第十五話
魔法の適性検査は教卓の上においてある魔感石に触れるだけでその人の得意な魔法系統がわかるというもので、なんともお手軽である。
「で、では一番最初はテルキくんかな?」
並んでいた列の先頭の輝樹が教卓の前に立つ。
そして、魔感石に触れる。
すると魔感石は淡い青色に変化して、直ぐにもとの透明な物へと戻った。
「君はどうやら水系統の魔法が得意なようだね」
その他にも春樹は赤に変化したので炎系統の魔法、美咲は緑に変化したので回復や解毒などの魔法系統が得意なんだそう。
「じゃあ一番最後、イツキくんかな?」
俺も魔感石に触れてみる。
すると魔感石は薄い茶色になった。
「君は土系統の魔法が得意なようだね」
土系統は地面を変化させるのが得意だそうだ。
地面たたいて「練成ッ!」とか叫べばいいのだろうか。
春樹なんかには「せいぜい壁役にでもなってくれよ~」と嘲笑うかのように言われてしまった。
そこまで使えない能力という訳ではなさそうだが期待はしないほうがいいとアポストロフ先生も言っていたからな。
「では皆終わりましたね。それでは先程話した『魔法は纏ってこそ真価を発揮する』の意味を教えましょう」
おもむろに先生は一本のロングソードを取り出した。
そしておそらく先生が前唱えた炎系統の魔法を唱える。
「力は円環する、放て、火球!」
すると普通はそのまま前方へと発射されるはずの火球はロングソードを覆うようにして火の剣となった。
「この剣は特別な金属で作った剣で、魔法を剣の周りに纏わせることができます。
このように威力が期待できないものでも工夫をすればいろいろなことができるのです」
周りからは関心の声が上がっている。
「ただ、長く使うには結構な量の魔力を必要なので持って10分程度だと思ってください」
10分でもすごいものだ。なにせ対人ならば服を燃やせるかもしれないし、そうでなくとも鎧の隙間を狙い、中に火を通せば結構なダメージになりそうだ。
「では試しに、一番前の席にいるハルキくん、やってみてくれますか?」
「わかった。やってみます」
春樹はロングソードを持ち、先生に教わりながら魔法を唱える。
「ロングソードに意識を向けながら唱えてくださいね」
「わかった。力は円環する、放て、火球!」
すると炎はロングソードを包んだ。が、何故かロングソードの1.5倍ぐらい長くなっている。
「す、凄い!まさかこれだけの魔力量なんて。さすが異世界から呼ばれし使徒様なだけある!」
先生もかなり驚いている様子だった。
その後いろいろな生徒が試したが、ほとんどの人が20分やそこらずっと炎を出していたのでどうやら俺たちはこの世界の人たちよりも、魔力量は多いらしい。
「これは他にも水や風、電気などもやろうとすれば可能なので、いろいろと試してみるといいでしょう」
俺たちの魔法は普通よりも威力も上だそうで魔物が使っている魔法となんら変わらない威力だという。
だが、俺たちはこの魔法のせいでこの後とんでもない目にあうことをまだ知らなかった。
――――
俺とアンナとエリーは平原を縄張りとするドラゴンの討伐へと出かけた。
平原は意外と近く、全力で走って、大体10分ほどだ。ただ魔力を集中させかなり速度を上げため大体40キロぐらいで走っていたが。
しかもアンナをお姫様抱っこをして、そのうえ振動を少なくするよう注意しながら走ったためかなり疲れた。
「ありがとうございますシュートさん」
「うん、ところでドラゴンってどこにいるんだ?」
「我ノ気ヲ感ジテソノウチクルトオモウゾ」
エリーはドラゴンに戻ってかなりの上空からドラゴンを探すと言っていた。
やっぱり脳内に言葉が直接入り込んでくるのはとても不思議な感じだ。
「とりあえずのんびり待ちますか。」
「そうですね」
そんな感じで俺とアンナは平原の真ん中で寝転がり、日向ぼっこをしていた。
まだ太陽も傾いていないので結構時間が余っている。
まだドラゴンは現れないため暇だ。
今のうちに試したことのない魔術でもやってみるか。
俺は立ち上がり、おもむろに手を突き出す。
あのバアルから授かった膨大な知識の中に何か使えるものが無いか適当に探ってみた。
そして頭の中で思い浮かべるのは青白い雷、そして手に魔力を溜める感じで放った。
すると雷はバリッと音を立てながら前方の広範囲に枝分かれする形で広がっていった。
「なッ、何事ですか!?」
いつの間にか寝ていたアンナも飛び起きて辺りを確認していた。
「ごめん。ちょっと新しい魔法を試してて......」
威力を調整すれば対人でも囲まれた時に相手が少し立ち上がれない程度に無力化できそうかな。
そして他にも何か使えないかと探している時だった。
上から何かが降ってくる音が聞こえる。
上を見上げると、赤い鱗で全身を覆われている翼の生えたドラゴンが降ってきた。
ドラゴンは少し離れた所に落ちるとこちらを認識し、咆哮でこちらを威嚇してきた。
大きさ10数メートルのでっかいドラゴン。
だが所々焼け焦げていて、翼もいろいろな箇所が破れている。
「マテ、貴様逃ゲル気カ!?」
いや、逃げるって言ったって持って後数時間な気がするほどの怪我なんですが。
だがやはり、ここらを縄張りにしている王者なだけあって、死にそうながらも堂々とした風格だ。
そんなことを考えているうちにエリーは自分の爪から何かを出し、ドラゴンの首を両断した。
ドスッと頭はその場に落ち、体も糸が切れたようにその場に倒れた。
あれは風魔法の類か、爪から強力な風魔法で斬撃を生み出しているみたいだ。
威力もそこそこだし使えそうだな。
最近やっと授かった知識も自分と馴染んできたのか、魔法を見るだけでどの系統でどういう風に発動させられているか分かってきた。
原理が分かっても結局自分では理解できていない部分が多い為、感覚でとしか言いようがないのだが。
それにしてもドラゴンは首を切り落とされて尚、顔は凛々しく威風堂々としている。
「おい、エリー」
「ナンダ?」
「このドラゴンの血と辺りの修復しとけよ......」
斬撃をしたのはいいがエリーやその周りは返り血や飛び散った血でとても無残な光景になっている。
しかも落下した所は結構な大きさのクレーターになっていて、これだと後々誰かに文句を言われかねない。
「ショウガナイ......直ストスルカ」
「あ?」
「ハイ、スミマセンデシタ!」
まぁ正直怒られることもなさそうなんだけどな。ここ結構離れてるし。
かくして俺たちはギルドに報告しに帰ることとなった。
「何しているんだ?」
「異空間ニ収納シテイル」
「なんだそれ!?」
エリーは時空の裂け目みたいなものを空中に作り、そこにドラゴンの死骸を収納していた。
「空間魔法か。まだまだ魔法は奥が深いな」
帰りはエリーの背中に乗せてもらい、空をかなりな速度で帰った。行きもこうして来ればよかったか?
乗る前に少々血生臭かったので上から水魔法と炎魔法でお湯を作り思い切りエリーの体にぶっかけた。
オルマンに着く手前でエリーから降り、エリーも人間の状態に戻り歩いて帰る。
あと一応ドラゴンの死骸はオルマンの壁の側に置き、エリーとアンナに待たせておいた。
「あのーすいません、依頼を完了したのですが」
「あ、はい。ただいまーッて、えッ!?」
とりあえず事情を説明する。
「ドラゴンを倒したッー!?」
職員の叫びにより皆いっせいにこちらを向く。
「少しお待ちください、ギルドマスターをお呼びしてきますので!」
奥で慌ているギルド職員がギルドマスターに説明をしている様子だった。
そしてギルドマスターは俺のほうに向かってくる。
「君がドラゴンを倒したって言う冒険者かい?」
「私だけではないですけど、まぁ一応」
「私の名前はシュール・サーハル。シュールでいいよ」
「俺は、シュート......です」
彼は「かしこまらなくていいよ」とにこやかに笑った。
俺は初めてギルドのマスターに合った。
身長はやや高めで歳は30代ぐらいだろうか。
陽気そうな顔立ちで、何故だか近くにいると安心する。
「で、シュート、そのドラゴンを倒した証はあるのかね?」
証というのは多分体の一部分や、翼の片翼とかだろう。
「町の壁の側に仲間と一緒に」
かくして俺はギルドマスターを連れて、アンナとエリーがいるオルマンの外壁の所へ向かった。
どうやら人だかりができていた。
俺たちは人だかりをかきわけてドラゴンを見せた
「おぉ、これはまさしくレッドドラゴン!」
シュールはかなり驚いたようにそう言う。
ちゃんと名前がついてるんだな。レッドドラゴンか、そのまんまだね。
「確かに証は拝見した。ところでシュート、これをギルドに売る気は無いかね?」
「値段は弾むよ」と言われた。
確かに俺が持っていても何もならないし、そもそもこれを討伐したのエリーだからな。
「いいのではないか?暴れられてすっきりした」
案外簡単に倒したご本人から許可は得た。
「では後日、私の元へ来てくれ。シュールに用があると言ってくれれば通してもらえるはずさ」
こうして俺たちはドラゴンを討伐し、宿に戻り体を綺麗にしてから眠りについたのであった。
エリーばっかり戦っていて全くシュートの強さを出せていないです。
今後はもっとシュートに戦ってもらいたいと思います。




