14
中は、先客が一人だけというガラガラ具合でした。淡路島は鉄道がないんだから、もっと利用してくれたらいいのに、と他人事ながら心配してしまいます。
それでも、今にかぎっては都合がいい。
自動運転バスですから、ワイドビューの前席が空いてます。先の乗客が右側に座っていたので、自分(たち)は左側のペア席に座ります。もちろん、女の子には窓際を譲ります。その隣に腰掛け、リュックを脱いで、前で抱きかかえるようにしたのでした。
ところでワープ君。せっかくの良い席だというのに顔を上にばかり向けています。というのも、車内にそこしかない、案内パネルを見つめていたからでした。ワープ君、乗る場所、下りる場所はチェックしましたが、それ以外は調べていなかったのです。つまり、いつ、下りる場所になるのか、ずっと監視し続けなくてはならなかったのです。うっかり見逃したらバスごとゾーンアウト。これまでの苦労が水の泡というものです。
ですからせっかくの窓の景色が楽しめません。これは失敗したぞ、少しばかりワープ君は残念がったのでした。
そのときです。
「ぼうやはどこまで行くんだい?」
先の乗客、白髪まじりの、優しそうな小父さんが声をかけてきたのでした。心配そうなワープ君の様子に気づいたのでしょう。
ワープ君、心遣いに嬉しくなって、ハキハキと答えたのでした。
「はい、“しろいえ”てところで降ります!」
すると小父さんは、少し目を丸くし、こんなことを言い出したのです。
「おやおや、ぼうや。気の毒だけど、この路線に、“しろいえ”て呼ばれる所は、ないんだけどねぇ……」
「ええっ!?」
顔が真っ青になります。虚を突かれるとはこのことで、本当に驚愕したのでした! よりによって、こんなところでミスってしまったとは――!
ところが、ここで小父さんが朗らかに笑ったのです。
「アハハ、“しろいえ”て所はないが、代わりに、“じょうけ”て所ならあるよ。“城家”と書いて、“じょうけ”と読むのさ。
ちなみに、ぼうやが乗った場所は、“くじめ”と言うんだ。
ごめんごめん、驚かせてしまったねぇ」
「――なあんだ、びっくりしてしまいました」
「ちゃんと教えてあげるから、安心しなさい」
「お願いします!」
「城家という地名は、領家から変化したというのが通説でね。言葉のとおり、遠く鎌倉時代、さらに言うなら平安時代からの領地争いに、その由縁があるのさ……」
小父さん、面白おかしく語ってくれたのでした。
「――ありがとうございます!」
暖かな気持ちが胸の内を流れます。
パムホ経由ではない、人からもらうことができた情報と、感情でした。
体の中で、こう、幸せが一気に膨らんだかのようで――!
ワープ君、旅してよかったと、心から思ったのです。
第2目的地、「城家」到着です。小父さんにお礼を言って、バスを降りたのでした。
久次米から城家まで約7.6kmを、14分で来たことに。
これ、歩きだったら、疲労も加味して、2時間は掛かっていたと思います。さすが乗り物は速いですね! そして――
さぁ、残るはただ一つ。
約4.6km先、最終目的地、すなわち、ゴールです。




