」と少し呆れた声で返答する真冬。
「冗談だ。進むぞ。」
で、俺が今プレイしているのはある有名なサンドボックスゲーム。
ネットで配布されている脱出ワールドをダウンロードして二人で遊んでいる。
「はいはい。」と真冬。
真冬は俺が配信者であることを知っている数少ない人間である。
「今回隙間多いの?」と真冬。
「一応あるらしいけど。」と俺は先程チェストに入っていた本を読みつつ反応する。
隙間というのは物と物の隙間に隠れチェストがあるか、ということだ。
「そうなのねー。」と言う真冬の声の後ろでカチカチという音が聞こえる。
「ま、ぼちぼち時間もあるしやろうや。」と俺。
「そうだね。」と真冬。
「難易度はピースフル、もちろんモードはアドベンチャーで。あとは…まあこんなもんか。」
「了解ー」と真冬。
「おっけ?」
「うん。じゃあ進もっか」
やっと設定が終わって、俺らはチュートリアル部屋を抜ける。と言っても前の壁にあるボタンを押すだけ。
サンドボックスとは、ゲームのタスクやクエスト類が存在せず、プレイヤーが自分なりに目的や目標を決めて遊ぶゲームシステムである。
魅力はなんと言っても自由な点。今回遊んでるような配布ワールドもその自由によるものだ、
そこに最も尽力しているアイテムがコマンドボックス。ほぼプログラミングである。コマンドを打ち込み、この動作をプレイヤーが起こした時、こう作用させるというのを決めるもの。
その御蔭で、ボタンを押せば物語が始まるってわけだ。
チャット欄に物語が流れ出すのと同時に、二人まとめてどこかの庭に飛ばされる。前には大きな屋敷。
『ったくなんで俺がこんなとこ取材しなくちゃいけないんだ』
記者設定か?お前が入る会社間違えたんだよ、と言ってあげたい。
『ここから入るのか?』
俺たちは玄関前に飛ばされる。
『少し不気味な雰囲気だな。』
見ればわかる。早く入れ。
『にしても、なんで既に明かりが?』
見ると窓から明るみが漏れている。
「なんか怖そうだね。」と真冬。
「まあ確かにな。てか割と二階に明かりが灯ってるのってメタい気がするけどな。」
もちろん明るくないと脱出ゲームどころではない。だがそれをもともと二階に灯すのはあまり良い手ではない。
『入ってみるか。』
俺たちは中へと飛ばされる。
『どなたかいますか?』
……返事はないただの屍のようです。
『誰もいねえのかよ!ったく帰るぞ。』
脱出ゲームあるある。異常なほど独り言が多い。
強制的にドアの方を向けられる。
『って鍵かかってるじゃねえか!絶対ここから脱出してやるからな!』
というところでやっと動けるようになる。
「なんだこいつ。不法侵入に加えて、人いないからってブチ切れて脱出決意ってどんな設定だよ。」
「まあまあ、進めよ」と少し笑いながら宥める真冬。
俺たちは最初の部屋を抜けて廊下に出る。
「ここから行こう。」と通路向かって右の部屋に入る。
「はいはい。」と呆れた感じでついてくる真冬。
「なんか見つかった?」と俺。
「かまどのなかに日記一。多分あの冷蔵庫開けるのに使うんじゃない?」と真冬。
使うとは、暗号解読のヒントということ。紙に答えを書いて投げ入れたり、ボタンの押し方によるものだったり解決方法は様々。
「読んでみて。」
「ミートは十八、リーフは六十四、ストロベリーは五。それではアフタヌーンは?」
「それ英語?」
「うん英語だよ。僕はもうわかったかなー。」と真冬。
「まじ?」
少し静かに考える。
「お手上げだ。教えてくれ。」
「英語を日本語になおすと、ミートが肉、リーフが葉っぱ、ストロベリーがいちごでしょ?九九っぽくなってるんだよ」
「てことはアフタヌーンが午後だから……二十五か。」
「そういうこと」
「はー。すごいな。お前」
「まあね」と得意そうな真冬。
「で、冷蔵庫に投げ入れるのか。」
「うん。」
『鍵の開く音がした』とチャット欄に表示される
「流石やな。この調子でやってこ。」
「うん」
そして三十分後
『どこかで鍵の開く音がした』とチャット欄に表示される。
「やっとクリアー」と俺は叫ぶ。
「望そんなやってないじゃん」
「俺もやってるじゃん1」
「というか、大丈夫なの?配信。」
ん?と思いデスクトップの時計を確認する。
「あ。やばい。五分遅刻だ。」
「はあ、もう知らないからね。」という言葉と同時に通話の切れるベルの音がする。
「またやられるな。」
スカイプの画面を閉じて、配信の準備をする。
自分が使用してる配信サイトでは開いてないときでもコメントが打ち込めてしまう。
あくしろ。
待機。
遅刻確定
遅刻乙
待機。
おそすぎね?
五分遅刻。
何やってるん?
ぶっ◯すぞ
タヒね。
コメント画面は罵倒の言葉で埋め尽くされていた。
基本二十時に投稿しています。明日も読んでいただけたら幸いです。
是非感想お願いします。破綻、誤字脱字もよければご指摘お願いします。