第25話 元騎士団のジャンダ
お待たせしました!
4日以内に更新出来ました!
では、本編をどうぞ!
日の出にはまだ少し早い時間、少女はベッドからむくりと起きて教会から出ていく身支度を始めます。
「どうだ、体に変化などはないか?」
「ええ、大した変化はないわ。少し体が軽くなったような気がしなくもないけども」
少女は自分のおなかを少しつまみ、体の変化を確かめます。
「痩せたのかしら……」
「あれだけの運動量を動けば痩せるんじゃないのか?人間の体のことなんぞ興味ないから知らんがな」
レイカの言葉を聞きながら着替えをし、少女は全ての支度を終わらせました。
少女が部屋から出ると、死んだ神父達の腐敗臭が漂っていました。
「今は冬なのにこんなにすぐに腐るものなの……?」
「暖炉がついてて暖かかったからな。そのせいで腐敗が早かったんだろう」
屍を眺めつつ、少女は教会の出口に向かいます。
「今日は赤ずきんが俺の身代わりになって処刑される日だ。この街にも噂が広まっているかもしれん。注意をして聞き込みをしていけよ」
赤ずきんと言われ、少し体をピクリとさせ一度立ち止まりましたが、少女は小さなため息をついて再び歩き始めました。
「どうした?赤ずきんにでも同情したか?」
「そんなんじゃないわよ。だだね、見たかったなぁ……って思っただけ」
その言葉を聞いたレイカは笑い声を押し殺すので必死でした。
この少女は確実に悪魔になり始めている。目的の人間を助けるために本能的に心まで悪魔になろうとしているのだ。
まるで、あの目的の人間以外は殺しても構わないと言わんばかりに心が堕ち始めているのです。
「何なら見に行くか?」
「いいの……?」
「まだ日の出前だ、今から急げば処刑の時間には十分間に合うだろう」
少女はその言葉を聞き、満面の笑みで教会から飛び出して、片翼を使って元居た街に移動を始めました。
街に着き、少女は屋根に降りて広場がよく見える位置に移動します。
広場ではすでに処刑の準備が始まっていて、広場には溢れんばかりの観客が押し寄せています。
少女は断頭台にいる人物に目をやりました。
そこには昔レイカが着ていた物と全く同じ服とポンチョを着た赤ずきんらしき少女がが、断頭台に首をのせていました。
「あれが赤ずきんね」
「ああ、本当にあれは傑作だった。偶然来た服と全く同じ物を着た女がいるなんてな」
レイカは思わず声を出して笑い出しました。
しかし、その笑い声は少女の頭の中にしか響きません。
「そろそろ始まるみたいね……」
執行の時間が来たのか、執行人は断頭台の横に立ちました。
「お願いします!助けて!私は何もして…………」
赤ずきんの言葉を遮るように、断頭台の刃は少女の首を切りました。
ボトンッ!という音と共に赤ずきんの首が床に落ち、その瞬間周りの国民たちから歓声が上がったのです。
赤ずきんはレイカの身代わりとして、何も罪が無いのに殺されてしまったのです。
少女はその姿を見て、なぜか涙が流れてきました。
「どうした?」
「いや…… あの時を思い出して……」
少女の脳裏には、あの時レイカが処刑された時の映像が再び流れ始めてしまったのです。
「今お前はそれを変えるためにここにいるんだろ?クヨクヨしてる暇があるならさっさと戻るぞ」
あまりにも辛辣な言葉に怒りを覚えるかと思ったが、少女は素直にそれに従い片翼を使い空を飛ぼうとしました。
しかし、その時。少女の目にある人物が映りました。
「レ……レイカ……!」
そうです。少女は自分自身が今一番会いたい人物を見つけてしまったのです。
「会いに行こうなんてするんじゃないぞ?まだだ、まだその時じゃない」
いつも以上に真剣な声色で話すものですから、少女も不満そうでしたが渋々納得し再び片翼を使って飛び上がりました。
「ねぇ…… なんで、あの時会っては行けなかったの?」
誰にも見られないほどの高さまで上昇し、少女はふと思った疑問を投げかけます。
「そんなの簡単だろ。あの時、俺はお前に会っていないからだ。お前に始めて会うのはもう少し後なんだよ、だから今会うと色々と問題が出る」
その理由を聞き、納得をした少女は昨日言われた元騎士団探しを始めるために急いで街に戻ります。
少女が街に戻ると、教会付近が騒がしくなっていました。警察に昨日少女が殺した神父たちの屍が見つかったのです。
教会には警察や野次馬の他に鎧を着た男たちが数人集まっていました。
「騎士団ってあれのこと?」
少女は屋根の上から様子をうかがいながら男たちを眺めます。
「あれはマギル達がいた騎士団じゃねぇな…… 邪魔だし始末しとくのも手だ」
しかし、少女は怪しく笑いその提案を一蹴しました。
「いや、少し泳がせることにするわ。その元騎士団とか言う奴らの手がかりが掴めるかもしれないしね」
その後少女は教会とは反対方向にある市場に向かい、店の人々に聞き込みを始めました。
「あの…… すみません…… 少し聞きたいことがあるんですけど……」
少女は小さな喫茶店に入り、少しか細い声で店主を呼びます。
「いらっしゃい小さなレディー。何を聞きたいんだい?この喫茶店は沢山の情報が飛び交う場所だ。きっと君の探す答えも見つかると思うよ」
制服姿の老紳士が少女の前にコーヒーを置き、洗い終わったコーヒーカップを磨き始めた。
「あの…… これは……?」
「小さなレディーへのサービスさ。砂糖とミルクはどうする?」
「ありがとうございます。あ、ブラックで大丈夫です」
少女はコーヒーを一口飲み、話題を切り出します。
「あの、この街に元騎士団だった人がいると聞いたのですがご存じないですか?」
「ああ、ジャンダのことかな。この街で元騎士団と言ったらその女性しかいないさ」
老紳士はそのジャンダという女性の写真を少女に渡し、ジャンダについての話をします。
「ジャンダは13歳にして騎士団に入ったんだ。あの時の騎士団は化け物じみた人間が多かったが、ジャンダが一番だと言われていたよ」
「それは何でですか?」
磨き終わったコーヒーカップを棚に戻し、老紳士は自分が飲むためのコーヒーを作りながら少女の質問に答えました。
「本当かどうかは定かではないが、ジャンダは”天の声”が聞けるという体質だったんだ。彼女は予言したかのように事件が起きる一歩手前で、その事件をを収める為に動き始めるんだ」
「”天の声”ですか……?」
「ああそうだ。最初は他の騎士団の連中も信じることなく勝手にやらせていたんだが、どんどん事件を解決していく姿を見てその力を頼るようになったんだ。しかし、彼女は国同士の戦争中に”天の声”に背いて動き左手を切り落とされてしまったんだ」
老紳士は話し疲れたのか、コーヒーを一口飲み近くの椅子に腰を掛けた。
「それで、騎士として活躍することがもうできないと言って戦争後に騎士団をやめたそうだ」
最後に締めくくり、これが私の知っている情報の全てだと言わんばかりの顔で少女を見つめます。
「その人が今どこにいるのかってのは分かりませんか……?」
「確か、街はずれの山奥に隠居したって話を聞いたことがあるが正確には分からないね。役に立てなくて済まない」
老紳士に礼を言い、少女は喫茶店を後にしました。
少女が喫茶店を出ると日が沈み始め、夕方になりかけていました。
「レイカ、ジャンダって人は本当にその”天の声”ってのが聞こえるの?」
「そうだ。生憎俺がやらかすことの予言までは頭が回らなかったみたいだがな。しかし、この状態であいつと対峙するのは相性が悪いな……」
レイカの声を聞き、少女はクスリと笑いました。
「大丈夫よ。あの子を救う為なら、私はどんな卑劣な手も使うから」
そう言って少女は街はずれの山奥を目指して歩き始めました。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
次回更新も4日以内にしたいと思います。




