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第十七話

 俺とアンナはオルマン湖を一周してきて、近くの草原で休んでいた。

 試しに近くの湖のほとりに近づいてみた。

 オルマン湖はかなり有名らしく、水質もかなり綺麗だ。

 湖の中を見ると前世では見られなかった魚が沢山泳いでおり、かなり個性的な魚が多い。

  

 「綺麗だなぁ」


 将来こういう所に住むのも良いかもしれないな。

 こういうのどかな感じは前の社畜人生だったら考えられなかっただろうなぁ。

 

 「どうだ、アンナも綺麗だと思わないか?」

 「......」


 アンナは水面をじっと見つめて反応が無かった。

 俺は近くによって声をかける。

 

 「アンナ、大丈夫か?」

 「は、はいッ!大丈夫ですよシュート様。それより何か御用ですか?」

 「い、いや。オルマン湖は綺麗だなぁってさ」

 「そ、そうですね」


 どうもアンナの様子が男に絡まれてから様子がおかしいのだ。

 突然俺のことをシュート様と呼び出したり、前まではすぐ隣を歩いていたのに俺より三、四歩ぐらい離れて歩くようになってしまった。

 一体どうしたんだろう。

 アンナに直接聞くのも良いかもしれないが、アンナにとって話しづらいことかもしれないしここはとりあえず様子を見ておこう。


 「次はどうする?」

 「シュート様にお任せします」

 「う、うん......」


 なんか調子が狂うな。

 さて次は何をしようか......




 ―――あれはいつの日だろうか。

 両親はまだ幼い私を借金の担保にし、私は奴隷商へと送られたのでした。

 確か送られたのが十二歳ぐらいでその約三年後に今の私のご主人様であるシュート様に買われたのでした。

 

 四方が土壁で鉄格子がある牢屋に入れられた私は術も無く床に横たわる。

 ベッドなど用意されておらず、ご飯や水なども底の浅いお皿のようなものに入れられて運ばれてきます。

 ご飯があるだけましでしたがここでの生活は家畜同然のようなものでした。

 言うことを少しでも聞かなければ蹴られ、殴られる毎日

 そんな中、私を救ってくれたシュート様に出会いました。

 

 「おい、お前の主人になるかも知れないヤツがきたぞ。さっさと出ろ」


 目が悪くおぼつかない私を男の人は私の髪を引っ張り無理やり歩かせました。

 木製の手錠(てじょう)に金属製の足枷(あしかせ)でかなり歩きづらいなか、客間だと思われる所に着いた。

 私は手錠と足枷を外され、その場に立たされる。

 周りにも私のように女の子が何人か立たされていました。

 

 「この人たちの値段はいくらだ?」

 「そうですねぇ、だいたい金貨25枚ほどでしょうか」


 そんな会話が前から聞こえてくる。

 男の人でしょうか。ぼんやりとしか見えませんが奴隷商の人と誰を買うか話しているんでしょうか。


 (―私が買われたらここより酷い扱いされるのかなぁ―)


 私は正直とても怖かったです。

 彼は私たちを一通り見て周り、考えている様子だ。


 「じゃあこの赤髪の子にするよ」

 「かしこまりました。それでは金貨20枚をお支払いください」


 ッツ!?―

 本当に私でいいのでしょうか......


 「どうして値段が下がったんだ?」

 「その子は生まれつき視力がとても悪くかなり近くのものでもぼやけているようなんですよ」


 私は目が見えないんです。

 それなのにこの人は本当に私を買ってくれるんでしょうか。

 私は希望と恐怖が織り交ぜられた複雑な感情のなか、彼の判断を待ちました。


 「はい、金貨20枚いただきました。まことにありがとうございました」


 えッ!?私を買ってくれたときはとても驚きました。

 そもそも私は目が悪くかなり近くの物でもぼやけて見えてしまうし、歩くのも少しもたついてしまうんですよ?


 「よかったな、まぁ精々性奴隷として頑張れよ」


 看守の人はそう言って名も無いこの女の子を送り出した。


 せ、性奴隷......?

 身も心も、ましては私の貞操を捧げる......?

 目が見えない私はやはりそう言う事でしか生きていけないのでしょうか。


 おそるおそるぼやけた視界から何とか彼を追って歩く。

 彼は歩くスピードを私に合わせて隣を歩いてくれた。

 

 「あ、あなたがわ、私を買ってくれたんですか?」

 「うん、そうだよ」

 「あ、ありがとうございます!生まれつき目が悪く見えづらい私を両親は

  借金の返済のために私を奴隷に......」

 

 ついつい自分の過去のことを彼に打ち明けてしまった。

 まずはお互いをよく理解しないと始まらない。


 でも私、性奴隷にする目的で私を買われたんだろうとあの看守の人も言ってましたし......


 「君の名前は?俺はシュート」

 

 彼は優しく私に聞いてきた。

 名前なんて元から無かった、両親にはお前やおいなどとしか呼んでもらえず結局最後まで名前は付けてくれなかった。


 「私の名前は、無いんです。両親は私に名前をつけてくれなかったんです......」

 「そうなのか......」

 

 私は彼、シュート様に買われた身、少し変かもしれませんが彼なら名前を付けてくれるかも知れないと考えました。


 「なのでシュート様、よかったら私に名前をつけてくださいませんか?」


 彼は難しそうに考え、少し経って言った。 


 「じゃあアンナって呼ばせてもらってもいい?あとシュート様じゃなくて俺はシュート、 呼び捨てでいいよ」

 「名前をつけてくれてありがとうございます!シュート様がそういうのであればわかりました。シュートさん」


 シュート様からは呼び捨てで構わないと言われましたがやっぱり本来呼んではいけない気がしたのでさんをつけて呼ぶことにしました。

 そして私は始めて名前をシュートさんから貰い、初めて人の温もりと言うものを感じたのでした、


 私は彼に連れられ、とあるお店に入りました。

 そこはどうやら女性服が売られているお店だったようで、私の服を買うために来たんだそう。

 彼は「自分の服は自分で決めていい」と言っていました。

 改めて自分の今来ている服を見るととても外を出て歩けるような服ではなかったことに気付きとても恥ずかしかったです。


 とりあえず気に入った下着や服をシュートさんに持って行きました。

 金貨2枚という大金を彼に払わせてしまったことをとても申し訳なく思い、彼に謝りました。

 すると彼は笑顔で「別にいいよ」と返してきたのです。


 (―私は性奴隷目的で買われた訳じゃない?―)


 その後も彼は看守のような酷い扱いも暴力も振るいませんでした。

 逆に私を普通の人間同様に扱ってくれたのです。

 部屋も二人部屋にしてくれたり、ご飯もちゃんと二人前を頼んでくれる。

 一時期私は彼の役に立ててないと気にやむ時もありましたが彼は優しく慰めてくれました。


 でもそんな中、ある日私は冒険者らしき男達に周りを囲まれ、食事の誘いを強要されました。

 すぐにシュートさんが助けに来てくれましたがその時に彼らの中の一人が言いました。


 「ど、奴隷ならもっと奴隷らしく扱えってんだチクショー!」


 奴隷らしく......?

 その言葉は私を激しく揺さぶり、この時私は思い出しました。

 

 ―そうだ、所詮私は奴隷、人より下の家畜同然の存在だったんだ―

 

 私は彼があまりにもよく扱ってくれるので調子に乗っていました。

 奴隷は本来罵声を浴びせられながら暴力を振るわれ、家畜のように振舞わなければ行けない存在。


 「大丈夫かアンナ」

 「は、はい。ありがとうございますシュート......様」


 私は本当にこのままでいいのでしょうか。

 なんとも言い難い感情のなか私は彼と共に散歩を続けたのでした。



 その頃のエリー


 「ウム......何処ニモ強ソウナ敵ガイナイ」


 ドラゴンの中でも魔力総量トップのエリシュドラゴンのエリーは地上から遥か彼方の上空にて自分より強者の者がいないかどうか探していた。

 そもそもこのドラゴンを相手にできる魔物はいないのだ。

 故にエリーはただ上空を優雅に散歩している状態だ。


 「ム、アレハゴブリンの拠点カ?」


 林の中にぽつんと丸い円が広がっており、そこには小さなゴブリンたちが暮らしている。

 住んでいる家はテント式で押したらすぐに崩れるのではないかと言うほど貧弱そうだ。

 

 「ゴブリン、敵、排除スル!」


 エリーは勢い良く滑空し、ゴブリンの拠点の真上で止まった。

 するとすぐにエリーは行動を開始した。


 「炎の吐息(ファイアブレス)


 魔法を唱えると口から灼熱の炎がゴブリンの拠点に降り注ぐ。

 攻撃が終わった後には拠点は跡形も無く消し炭になっていた。


 「暇ツブシニシテハナカナカヨイモノダナ」


 暇つぶしで拠点を破壊されたゴブリン達はとんだ迷惑である。

 その後も色々な所を飛び回り、オークやゴブリンの拠点を破壊していった。

 時には風魔法で竜巻を作り遥か彼方へ飛ばしてみたり、氷魔法で拠点丸ごと氷漬けにしてみたりなど、気がつけば、オルマン湖周辺の魔物の拠点がほとんど壊滅していた。


 「今日ハコレクライニシテオクカ、サテ主ノ(もと)ヘ帰ロウ」


 こうして一通り遊んだ後、エリーはシュートの許に帰っていったのであった。


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