第十話 奥で見たもの
四層の攻略はそう難しくなく、特に何もなく五層へと続く階段についた。
五層も四層と変わりなく、同じような感じで進んでいけた。
そして、ついに俺達は六層へと続く階段を見つけた。
ここからが問題なのだ。
この街一番の冒険者のパーティーが挑んだが
あまりに魔物が強すぎて、全滅しかけたと言う。
他の層の階段はそれほど長くなかったが、五層と六層の階段は結構長い。
普通の倍以上はあるきがする。
「あの、シュートさん」
「なにか問題が起きたか?」
「そういえば今までずっと気になっていたんですがシュートさんってもしかして魔法を使えるんですか?」
そういえば今までアンナに、魔法について話してなかったな。
とは言っても、ただ質問されなかったら話さなかっただけなんだが。
そもそも魔法は普通人間が使えるものではない。
もしそれが他人に知られてしまったら、どうなるかわかったものではない。
最悪の場合、魔女と呼ばれ、十字架に貼り付けられ、火炙りにされてしまうかもしれない。
そうでなくとも周りに危険が及ぶかもしれない。
その辺りはアンナを危険に晒したくなかったのを無意識に察していたのか自然と話さなかったんだろう。
「ああ、確かに魔法使えるぞ」
「やっぱりそうなんですね! 魔法ってどんなことできるんですか?」
「んー、そうだな。たとえばここの壁さわるだろ」
やったことは無いが試しにやってみるか。
今俺がやろうとしていることは、いうなれば練成だ。
魔法はまだ火や水ぐらいしかまともに扱っていなかったが、できるかどうかわからないな。
「いいか、よく見てろよ」
俺に魔法を教えてくれたガルマ先生も『魔法は大体をイメージでできる』とか言ってたはずだから何とかなるだろう。
俺は壁を触りながら穴が開くイメージをして、魔力を手の方向に流す。
あれ、なかなか変形しないな。
そう思いながら俺は魔力をさらに強く流した。
すると、壁は徐々(じょじょ)にくぼんで行き、壁に人が二人は入れるほどの空間ができた。
「ほらな、すごいだろ?」
「すごいです! まるでおとぎ話のジューンみたいです!」
「そのジューンってなんだ?」
「ジューンのお話は私が小さい頃、母がよく話してくれたんです」
そのおとぎ話のジューンと言うのは簡単に言うと、勇者ジューンが剣と魔法で魔王に戦いに行って、囚われているお姫様を助けに行くという物語だ。
魔法が使える勇者の物語か、そんなのもあるんだな。
だが、最後は助けたお姫様のことを好きになってしまったのだが、お姫様は勇者ではなく王子に惚れて結婚してしまうというなんとも残酷な最後だとアンナは言っていた。
って勇者ジューンが俺みたいって事は、俺が好きなやつもそのうちとられてしまうって事か?
「あ、でも私はシュートさんの事は何があっても絶対に見捨てたり、他の男に色目を使うこともありませんから!」
「いや、大丈夫だよ。そんなに気にして無いし」
その後もいろいろとフォローをされた。
それが返って自分の自信を持てなくなりそうだった。
そんなことをしているうちに長かった下り階段も終わりが見え、ついに俺とアンナは六層についた。
ここまでこれたと言うことはこの街でもトップクラスぐらいに強いのではないかと考えたが、魔法を持ったぐらいで、そこまで強くなれるはずも無いと思い、階段の出口から一歩踏み出す。
そこはとてつもなく広い場所で、大体縦横40メートルくらいあると思われる。
高さは大体そうだな、池袋にあるア○メイト本店ぐらいの高さかな。
その結構大きい広間みたいな場所の奥には一匹の龍が眠っていた。
「あれ、ドラゴンですよね」
「ああ、そうだな。ドラゴンだな」
近くで見るとやっぱり大きかった。
大きさはだいたい15メートルぐらいだろうか。
黒くて艶のある鱗、鋭利で今にも噛み殺されそうな牙、
なぎ払われたらひとたまりもないような長い尻尾。
『……我ノ眠リを妨ゲル者ハダレダ』
うぉ!? なんだこれ? 脳内に直接入ってくるような感じがする。と言うか入ってきてるのか。
「あ、起きてしまいましたねシュートさん」
「そうだな。どうすればいいのやら」
いや、なんでこの状況でアンナは平然としていられるんだ? 俺もアンナの冷静さにつられてついつい平然としているが内心かなり焦っている。
『オ前達ガ我ノ眠リヲ妨ゲタ者カ、死ヲ持ッテ償ウガイイ』
そう言って黒い龍は憂鬱そうに体を持ち上げ、前足を振り下ろした。
俺は咄嗟に隣にいるアンナを抱え、後ろに飛び防衛姿勢をとる。
黒い龍の爪から放たれるその斬撃はかなりの威力で地面を抉り取るような攻撃だった。
「向こうが殺る気ならこっちもその気で行く! くれぐれも無茶はするなよ」
「はい! わかりました。命大事にですね」
黒い龍からは、かなりな量の魔力が感じられる。
確かにこの強さなら街一番の冒険者パーティが壊滅させられるのもわかる気がする。
そして俺は黒い龍の攻撃の隙を見て懐に潜り込み、剣で斬りつける。
だが、攻撃は鱗に傷も付けられずに次の攻撃が来る前に距離をとる。
『フッ、我ヲソコラノ魔物ト一緒ニスルナ、体ヲ魔力デ覆ッテイル。ソンナ攻撃ハ通用シナイ』
体を魔力で覆う? どう言うことだ? もしかして俺にもできるのか?
魔力を体全体に覆う、あれだな、某ハソターが使う念みたいなものか?
そんな感じに考えていると、なんとか体全体に魔力を覆うことができた。
『ナ、ナンダソノ力ハ! 何故人間ノ分際デ魔力、ソンナコトハドウデモイイ、殺スダケダッ!』
そう言うと黒い龍はその逞しい牙が生えた口を大きく開けるとその口に大きく丸い何かの文字が書かれた何かが現れた。
次の瞬間、黒き龍はその魔方陣らしきものから火炎を吐いた。
その火炎は周りを焼き尽くすような火炎ではなく、明らかに俺だけを狙ったレーザーのような火炎だった。
やばい、このままじゃ灰になる!
俺は慌てて体を魔力で覆う。
かなり必死だったので、全力で魔力で体全体を覆った。
シュートは火炎と言うにはあまりにも真っ直ぐで強力な火炎に飲まれた。
「シュートさーん!」
「ん、呼んだかアンナ」
「な、なんであんな火力で攻撃されたはずなのに生きているんですか!」
『ナゼアノ攻撃ヲ受ケテ生キテイル!? シカモ何ダソノ魔力ハ!』
俺の周りには目に見えるほどの魔力が纏っていた。
「いやー、なんか急いで魔力を体に張ったから、魔力全開でだしたら何とか生きてた」
いやー少し熱かったな。なんか数秒ぐらいサウナ入っていたみたいだった。
「火も強くすればあんな風になるのか?俺もやってみようかな」
『ナ、ナンダト!?』
とりあえず強い炎、そうだな、例えばゴ○ラが出す光線みたいなものを思い浮かべればいけるか?
すると手に魔力が集まるのが感じる。
そして手を黒い龍のほうに向ける。
「なにをするんですか?シュートさん」
「とりあえずさっきの仕返しをしようかな」
『ソ、ソンナ攻撃デワ、我ガ倒サレル訳ガナイダロウ!』
ん、なんか声が少し震えているのは気のせいだろうか。まぁいい、とりあえず打ち込んでみるか。
「ハッ!」
イメージとそんなに変わることなく発射されたレーザーのような紫色の火炎はかなりの威力で黒い龍を炎の渦に飲み込んでいった。
数分後
そこには丸焦げになった黒い龍の姿があった。
もともと黒かったので焼けてこげているその姿は真っ黒だった。
「これ生きてますよね」
「まぁ龍なんだろうし、ある程度、耐性もあるだろ」
どうやら魔力と耐性のおかげかどうかは知らないが、一応生きているようだ。
『我ヲココマデ追イツメルトハソレナラ我―』
「そんなに威勢のいい言葉が言えるならまだまだ余裕なんだな」
『イヤ、モウ我ニ戦ウキハナイ、貴様ラガ逃ゲルトイウナ―』
「ほう、もう一発ぶち込まれたいようだな」
『イヤ、本当ニスイマセンデシタ』
その後黒い龍はいろいろと話してくれた。
『我ノ名ハ黒龍エリシュドラゴン』
「俺はシュート。隣のはアンナだ」
『我ハ貴様ニ負ケタ、我ヨリ強イ人間ヲ、今マデ見ミタコトガナカッタ、ドウカソナタノ旅ニ連レテ行ッテホシイ』
「そう言っていますがどうするんですかシュートさん」
「そう言われてもな……」
まぁ特に反対することもないのでいいとするか。
だが、だがしかし!
「お前そのでかさで街中うろつくのかよ……」
こんなでかい龍が街中をうろついていたんじゃ心配でしょうがない。
『ソノ点ハ大丈夫ダ。体ヲ人間に近クスルコトハ容易イ』
するとエリシュドラゴンは闇に包まれ、その大きな体はぐんぐん小さくなっていく。
「これでどうだ!立派だろう!」
胸を張っているがなんか小さくなりすぎて少し幼稚な気がする。
「これでとりあえずは問題ないな。おいエリシュドラゴン、長いからエリーでいいや、おいエリー、外に出る方法はないか?」
「この部屋の置くに地上との転移魔方陣があるが?」
俺達は転移魔方陣の上に立ち、魔方陣に魔力を流す。すると景色が一瞬で変わり、地上に出ることができた。
久しぶりの太陽は俺のめを激しく刺激した。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
誤字脱字、感想等何でも受け付けております。
これからも応援の程よろしくおねがいします。