第47話 正義の意味
お久しぶりです。
隣街に着いた少女はボロボロの翼を隠し、よろよろと街を彷徨い始めました。
「いて……!おいそこのガキ!気をつけて歩け!!」
「悪いわね、でもそんな所を歩いてるのが悪いと思うわよ」
路地裏でガラの悪い男とぶつかり、難癖をつけられてしまったのです。
「ガキのくせに舐めた口きいてくれるじゃねぇか」
男は少女の胸ぐらを掴み、そのまま持ち上げます。
「顔は随分可愛いじゃねぇか、仕方ねぇからその体使わせるなら許してやらんこともねぇぞ?」
少女はその状態のまま、懐から銃を取り出しなんの躊躇いもなく男の頭を撃ち抜きました。
「汚い手で触らないでくれる?この体はあの子の為の体なんだから」
そのまま何かを探すように再び歩き始めました。
「どこに行くつもりだ?」
「教会よ、教会。この街に来てから体が重くて仕方ないのよ」
前回と違い悪魔となった少女には、この街の神聖な空気に体がついていかないのです。
「やっと着いたわね」
前回少女が壊滅させた教会に辿り着きました。
「前回同様聖職者が集まってやがるな」
「仕方ないでしょ、そういう時間軸なんだから」
問答無用と言わんばかりに少女は教会の扉を蹴り飛ばしました。
「誰だ!?」
「初めまして皆さん、そしてさようなら」
1番初めに振り向いた神父を銃で殺し、少女はゆっくりと女神像に向かって歩みを進めます。
「この気配……悪魔だな!」
「あんたは……」
少女の前に立ち塞がったのはジルでした。
あっけなく少女に殺されたジルが今回は意気揚々と立ち向かってきたのです。
「エクソシストのジルね」
「なぜ俺の名前を知っている!」
「そんな質問に答える気はないわよ、今回はしっかり私が殺してあげる」
鉈を取り出し手に力を込めます。
少女の顔は何故か笑顔でとても楽しそうな表情をしています。
「悪魔が何しにここに来た!」
ジルはレイピアを構えそのまま少女に突進してきました。
「その目障りな像を壊しに来たのよ」
軽々と鉈でレイピアを弾き、そのまま2人の撃ち合いが始まりました。
「あんたは何のために剣を振るうの?」
少女はマギルにした質問と全く同じ質問をジルに問いかけました。
「この世の悪魔を滅ぼすためにだ」
「じゃああんたの野望はここで終わるわね」
少女の鉈がジルの頬を掠める。
頬からは赤い血がゆっくりと流れ、ジルの体に緊張が走る。
「この世に必要な物はなんだと思う?」
「は?」
「だから、この世の中に必要な物ってなんだと思う?って聞いたのよ」
2人の戦いの様子を神父達は、ただ見てることしか出来ません。
誰一人として加勢しようなどとは思えません。
「そんなもの正義に決まってるだろ」
「正義……正義ねぇ……」
その発言を聞き、少女はクスクスと笑い始めました。
「何がおかしい!」
「この世に必要なのは共通でなおかつ平等な絶対悪だよ。誰からも憎まれ、恨まれ、罵声を浴びながらもその悪を貫き通す。そんな悪こそがこの世には必要なのよ。悪にだって正義があるんだから」
先程とは反対に少女の頬をレイピアが掠る。
少女は自分の頬から垂れた血を舐めます。
「あなたは数多の人間から殺意を向けられたことはある?ないわよね?無実の罪で断頭台に立たされたことは?」
「お前は何を言っているんだ!」
「私はあの子のために絶対悪になるって決めたのよ」
レイピアを弾き飛ばし、口の中に銃口を突っ込みました。
「残念、あの像のせいで体が動かないから少しは楽しめるかと思ったけど、チェックメイトよ」
ジルは初めて出会う謎の恐怖にもう抵抗することも出来ず、身体を震わせるばかりでした。
「God is dead」
神は死んだ、と皮肉な言葉を残し引き金を引き、そのままジルを撃ち殺しました。
「あなた達の頼みの綱は居なくなったわよ。どうするの?」
「ジル様の仇!殺してやる!!」
順番が変わっただけで全員を殺すのは変わらず、教会には神父の山のような死体と、崩れて原型を留めていない女神像のような何かが残っていました。
「今日はなんだか随分と機嫌が悪かったんじゃないか?」
「なんでかしらね、平和そうに生きてる人間を見てイライラしたのかもね」
少女は既に治っている頬を触りながら自分の持っているカードを眺めます。
「ねぇ、あなたはこの世に必要な物はなんだと思う?」
「そんなの決まってるだろ……?欲望だよ」
ヘンゼルとグレーテルのトランプから、少女と同じ姿をしたレイカが現れ、そう答えます。
「欲望こそが人を、世界を狂わせる。欲望と欲望が渦巻く螺旋階段を、絶望という出口に向かい人を歩かせる。人間っていうのはそこに絶望があるというのに歩くのを辞められないんだ、欲望に抗えないからな」
レイカはあの少女の姿に体を変化させます。
「お前もその欲望に取り憑かれてる哀れな人間なんだよ」
レイカはあの少女の声で少女の首に鉈を近づけます。
「私はもう人間じゃない、その哀れな人間を喰らう側の存在よ。あの子を救うという欲望こそ捨ててないけどね」
鉈を素手で押し返し、少女はヘンゼルとグレーテルのカードの効果を切りました。
「お前のそれはもう欲望なんかじゃねぇよ。狂気なんだ」
消えながらレイカは不敵な笑みを浮かべました。
「変化の悪魔、あなたは私をどう思う?」
「良い意味でも悪い意味でも狂ってると思うわ」
「あの子を救うためにこんな行動をする私はおかしいかしら」
少女は大きく両翼を広げ体を楽にします。
返り血で赤く染った服を見ても、少女はなんとも思いません。
まるでそれが当たり前だったかのように、そういう模様だったかのように気にもとめません。
「おかしくなんかないわよ、だって勝者だけが正義なんだから。あなたは勝てるまで何度でもやり直せばいいのよ。まさに強欲にね」
すると、少女のキングのトランプが輝き、姿を変えたのです。
「変化の悪魔……随分と皮肉を効かせてくれるじゃない」
少女が持つキングのカードには英語で「GREED」と描かれていました。
その意味は「強欲」
「キングと私にピッタリって訳ね。このカードは一体何になるのかしらね」
「きっとあなたの役に立つわよ」
その言葉を聞き、少女はトランプをケースに戻しました。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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