第48話 強欲の杯は満たされず
あいやしばらく
目を瞑ると決まって同じ夢を見る。
貴女の首が落とされた、あの場面が何度も何度も映される。
何も出来なく、手を差し伸べることすら出来ず。
あの時の私はなんて無知で、そして無力だったのだろうか。
たった一人の少女が幸せになるために、その為だけに生きたはずなのに。
夢の中でくらいあの子を救えても良かったはず、だけど夢は私には優しくなかった。これがお前の罪だと言わんばかりに、私にそれを突きつけてくる。
「ん……」
少女は目に涙を溜めながら、ゆっくりとベッドから身を起こします。
「随分とうなされてたみたいだな」
「ええ、今日のはちょっと一段と酷くてね」
レイカの悪態をするりと聞き流し、少女は自分のカードを確認します。
「GREED」と書かれたそのカードは、良くも悪くも少女自身を表しているのは明らかでした。
彼女自身の願いへの強欲さがそうさせたのか、それともレイカの強欲さが移ったのか。
「おい……!」
レイカに呼ばれ、少女は我に返ります。
「今回は見に行かねぇのか?赤ずきんの公開処刑を」
「行かないわよ、だって私が赤ずきんなんですもの」
ケタケタと笑う少女にはもう、人間として大切なものがこぼれ落ちていっているように感じます。
一人の少女を助けたいという、ただそれだけのしかしとても大きな「強欲の杯」は、どんな事があっても埋まることはないのです。
「ジャンダを殺しに行くわ」
「随分と焦ってるじゃねぇか」
「なんだか胸騒ぎがするのよ」
そう言って少女は、足早にジャンダの住む小屋に向かいます。
山奥にある忌まわしきジャンダ、少女が魔法を使う為のきっかけを作った元騎士団員。
「来るのは分かってたよ」
「ええ、お出迎えどうも」
向かい合う二人、目を合わすだけでジャンダは全身が震える感覚に見舞われます。
まるで本能が警告を出しているかのような、そんな異様な雰囲気を年端もいかぬ少女が纏っているのです。
「悪魔が来るのは分かってた。でも、契約悪魔だなんてね」
「誰が契約悪魔ですって?」
少女が両翼を広げ、目の色を変えます。
「いやぁ、知ってる悪魔の気配がしたものだからね、契約悪魔だと思っただけよ。その感じからするとネームドか……」
ネームド、言葉通り名前付きの悪魔のことです。
災厄の悪魔、変化の悪魔。低級悪魔とは違う1人だけで強大な力を持つ悪魔のことです。
「名くらいは名乗ってもらろうか、死ぬ前に名前も言えないのは屈辱でしょ?」
「名前……名前ねぇ……」
少女は悩むように首を傾げ、目を瞑り考えます。
「私は大罪の悪魔。強欲に暴食をし、色欲を満たす為に嫉妬をしてみたり、怠惰な停滞を促し、傲慢な態度で憤怒する。そんな全ての罪をこの身で表し、全てを壊す悪魔よ。一人の少女を守るためにね」
怪しい笑みを浮かべながら、少女はトランプを取り出します。
「災厄の悪魔が作ったのが大罪の悪魔だなんて、なかなか皮肉が聞いてるんじゃないの?」
「あいつはそこらのネームドより格が違う。なんせ俺とお前が中にいるんだ」
レイカと変化の悪魔の会話が頭の中で響きます。
変化の悪魔と災厄の悪魔、そこから生まれた大罪の悪魔。
憎むべきものへの慈悲など一切無い、今の少女にこれ程似合う名前はありません。
「GREED」
少女は「GREED」のトランプに手をかざし、魔法陣を光らせます。
「さぁ、初のお披露目をさせてもらうわよ」
自分を包み込んだ魔法陣を叩き割り、少女は姿を現します。
右手には拳銃、左手には鉈。
生えていた翼は大きなリボンに変わっています。
手の魔法陣はトランプ解除の魔法にしか反応しなくなった、完全に過去の「レイカ」の戦闘スタイルです。
「強欲のカードはその時貴女が欲する姿に貴女を変えるカード。まさに強欲にね」
強欲さ故にあの少女になってしまったと付け加える。
地面の水溜まりを見ると手に持っている物以外は、幸せになれるはずだったあの少女の姿そのものなのです。
きっと誰にも害されず、悪魔なんかにも会わず、良い家族に巡り会えていたら。きっとこうなっていたであろう姿をしているのです。
自分が目指すべき場所はこうだと示されているようで、しかしながら手に持つものが幸せへの足枷と言わん対比を生み、少女の表情をぐちゃぐちゃにしました。
「ジャンダ……特別サービスよ。私の愛する人の姿で殺してあげる」
少女は振り切れない想いを握りしめ、ジャンダをキッと睨みつけます。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
次回更新はちと早めにやりたいね




