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REMAKE  作者: 悠夕
第三章 『歩み寄り駆け寄る話』
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第6話 『夏休み、初動』

 頰に走る激痛。

 カーペットに赤色を垂らす夕日。

 母親がすすり泣く声。

 目の前で右腕を高く振り上げる親父。

 また、この夢だ。また昔の夢を見ている。

 親父の顔は何故か陰って表情が見えず、ただただ押し殺したような殺気と荒げた息だけが感じ取れた。

「──────ッ」

 頰に再び激痛。振り下ろされた右手は強く握り締められ、何かを堪えるように、右手で何かを握りつぶすように、強く強く握られている。

「      ……っ!」

 親父が何か言っているのに、その言葉は俺には届かない。

 夕焼け小焼けのチャイムに掻き消された親父の言葉。あの人は俺に、なんと言いながら手をあげていたんだっけ。

 ぼぅっと親父の顔を眺めながら、物思いに耽る。

 自分が人形になったように、相手に何も言わずに、抵抗もせずになすがまま。暴力を振るわれながら考える。

 決まって、いつも答えは出ない。俺は親父の殴っている気持ちもわからなければ、何を言いたかったのかもわからない。

 ────そうして、こうやって考え事をしているうちに現実に引き戻されるのだ。


 ◇◆◇


「……………」

 体にのしかかる微かな重みと、窓から差し込む鬱陶しい日差しで目を覚ました。

「………っ、いって……」

 遅れてやってくる両手の痛み。毛布から引っ張り出して左手を眺めると、処置が施されているのか、赤くにじんだ包帯が巻かれていた。

「ああ、そっか。俺アイツに勝つために……」

 ひとりで呟きながら苦笑する。勝つために左手を犠牲に……ホント、この先やってけるのかな。俺。

「う、ん………」

 視界の外から微かな呻き声が聞こえた。遅れて聞こえてくるもぞもぞ、と何かが動く音。

 恐る恐る視線を下にやると、

「ふふ……んー……」

 何故か、俺と添い寝している金髪の少女……ってコイツ確か舞姫の後輩の中村 瑠璃じゃ……?何故俺の部屋に?つかなんで俺のベッドに?なんで??この世は疑問で満ちている!不思議だな!!

 ダラダラと冷や汗が流れる。これは暑さによるものではない。俺が何かこの歳で間違いを犯してしまったんではないかという恐怖から流れるソレであり、なんというか、なんだろう。全く記憶にない!!

「ん、ぁ……あー、帝センパイだ。おはようございます」

 ダラダラと冷や汗を流していると中村が目覚めて、にこーと純粋な笑顔を向けてくる。

「あ、お、おぉ。おはよう……ござい、ます?」

 ここで流石の瑞樹 帝童貞16歳。年下の後輩に笑顔を向けられて見事に(ども)る。あらやだ。死にたい。

 しっかりしろ俺。どうしてここにいるんだ、って聞きたいんだろ。なのになんで毛布越しに感じる柔らかさとか堪能してるんですか!しっかり!!

「ふふ、帝センパイ朝は苦手なんですねー。何が起きてるか理解できてない顔してます」

 だって理解できてないもの。

 とは言えず、何も言えずに押し黙る。しかも顔が熱くなってくるおまけつき。ああ!死にたい!!誰かいっそ殺して!!

「る〜り〜ちゃ〜ん〜?」

 願いが通じたのか聞き覚えのある声と共に、押し寄せる殺気。

 ドス、ドスと殺気は足音を立てて近づいてきて、

「やーやめてください舞姫センパイ!瑠璃は今センパイと朝の挨拶をしてたんです!!」

「何言ってんの、帝今困ってたでしょうが!早く退きな、さい!!」

 嫌がる中村をベッドから引きずり下ろした。

 ……正直助かった。俺はあのままだったらどうにかなっていたところだ。主に恥ずかしさで。今ですら部屋から逃げ出して町内を一周走り回って帰ってきたいくらいには恥ずかしい。人間って恥ずかしいと意味わからない行動とりたくなるんだぞ?わかるか??

「もう、帝もしっかり嫌なら嫌って言わなきゃダメだよ?」

 意味のわからない思考を遮るように、ひょこっと視界の外から現れる舞姫。

「……いや、別に嫌ってわけでもなかっ痛い痛い、痛い、なんで?何で今俺額を拳でグリグリっとされてんの?!なんで!!?」

「うるさい!!」

 視界を遮る拳で舞姫の表情が見えない。痛い、痛いです舞姫さん。理不尽な暴力反対!!

「悪かった、何かわからんけど悪かった。カイホウシテクダサーイ!」

「それ、カイコクシテクダサーイ、でしょ。またおもしろフラッシュなんて懐かしいモノを……」

 文句を垂れながらも、俺の懐かしいネタシリーズNo.4 《おもしろフラッシュ》が気に入ってくれたのか激痛から解放してくれた。ちなみにこのシリーズは6まであったりします。

 でもおかげで目がすっかり覚めた。とりあえず状況を把握しないと。

「で、何で中村がウチにいるんだ?」

「……いや、オレもいるんスけどね。放置してラブコメるの、やめてくれません?」

 舞姫の背後から不満げな声を投げたのは、これまた舞姫の後輩の松崎 健人だった。

「健人まで居んのか……いよいよなんか良く分からない事になってきたぞ」

 戸惑う俺に、溜息を吐く3人。どうやら理解できていないのは俺だけらしい。

「こういうこと……って言ったら、わかります?」

「─────それ、」

 言いながら、中村が見せたものは。

「そう。瑠璃たちも、参加者ってヤツなんです」

 俺と舞姫の手の甲にある刺青と、同じモノだった。


 ◇◆◇


 ケータイからけたたましい目覚し音がなり、鬱陶しくなって手を振り下ろす。うるさい。どうしてそう、騒がしくしないと起こせないのか。

「………っ」

 重い頭を起こして、窓の外に目をやる。

「ああ、朝────」

 まぎれもない朝だった。夏休み初日、これ以上にない爽やかな朝。

 でもわたしの心の中は曇り空……。どんより。梅雨かな?

「わたしの心の梅雨も明けてくれないかしら……」

 はぁ、と溜息をつきながら机の上に目をやる。そこには『補習の知らせ』と書かれたプリントがある。そこには勿論、『(おり) 未緒李(みおり)』とあまり頭が良くないわたしの名前が書かれていて、他には不登校のクラスメートとクラス委員長、あとは目立たない人がちらほらと。

 そう、補習。わたし補習だった。だからこんな早い時間に起きたんだ。

 憂鬱な空気をなんとか隅っこに追いやって、さっさと準備を終わらせる。

「……行ってきます」

 家から返事は返ってこない。すっかり荒れ果てた居間から目を逸らして、重い扉を閉めた。


 ああ、今日も。また1日が始まった。

もう少しかけるような気がしたけどここまで。次はもう少し詰め込みます……。

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