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第二話「疑心にまみれる」

 雪原に風が吹き、辺り一面が吹雪となり視界が悪くなる。冷たい風は生物の体温を蝕んでいくが、賢い生物達は吹雪を防ぐ為に遮蔽物があるとこへと足を運ぶ。雪原に盛り上がった岩山には生物が身体を休めるぐらいの空洞が空いており、そこに彼等はいた。見た目は黒に近い茶色の毛をしており、集団で固まっているため大きな獣が眠っているようにも見える。ファンタジー・スノーフィールドに棲む狩人、フェンリルと呼ばれる狼である。フェンリルは集団で狩りを行い、リーダーである白銀の狼が統率している。

 「…まだ吹雪が続くのぅ。」

 「そう急くではない。そこまでその気配が気になるのかぇ?」

 空洞の奥。白銀の狼と少女が外の様子を見ている。少女は紅髪を垂らし、寒さを防ぐ為に獲物の毛皮を羽織っている。その気配について呟く。

 「あの気配はここらにいる生物とは異質じゃった。弱肉強食のバランスが崩れるとさえ感じた。」

 「ふぅむ…。お前がそこまで言うとなると、黙ってもいれんね。先遣を送っておこう。」

 「いや、ここの獲物も尽きた。ここを出て、西の方へ行かねばならんじゃろ?」

 眠りに就いている者達を見る。皆安心したように眠りに着き、危険が迫っても眠っているのではと思えるほどに。白銀の狼は紅い瞳を細め、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

 「そうねぇ。この子達を生かしていくには西の人間の村辺りに移動するしかないねぇ。吹雪が治まるまではここにいようかね。」

 「うむ…。」

 漸く白銀の狼と少女は眠りに就き、吹雪が止むことを待った。


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 「随分と厳しい環境だね…。」

 吹雪の中、紅い光だけが辺りを照らしている。雪が積もっているというのに草鞋で裸足。服装は着物であるのに寒そうな素振りを見せないでいる。紅いオーラを纏ったジェン・ヨウは雪原を歩いている。ここに父親のジェン・ジンが危惧した者がいるということになるが、辺り一面が銀世界であり自分が何処を歩いているのかすら不明瞭になっていく。加えて、雪には夢幻山脈の霧の作用が含まれているので気丈に保っていなければ直ぐに意識を持って行かれる。山脈出身であるヨウでさえこの吹雪に当たっていればいずれ幻覚が見え始め、雪原の肥料となりかねない。

 「生物と呼べる生物が見当たらない…。確かに生物が生きていくにはこの環境は厳しいけど、いてもおかしくはない気がするんだけど。」

 と、ヨウは雪原に盛り上がったものを見つける。雪がまだ新しく積もっているようで、周りには赤い雪や骨が散らばっている。

 「…食べられている。それにまだ食べた跡が新しいし。この近くにいるのか…。」

 と、調べていると奇妙な気配を感じる。人ではない、もっと純粋な何か。善悪が混ざる心よりも生だけに生きる心。

 「…。」

 既に囲まれている。何かかはわからないが、恐らくこの生物を襲った輩と似た生物だということ。地形が相手に有利であればヨウには不利である。紅いオーラで吹雪を凌いでいる中、辺りに集中するのは絶体絶命である。

 「なら…あれをしてみるしかないね。」


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 吹雪が晴れた雪原。それでも絶えず山脈から生成される雪雲は辺りを白のシーツを敷いていく。岩山から顔を覗かせたのは茶色の毛並みをした狼。吹雪が止んだ事を知らせるように空洞の奥に吠える。すると、たちまち空洞から狼が飛び出し最後に白銀の狼と少女が姿を現す。

 「ボス。周囲に気配はありやせん。」

 「そう、例の気配はするかぇ?」

 「いんや、まだここには来ていないようじゃ。今のうちに進もう。」

 突撃兵長のような狼が先頭を仕切り、集団の狼達の前を率先して動いていく。白銀の狼もゆっくりと走り、少女は白銀の狼の上に跨る。ふと、少女は空洞の方を振り向き、何かを施すように手を煽る。

 「罠かぇ?」

 「一応。わしらを追い掛けてくるとなると、相当探知能力に長けているやもしれん。時間稼ぎ程度にはなるじゃろう。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 吹雪が止んだファンタジー・スノーフィールド。絶えず雪が止まないというのは同じとして、雪原には盛り上がったものが幾つか点在している。其のうち一つが雪を払いのけ姿を現す。着物を正し、頭の雪を払うジェン・ヨウの姿がそこには在った。

 「なんとかなった訳だけど、終日ここで過ごすことになったなぁ…。」

 ジャランッと金属音を鳴らし雪に埋もれた鎖を展開する。点在していた盛り上がったもの全てに鎖が絡んでおり、鎖はヨウを中心として八本の線を展開している。

 「金縛鎖陣こんばくさじん。集団戦には特化しているな…。」

 金色の鎖はある生物を縛っていた。それは毛深い毛皮をしているが、図体は大きい。

 「吹雪であまり見えていなかったけど…熊、かな?」

 口から白濁した涎を垂らしながらヨウを威嚇する熊。ただ、金色の鎖の締め付けが強いのか悲鳴に近い叫び声をしている。

 「あぁ、そこまで警戒しなくてもいいよ。ただ、ここら辺の地理を詳しく聞きたいだけなんだ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 フェンリル達はある程度雪原を走ると、漸く白いシーツから緑のカーペットが広がる平地へと辿り着いた。

 「ボス。ここらで休みやしょう。こいつらも長旅で大分疲れていやすし。」

 「村を襲うにしても空腹じゃぁ力が入らないってもんさね。食料調達に出かけてこようか。」

 舌を出して体温調節を行う狼達。空腹を抑えられずに腹の虫を鳴らす者もいた。このままでは返り討ちにされるだけ。動ける者で食料を調達しなければならないようだ。

 「では、わしが出よう。お主らは休んでおれ。」

 少女がそういうと、森が見える方へと走っていく。

 「ボス…。いつまであのガキを野放しにしておくつもりです?飢えを満たすのであればガキ一人食っておけば凌げやすぜ。」

 「そうかっかせず。仮に人間だとしても契りを交わした同胞じゃ。無下にはできんのよぉ。」

 その頃、森に辿り着いた少女は獲物を探しながら目元を細める。

「|(忌々しい獣共が、わしを食う?はっ、逆にわしが喰ろうてやる。今に見ておれ…)」

 と、茂みから足が細い生物と同様の動物が現われた。が、頭部には立派な角が生えており、突進されれば少女であってもひとたまりもないだろう。しかし、少女は敢えて動物の前に出る。

 「ほれ、わしはお前を食おうとせん輩じゃ。やらなければ食われる。わしと力比べといこうではないか。」

 少女に気付いた動物は挑発と受け取ったのだろう、角を大いに振り乱し前足を足踏みし始める。少女は腰を深く落とし両手を前に突き出す。タイミングを図っていたように動物は走り出し、角の先端部を少女にぶつけようとする。

 「|(阿呆め)」

 紫色の魔法陣が少女の両手の間から展開される。すると、魔法陣の中から巨大な狼の頭部の骨が出現し顎を大きく開ける。突進していた動物は途中で行動を止めることが出来ずそのまま頭部の骨の口へと突っ込む。動物が接触したと同時に顎が閉まりだし動物の身体に牙が降り注ぎ、動物の肉に食い込んでいく。悲鳴を上げる前に動物は力を失い、一撃で絶命する。絶命したと同時に魔法陣を消し、他の獲物を探しに再び忍んでいく。

 暫くし、少女は獲物を多く引きずりながら狼達の元へと辿り着いていく。

 「ほれ、これで腹を満たすがええ。」

 「うっひょー!流石は姉御!相変わらず狩りが上手いですぜ!」

 多くの狼は慕っているようで、差し出された獲物を感謝しながら貪っていく。だが、慕っていない狼達は疑問符を浮かべている。

 「|(おかしくねぇか?牙もねぇ人間のガキがあんなに仕留めれるんだ?)」

 「|(知らねぇよ。だが、警戒していてもいいわな)」

 白銀の狼は自分の娘が成果を出したかのように喜び、貪る者達を子ども達のように見ている。

 「食わんのか?」

 「いんや、わしは大丈夫。わしの身体はわしが十分にわかっておる。このぐらい食べなくてもいける。」

 「そうか…。」

 心配そうな顔をしている少女に心配無用というように微笑む白銀の狼。白銀の狼の横に座る少女。もたれかかると滑らかな白銀の毛と温かい狼の体温が伝わる。

 「わしは心配じゃ…。おぬしがいつ現世を旅立ってしまうのかを。」

 「かーっはっはっは。わしは頑丈故な。そう容易くは死ぬことにはならんじゃろうて。」

 「|(わしは他の奴等はどうでもいい。が、お主だけは何としても助けてやる…。絶対に!)」

 「食を済ませたら人間の村を襲う。そして、そこをわしらの根城にする。よいな?」

 「了解しやした。てめぇら!腹は満たされたか!さっさと支度して動くぞ!」

 遠吠えをすると、狼達は再び動き始める。草原を駆け、目先に見える大きな街を目指して。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  「ここが…。」

 ファンタジー・スノーフィールド。雪が盛り上がった岩山の空洞にてヨウは先ほどまでいたであろう獣たちの跡を調べている。先程の熊達はこの雪原を占めていた生物がここにいると教えてくれたようで、現在に至っている。紅いオーラで灯した空洞内には動物の骨や茶色の毛が散乱しており、ここを棲家にしていたことは明確であろう。

 「ふむ…。毛が散乱していることからかなりの数がいたんだろう。その数を補う程の食糧がもうここにないから此処を去って行ったんだろう…!」

 と、咄嗟に前を見る。空洞の奥。紅いオーラの光を大きくし、空洞全体を見渡せるようにし改めて見る。空洞の奥の壁に紫色の魔法陣が展開されている。それに気づいた瞬間に発動するようになっているのか、魔法陣が発動する。魔法陣から大量の骨の怪物が飛び出してくる。骨格から生前は四足歩行の生物であろう。顎の骨格や犬歯のものを鑑みるに犬か狼だと断定できる。

 「死んでいった狼の亡骸を死霊術で操っているのか。」

 ヨウの周囲を囲み、肉なき怪物は顎の骨を鳴らす。満たされない空腹に耐えかね、目の前の獲物を今かと食らい付きそうである。しかし、怪物は見定めている。決して単独で狩りをしては返り討ちになる。束になれば強敵にも敵うということを生前の記憶が理解しているのだろう。

 「熊よりも素早いと少し厄介だ…。なら、守りを固めるしかないね。」

 紅いオーラを放っていたヨウだが、一転変わって蒼いオーラを纏い始める。

 「鎖葬~黄泉に続く深紅の鎖~!」

 ヨウが言霊を発する前に骨の怪物は先手を打ち、鋭い犬歯が見えている顎を大きく開け一匹が襲い掛かると周りにいた奴等も合図を待っていたかのようにヨウに飛び掛かっていく。瞬く間に骨の怪物達はヨウのあらゆるところへ噛み付き、骨が軋む音が洞窟内に響き渡る。が、一向に液体が撥ねる不気味な音は聴こえず、聴こえてくるのは固い物を金属に当てている甲高い音が響き渡っていた。骨の怪物達は理解していないだろうが、それでも対象に牙を通そうと必死になっている。

 「…疑念、嫉妬、憎悪。色んな負の感情が君たちからは伝わってくる。それが誰に向けられたものかはわからない。その苦しみから救うことは僕にはできないみたいだ。すまない。」

 密集する骨がゆっくりと前に進み始める。ゆっくりと、展開されている魔法陣の元へと。必死な怪物達は移動していることを知らず、噛み続ける。いずれ牙が肉を通るという不確定な根拠を植え付けられたかのように噛む。

 「一点集中…鎖破紅!」

 骨の間からヨウと思える腕が飛び出し、魔法陣の中心に紅いオーラを纏った手刀を打ち込む。魔法陣はガラスが割れた音を立て飛び散った破片は綺麗な粒子となり消え去っていく。魔法陣から使役された骨の怪物達は供給源を断たれたことから意思が消え、ヨウの周りに崩れた骨が山積みになっていく。骨の山を掻い潜り、身体に蒼いオーラを纏った思念の鎖を巻いているヨウが現われる。隙間なく巻かれた鎖は任を全うしたのか、金属の破片となり、粒子になり空中に霧散していく。

 「僕がここに来るということをわかっていたかような手口…。既に気付かれていたのか。と、なるとここにはもういないのか?」

 洞窟の入り口へと足を運ぶ。降り積もる雪の中、洞窟に近い岩には僅かではあるが生物の足跡が見えた。このことから、雪原を抜けたという考えにヨウは至った。

 「詰まる所、食べ物が少なくなったから移動した、と。なら、追い掛ける他ないね。」

 再び紅いオーラを纏いながらヨウは足跡を手がかりに追い掛けていくのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「よいか、おぬしら。これから強襲を掛ける。生ける者全てを殺し、わしらの拠点を築くのじゃ。」

 草原を抜けた先、一部の地面が窪み、そこに小さな村を築いた人間達がいた。今の時間は夕暮れ、家屋からは美味しそうな炊事の煙がモクモクと空へ舞い上がっていた。村から見て小高い山には夕焼けに反射して見にくい所へ大量の狼達が舌を出しながら待っている。その先頭には当然巨大な銀色の狼と紅い髪の少女が立っている。銀色の狼は集団に呼び掛ける。それを合図に集団は低い姿勢になりながら山を一気に下る態勢へと移行する。

 「掛かれぇ!」

 遠吠えと共に一斉に影が動き始める。

 第二話を読んで下さり、ありがとうございます。作者のKANです。初めましての方は初めまして。

 今回は少女の思惑を少し堀ったような文章が多く、より彼女がどのような心で狼ことフェンリルの集団にいるのかを予測できる回でした。また、銀色の狼のモデルとしては彼の大作の狼を浮かべていただければわかりやすいかと思います。少女はモデルは違いますけど(笑)

 では、第三話でお会いしましょう。ではでは…。

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