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一人による会話ごっこは、人目にはおかしな事だと自覚しているのでしょう、ワープ君は、通行人が途切れた瞬間、瞬間に、声に出すのでした。
「ぼくはですね……実は、病的なまでの方向オンチなのです。わはっ」
「行き先が目に見えていても、それでもうっかり道に迷っちゃうんです……」
現在の位置は、洲本市内の、国道28号上です。パムホのマップに現在位置の表示がないのですが、今し方、横目にそれと認識できた県道76号の橋、「洲本橋」が、ランドマーク(その土地の目印)になったので、把握できたのでした。
もっとも、普通の人にとっては、そんな大仰なことではありません。これは、いかにワープ君に土地認識能力がないかを物語る、一例だったのです。
「今は助かってます。なんせ、洲本川が横を流れていますから。それに沿って歩けばいい」
「でも……」
「国道28号は、道の右側にしか歩道がないでしょう……?」
洲本川は、ここから見て、国道の左側にあるのです。だから、川が少し遠い。
「もっと川の側を歩ければいいのですが……」
「次の橋を渡って、川の右岸(体を川下に向けて、右手側の岸)を歩きませんか?」
そして、
「そうしましょう。ありがとう」
子供らしくニコリとするのでした。
目出度く相手(?)と交渉が成立したようです。ところが、あに図らんや、これが一つ目の事件だったのでした。