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第二十八話

 どうすればいい、このままでは人間達は死んでしまう。

 最初の攻撃が火蓋を切ったのであろう。

 仲間も皆攻撃に無我夢中になり、統率はもはや取れていなかった。


「ケツァルコアトルっ! 貴様は最初からこうするつもりでっ!」


 魔王はそこにはもう居ない相手に激怒した後、大きく落胆した。


 未だに続く攻撃の手は今、人間達を大いに苦しめているだろう。

 放たれる金属の塊と同時に起きるこの乗り物を揺らす振動はその後に聞こえるであろう、人間達の叫び声が脳内に響き渡る気がした。


 人間達はどうやら対抗手段を持っていないみたいだ。

 このようなことになると分かっていればこちらも馬車に乗って来るべきだった。


 そして、いつの間にか黒く禍々しい何かがこちらに迫ってきていることに気付いた。


「まさか人間がドラゴンを使役しているなんて思いもよらなかったな……」

「魔王様! 勝手ニ行ワレテイタ操作ガ今途絶エマシタ! ドウカゴ命令ヲ」

「分かった。各員に伝える、そのまま待機せよ!」



 これで攻撃は止まるだろう。

 さて、こちらに向かってきたこのドラゴンと、その背中に乗る人間をどうしたものか。


 豪華な食事でもてなすか? いや、あのドラゴンと人間は完全に臨戦態勢だ。

 考えているうちに、いきなりの爆発音が聞こえる。


 その爆発音の正体は、あの高速で空を(かけ)る乗り物だった。

 まずい、確かに俺はヤマトには指示したが、向こうに浮かんでいるクーボとやらには一切の指示をしていない。


 怪しい者が魔王が乗る周りをうろついていたら確かに攻撃してもおかしくは無いだろう。


 飛んでいる艦載機はまるでカラスの様に、あの者達の上を旋回し、爆撃を続けている。

 攻撃機も周りを飛び、様々な方向から弾丸をばら撒いている。


 と、どうやらドラゴンも、ただやられているだけではなく、反撃を開始する。


 広がるは霧、どうやら氷魔法の類だろうか。

 周りを飛び回っていた無数の艦載機は、次々と失速し、落下していった。


 ちなみに魔族はほとんどの者が魔法を使える。

 そして、俺はたまたま魔族の王の孫に生まれたため、今までずっと将来の魔王になる為の教育や訓練を受けてきた。


 だが、人間と良好な関係を結びたいと言う目標は決して変わりはしなかった。

 

 俺の思いはこんなにも強い、なのにッ!

 理想と現実は大分違ってくるものだ。


「嗚呼、部下達よ、本当に申し訳ない。お前達を統べる魔王が不甲斐ないせいで、無駄死にをさせてしまった……」


 後悔を何時までもしていても仕方が無い。

 次の行動をしようとしたとき、ドラゴンから火炎が放たれる。

 

 これ、まずくないのか? ヤバイッ来るっ!


 だが、戦艦大和に届く前に障壁によって火炎は遮断される。

 そうだったな、ヤマトには常時障壁が発動してるんだったな。

 常時と言っても俺たちが攻撃する時だけは一瞬はずれるんだが。



「魔王様、我慢デキマセン! 攻撃ノ許可ヲ!」

「それはできない」

「何故デスカ!」


 攻撃されて、仕返したいという気持ちは分かるが、俺は人間と仲良くしたいのだ。

 だいいち、先に攻撃を仕掛けたのはこちらのほうだ、攻撃されても文句は言えないだろう。


 そして許可を得ない形で、幹部の誰かが指示を出し、勝手に攻撃をしたようだ。

 その弾丸はドラゴンに当たるすれすれの所を通過し、遥か後方に飛んでいった。


「誰だッ!攻撃はするなと言ったはずだがッ!」

「……」


 反応は無い、まぁそれはよいのだ。

 当たっていたらドラゴンは死んでいただろう。


 次の瞬間、空母から緊急の連絡が来た。

 

「どうした、ロコン」

「大変デスッ! 艦内デ火災発生ッ! 燃料ニ燃エ移リ、ウァァァ!―」


 その空母のほうを見ると黒煙を上げて、高度をどんどんと下げている空母の姿があった。

 そして次の瞬間、爆発した。


「ロコンッッッ!」


 ロコンは俺の考えを分かってくれる数少ない部下の一人だった。

 アイツはいつもも『将来ハ、小サイ子ニ教育ヲシテミタイデス』と言っていた。


「俺は絶対に夢をかなえるから、お前の夢も叶えるからな、だから冥府でも、止まる―」


 言いかけた所で俺は思い出す。


「各員に連絡する、撤退だ」

「何故デスカ!」

「これ以上続けても意味が無いと考えた」

「……ワカリマシタ」


 俺は撤退命令を下し、艦隊を旋回させる。

 魔族の都市に帰ろうと進んでいるその時、突然の轟音。

 それはヤマトの一番後ろに付けられている主砲からだった。


 その弾はドラゴンの不意を突き、直撃した。

 当たった弾は爆発し、ドラゴンは黒煙の中から落下していった。


 もしあのドラゴンと背中に乗っていた人間が攻めてきたらどうしよう。

 俺は帰る途中、そればかり考えていた。

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