第十九話
洞窟を出て、少し遠くのほうにある城門を見る。
朝から随分と人と馬車で賑わっている。
「すごく賑わってるな」
「まぁ、王都だからな」
そうかー王都だからかー......ッてえッ?
「あれ、王都なのか?もう着いたのか!?」
「ああ、間違いないだろう。かつて喧嘩をした時があったのでよく覚えている。」
随分様変わりをしたと隣で感心するエリー。
だからやたら背中に揺られている時間が長かったのか。
「やっぱり大きいですねぇ」
「早速行ってみるとするか」
城門は特に何をされるということは無く簡単に通過できた。
ただ警備兵らしき騎士の格好をした人達が交代性で入れ替わっているだけだ。
城門を潜り抜けた先の大通りは多くの人で賑わっていた。
「露店とかいろいろ出てるな」
「大猪の肉か、美味しそうだな」
エリーがチラチラとこちらを見て言ってきたので仕方なく屋台で猪肉の串を三本買った。
もぐっ。
案外柔らかいものだな。
猪の肉は食べたことが無かったが少し硬かった。
そういえばもう王都についてしまったのだしアンナを奴隷から開放してあげたい。
「アンナ」
「何でしょう、シュート様」
「今日でアンナを俺の奴隷から解放する」
「えッ!?」
かなり驚いた様子のアンナ。
「何でですか?私に不満でも!?言ってくれれば治しますので」
「そう言う訳じゃないよ」
「単純に奴隷としてではなくて一緒のパートナーとして居て欲しいんだ」
「ッ......」
アンナはどう答えればいいか分からないという様子だった。
そして少し経ってから
「はい、ありがとうございますッ!一生ついていきます、シュート様!」
「できれば様じゃなくてせめてさん付けで......」
「わかりました。シュートさん」
こうしてアンナは俺の奴隷から一緒に旅するパートナーとなった。
この後、どうやら奴隷は正式に開放する必要があるらしく、ギルドに訪れ奴隷解放の申請をした。
カードもアンナの分を発行した。
それにしても王都に来たはいいが何をしようか。
「腹が減ったぞ主」
「そうだな、どこかで食べるか」
近くにあった宿と飲食店を兼ねている店があったのでそこに入り、ついでに宿も取っておいた。
「美味そうだな」
「そうですね、この匂い、そそられますぅ」
「早く食べたいぞ」
運ばれてきたのは大きなステーキ肉だ。
食感と味からして牛肉か?
胡椒が程よく効いていて結構美味い。
「おー美味しそうじゃん」
「そんなに慌てなくてもステーキは逃げたりしないよ」
「まぁまぁ落ち着いて」
どこからともなくそんな会話が聞こえてくる。
あの独特な顔立ちと食べる前のあの掛け声と合掌の仕方......
懐かしいあの感じ、あいつらまさか日本人か!?
「それにしても魔法って便利よね」
「ああ、詠唱するだけで火が起こせたりとかロマンあるよね」
おおよそ見当はついている。
多分結構前に王都で召喚されたと言われる神の使徒達だろう。
それにしても召喚されたのが日本人だったとは。
接触するか?接触してその後どうする?
だめだ、まだ不安要素が多すぎる。
とりあえずこの町に居る限り接触のチャンスはありそうだし、また後ほどでいいだろう。
エリーもアンナも食べ終えたようなので俺たちはその場を後にする。
「美味しかったな」
「あぁ、結構美味かったな。久しぶりに大きい肉を食べたよ」
「とても美味しかったです!ありがとうございます、シュート様」
時間はあるし、皆別行動するか。
「よし、皆好きにまわってきていいよ」
俺は二人に金貨2枚ずつを渡す。
「ありがとうございます!」
「感謝するぞ」
こうして俺たちは別行動を開始したのであった。
―――――――
俺たちは今、ある男の尾行をしている。
「春樹、大丈夫か?こんなことして」
「きっと大丈夫だ」
輝樹は心配そうな顔をして聞いてくる。
少し不安だが彼から少し離れた建物の陰に隠れながら尾行を続けた。
彼を尾行している理由は二つ。
一つは顔が完全なる日本人の顔だったから。
そもそもこの町で日本人風の顔をクラスメイト以外で見るのなんて初めてだ。
二つは、彼が魔術師な可能性があること。
あの独特な感じと魔術師特有のこの周りからオーラを吸い取っているような引き寄せられる感じは彼を魔術師と物語っている。
しばらくすると彼は露店の商人に呼び止められた。
「何をしているの?」
「なんだろ、あれは葉巻か?」
彼はその葉巻を買うとその場を後にした。
そして少し進んだ先でその葉巻に火をつけた。
「あれは魔法だな。何も無い所で火が起こせるはずがない」
「確かにそうみたいだな」
次の瞬間彼は目の前から消えていた。
そこに残っていたのは葉巻の煙だけだった。
「どこに消えやがったッ!」
「分からない。新手の魔法か?」
「ねぇ、どうするの?」
あたりを探しても見当たらない。
その声は突然後ろから聞こえてきた。
「やぁ、ここで何をしているのかな。私に何か用事でもある?」




