第十一話 地上に戻って
俺達はダンジョンから地上に戻った後、とりあえず戦って疲れたので、宿に泊まることにした。
ダンジョンに入っていたのは大体8時間ぐらいだったが、外に出ると何故か五日ほどたっていた。
「なぜ五日もたっている……」
「我も詳しい理由は知らん」
「不思議なこともあるものですね」
とりあえず三人部屋を借りた。
俺もちゃんと自制心はあるはずなので女の一人や二人ぐらい平気だろう。
「案外強かったのはこのドラゴンだけだったな」
「流石シュートさん! あんなに強い魔物たちを弱者呼ばわりするなんて」
すると隣にいたエリー少し怒った様子で言った。
「主よ、我をあんな下賤な輩と一緒にするな。それにしてもシュート、よく我の魔法防壁を破ったものだ」
ちょっと待て、今主って言ったよな?
「我の魔力総量はドラゴンの中でも最強と呼ばれていた、その我の魔力防壁はそこらの勇者でもそうそう破壊できるものではない」
え、そうだったのか。
そしたら俺ってそこらの勇者より強いってことだよな。
「前からかなりの実力者だとは思っていましたが、そんなに強かったんですねシュートさん」
アンナが憧れの目でこちらを見ている。
別に俺はそこまですごいことをしたとは思っていなかったのだが。
「ほら、もう夜も遅いし、そろそろ寝るぞ」
「おやすみなさいシュートさん」
「別に我は寝なくても平気なのだが」
俺達が来るまでダンジョンの奥でぐっすりと眠ってたくせによく言うものだ。
少し寄り道はしたが、王都に行くという目標を達成できそうだ。
~~~~~~~
それはちょうどシュート達がダンジョンに入った頃の話。
そこまで田舎でもなく、ましてや都会でもない、ごく普通の街の普通の高校でそれは起きた。
「あー暇だなーあ、おい夷原、なんか面白いことやれよ」
「そ、そんなこと急に言われても」
「あ? 俺の言うことなんて聞けないって言うのか?」
俺は夷原樹、時間帯は皆帰りの支度をしていて少しざわついている時間帯だ。
今俺はクラスの中心人物の一人、千野春樹から無茶振りをされていた。
俺はクラスから外れた存在ではないが中心人物でもない、言うならだいたい中の下ぐらいだろうか。
別に友達が少ないわけでも根暗なわけでもないが、何故かクラスの上位者達は俺にちょっかいをかけてくるのだ。
そもそも人は『面白いことをしろ、話せ』などと言われてそう簡単にできるものではない、少なくとも俺はそうだ。
何とかやり過ごそうと思い、いすに座ったまま読んでいた本を読み返そうとするが、春樹は立ち上がり今にも胸ぐらをつかみそうな勢いで迫ってきた。
俺は怖さの余り、目をつぶってしまう。
胸ぐらをつかまれると思った時、それは前触れもなく起こった。
不意に起きる浮遊感、いすを引かれるのとは違うかなり突然の出来事、なんとも経験のしたことがない感覚だった。
俺はいすに座っていたので、その場に尻餅をついてしまう。
そして目を開けた瞬間、強烈な違和感を感じた。
そこは俺が知っている教室でも家でもなく、大きなステンドグラスが目立つ教会らしき建物の中だった。
「ここはどこなんだッ!?」
どうやらここに来たのは俺だけではなかったらしい。
突然の事態にクラスの皆が騒ぎ始める。
すると奥から教会の神父であろう人がこちらに向かって話しかけてきた。
「よくぞ来ました、神の子達よ!」
「ま、待ってくれ、ここはどこなんだ! 早く元の場所へ帰らせてくれ」
これまたクラスの中心人物の一人、中川輝樹が冷静に話している。
輝樹は中心人物の中でもリーダー的存在でクラスを引っ張ってくれているいい人だ。
影で俺に陰湿なイタズラをしていなければな。
「すみませんがもとの世界に帰すことはできないのです。
ただでさえ無理やり危険を冒して次元に穴を開けて連れてきたあなた達です。
それを返すとなればかなりの技術が必要となるでしょう。
ですが今の私達ではその技術はもっていないのです」
「そうなのか、帰れないのか」
大体予想はついていたがやはりここは異世界か。
しかも帰れないとなるとこれからどうすればいいのか。
輝樹は少し何かを考えているような素振りをして俺達に言った。
「仕方がない、俺達はここで生きていくしかないようだ。だが絶対に帰れないということはない。その方法を俺達で考えよう!」
輝樹の一言でクラスのパニックになっていた状況が落ち着いた。
さすがはクラスのリーダーということか。
あいにく俺達は神父が呼び出した勇者として、王宮からかなり良い待遇を受けれるらしい。
ここはどうやら国の王都みたいだ。王都と言うだけあってかなり大きな都市だ。
「では皆様、どうぞこちらへ」
神父に連れてこられたのは俺達が寝泊りするための寮みたいなところだった。
外観は石造りで、三階か四階ぐらいありそうな建物だ。
「ここで皆様は生活してもらうこととなります。食事やお風呂などは王宮側でご用意させてもらいますので」
皆各自割り当てられた部屋で用意された服を着て、王宮の側にある広い庭に集まるよう指示された。
そこには全身鎧で覆った一人の戦士らしき人が立っていた。
顔のいろいろな所に傷がありいかにも歴戦の戦士と言う感じだ。
「俺の名前はアサハだ。異世界から来たばかりですまないが、今日から貴様らには俺と戦闘訓練を行ってもらう」
そういうことか。
多分一通り訓練を受けさせた後、他国との戦争にでも駆り出されるか、何か軍事目的で使われるんだろう。
「みんな、生きていく為にも戦闘は避けられるものではない。帰る方法を見つけるためにも皆で頑張っていこう!」
そして、アサハとの戦闘訓練が始まった。
内容は筋トレから走りこみ、そして一度も握ったことのない剣の指導だ。
何時間もずっと訓練だったので、体中が筋肉痛だ。
「これも生きていくためなのかぁ?」
「それにしても筋肉痛で体中が痛いよな」
皆激しい訓練の後、筋肉痛に悩まされいた。
王宮の食堂で輝樹と春樹がけだるそうに話していた。
「はぁ、今まで剣なんて握ったこともないのにいきなり剣を振れって言われてもなぁ」
「学校に行かなくてもいいと思ったらこんな辛い練習が待っていたなんて。まったく最悪だぜ」
どうやら今日は俺をからかう気力もないらしい。
「疲れたね、夷原くん」
話しかけてきたのはこのクラスの中心人物であり女子のトップ、大和美咲だった。
視線が一斉に俺と美咲に集まる。俺には視線と言うか殺気じみた何かが向けられていた。
「あぁ、そうだね」
俺は適当に返事をする。
周りから「なんて返事だ!」とか「何でアイツが!」などの声があげられている。
「明日も頑張ろうね、夷原くん」
「そうだね」
美咲は本来俺に向けることはないはずの天使のような満面の笑みで去って行った。
そして食事を済ませた後、大浴場へと向かい体の汚れを洗った後自室に戻り、眠りについたのであった。
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