第十六話
うーんむにゃむにゃ......うぐっ!?
俺は宿のベッドで眠っていたのだが、隣には何故かエリーが眠っている。
しかも寝相が悪いせいで俺はベッドから蹴落とされてしまった。
まだ重たい瞼を擦りながらあたりを見渡してみる。
ベッドには俺といつの間にか寝ているエリーとその隣のベッドですやすやと寝ているアンナがいる。
「おい、おきろー朝だぞ」
「なんですかぁ、もう朝ですかぁ......」
「しょうがない、起きるとするか」
皆目覚めは結構いいようだ。
俺はとりあえず荷をまとめて出かける準備をする。
「今日はどこに向かわれるんですか?」
「とりあえずまずはギルドかな。ドラゴンの素材がどうなったか知りたいし」
そして俺たちはギルドに向かうことにした。
「ギルドマスターの......」
「シ、シュートさんですね!すぐにギルドマスターのシュールをお呼びしますので」
ギルドの職員が俺をみると話しかける前にすぐに対応をしてくれた。
やはりドラゴンを倒したのが影響したのだろうか。
職員の対応が腫れ物に触るような扱いだ。
奥から陽気な顔のギルドマスター、シュールが出てきた。
「お、来たね。早速だが場所を移そう」
そう言って連れてこられたのはギルドに隣接している大きな倉庫のような建物だった。
「大きい魔物や希少価値の高い魔物はここで解体して素材にするんだ」
中に入ると3人の男が忙しそうに魔物の解体をしている。
俺はあんまりグロテスクな物は得意ではない。だが血ぐらいなら大丈夫だ。
「この人たちは周りから『おやっさん』と呼ばれている解体のスペシャリストで、皆優しい人達ばかりだから大型の魔物を倒した時にはここに運んでくるといいよ」
『おやっさん』か。確かにナイフや専用の包丁などを持っている姿はとても凛々(りり)しく、作業も実に素早く丁寧に行われているように見える。
俺が知らなかっただけでここに来る人は案外多く、皆荷車や馬車を引いて魔物を運び入れていた。
「それで相談なんだが、前も言ったとおりこのドラゴンの素材を私に売ってもらえないかな」
もともと売るつもりでここに来てるしそもそもドラゴンの素材なんて魔物についてそんな詳しくない俺に聞かれてもなぁ。
「そもそもドラゴンってなんなんですか?」
「君はそんなことも知らないでこのレッドドラゴンを倒したって言うのか......」
だってよく分からないものはしょうがない訳で。
「ごめんごめん、まずドラゴンというものは―」
ドラゴンというのは魔物と似ていて核があるが、魔物とは違うらしくどちらかというと普通の動物に近いんだそう。
そのかわりにドラゴンの中には宝玉と呼ばれる言わば魔石の代わりとなるものが存在しており、とても美しくかなりな高級品だという。
噂にはドラゴンの核と言うだけあってかなりの力が秘められているらしいがそこらへんは現在研究中なんだとか。
ということはエリーにもどこかしかに宝玉があるのだろうか。
だが魔物とは違うので何も無い所に魔力が集まりいきなりドラゴンが誕生することは無いんだそう。
てか、普通の魔物って何も無い所から自然発生だったのかよ!?
そもそもドラゴンの素材はどれも希少価値が高く、高値で取引されるらしいのでギルドマスターのシュールも必死な様子だった。
「ええ、いいですよ。もともとそのつもりでギルドを訪れた訳ですし」
「ありがとう!このお礼はどうしたものか......」
「お礼なんていいですよ」
実際倒したのは俺じゃないしな。しかしエリーの正体をバラす訳にもいかないからなぁ。
「困った時は言っておくれ。君はこのギルドの恩人なんだから」
「は、はぁ」
しかしドラゴンを倒しただけでこんなに影響でるんだな。
「あのドラゴンのせいで一体どれほどの損失が出たか......」
ドラゴンのせいで商人の馬車や荷車は焼かれ、そこら一体は結構な手練の冒険者ぐらいしか通れなくなってしまっていたと言う。
しかもその手練れた冒険者でさえ、耐炎装備を着て黒焦げになりながらやっと通過できると言うのだから驚いた。
「そうだ、おやっさんちょっとそのドラゴンの牙を二本採ってくれないか?」
おやっさん達は勇ましく「あいよっ!」と返事を返し、作業を開始した。
「この二本の牙はシュートにあげよう。と言うか貰ってくれ。ほんの少しで申し訳ないがお礼だ」
牙の中でも大きく、上質だと思われる犬歯にあたる部分だった。
「あ、ありがとうございます」
素直に受け取っておこう。でも使い道どうしよう......
俺たちは牙を貰い、倉庫から外へと出たのであった。
「さて、どうするか......」
「町の観光をされてみてはどうでしょう?前にも言いましたがこの町は綺麗な湖で有名だそうですから」
そういえばそんな話もしてたっけ。
名前はたしかオルマン湖だっけか。
「東門の近くだそうです」
「あぁ、ありがとう」
「面白そうだ。シュート早く行くぞ」
エリーも何やらオルマン湖に興味があるらしく、俺の手を引っ張り急かしてくる。
賑わっている道を疾走しながら俺とアンナとエリーはオルマン湖に向かったのであった。
「着いたな」
「これがオルマン湖、とても綺麗です!」
「シユート、我は適当にそこらで戯れているから必要な時は呼ぶといい」
するとアンナは少し小さめのドラゴンの姿になり、すぐさま上空へと飛び上がっていった。
「俺たちはどうする?」
「私はシュートさんについて行きますよ」
とりあえずオルマン湖周辺を散歩してみるか。
俺とアンナは湖の周りをぐるりと一周してみることにした。
風景は実にのどかで、周りは背の高い杉のような木で囲まれている。
湖は楕円形で縦に長い。
少し遠くには険しい山々が連なっており、さながら日本アルプスのようだ。
景色に現をぬかしているとふとアンナがいない事に気付く。
あたりを見回してみると男三人に囲まれているアンナの姿があった。
「ねぇ、そこの姉ちゃん、ちょっと俺らと食べに行かない?飯代はおごるからさぁー」
「そ、それはちょっと。こ、困ります......」
うーん、あれがいわゆるナンパってやつなのだろうか?
とりあえず助けに行かないとだな。
すると男の一人がアンナの腕を掴み、連れて行こうとする。
「ねーねーいいじゃん、行こうよー」
「や、やめてくださいッ!」
俺はアンナとその男の間に入り、手を離させる。
「こいつは俺の奴隷なんだ。手を出すな」
「シュートさん......」
ちょっと言ってみたかったんだよね、『こいつは俺の女だ。手を出すな』みたいなこと。
あ、でも言ってから段々と恥ずかしくなってきた。
「な、なんだよ、いいじゃん別に!」
おとなしく引き下がってはくれないか。
しょうがない、今こそあのバアルから貰った膨大な知識の一部にあった魔法を試すとき!
「下位魔法 威圧!」
瞬時に回りに殺気じみたオーラが充満する。
これはオーラを纏えるなら周りに放出できないかと考えた結果、似たようなものがあったため試してみたのだ。
「な、何なんだよお前ッ!」
「おいどうする!」
「し、知らねーよッ!」
これではまだダメなのか?
ならこれでどうだ!
「中位魔法 威嚇!」
先程の威圧で生じた殺気がさらに濃くなった。
これには三人も堪らず顔を青くし、逃げ出して言った。
「こ、こんなやつ関わりたくねぇよッ!」
「た、助けてママッー!」
「ど、奴隷ならもっと奴隷らしく扱えってんだチクショー!」
そんな感じに三人の冒険者らしき若者たちは去っていったのであった。
「大丈夫かアンナ」
「は、はい。ありがとうございますシュート......様」
シュート様?なんかすごくむずがゆい感じだな。
とりあえず男たちを追い払ったので、散歩を再開した。
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