第4話 『能力について』
「────オレ達を、仲間に入れてくれませんか」
健人くんの言葉と同時に、瑠璃ちゃんの視線もまっすぐ、私の目に突き刺さる。
2人の表情はとても真面目で、私を……いや、私達を騙そうとしてるとは思えない。
思わず2人の視線を受け止めてそのまま固まってしまった。うぅ、どうしよこれ。こういうのは私より帝のが得意な気がするんだよなぁ。
戸惑う私に再び言葉を投げかけたのは瑠璃ちゃんだった。
「瑠璃達は半ば事故でこのゲームに巻き込まれただけなんです。だから、叶えたい願いもない………から。できれば帝センパイの願いのために、戦いたいなって。思うんです」
「………ハイ。オレも同意見って感じッス」
『その願いを使えば、君の悲惨な過去も────』
思い出されるのはあの黒い部屋の出来事。仮面の男が言い放った言葉。
あの時、私は……帝のために共に戦おうと決めた。
この2人も私と一緒だ。なら、断る理由はないと思う。
「……わかった。帝がなんていうかわからないけど、一緒に戦おう。仲間は多いほうが良いしね」
できるだけ笑顔を意識して言う。
2人は顔を見合わせた後、安堵のため息を吐き出して机に突っ伏した。
……やったね帝、仲間が増えたよ!
◇◆◇
「あづっ!!」
腹部を掠める槍の刃。
何とか身体能〝力〟を強化して避けることはできているものの、ヤツの槍さばきは尋常じゃない。というか槍自体が炎で形成されててギリギリで避けても熱でなんかやられる。やだもうなにあの能力!!
正直言ってかなり不利だった。俺は基本的に体を使って戦うしかない能力。対して相手は武器を使える能力。懐に潜り込もうとしてみろ、心臓を思いっきり穿たれる。
「………こりゃあかなりしんどいな。おまえ薙刀かなんかならってたのかよって」
応えて貰えるとは思ってないが、ボソッと疑問を吐き出す。
「ン?ああ、薙刀どころか武術は一通り心得がある」
「………お、おお。そうか」
こんなこと訊いてる俺も俺だが、応えてくれたあいつもあいつだ。戦闘中だってのに緊張感がない。
まあでもなんか、ヘンに間抜けてくれてるおかげで落ち着いた。アイツから殺意こそは感じるものの、本気で殺そうという気配というか気合い?は感じられない。穏便に終わらせられそうだし、コイツは初戦には丁度いいかもしれない。
「どうした?もうかかってこねえのかよ」
「おう、余裕ぶっ来いてろ。今お前に一発喰らわせてやる」
悪態をつきながら、頰を伝う汗を拭い、自分の内側に意識を向ける。
丁度いい。試したいことがあったんだけど、コレは家の中でやるわけにもいかないからな。
身体能力に繋げられた回路を一旦引き抜く。そして3本の回路を、まとめて脚〝力〟に接続した。
「いくぜ────!」
足に馬鹿みたいに力がたまっていくのがわかる。それを一気に放つように跳び────
「ごぶっ」
─────見事に、電柱に激突した。
「………………」
……うわあ、背中に冷たい視線を感じる。
その、すごく痛い。
相手の背後に回ろうとしたんだが、背後に回るどころか真横を通過。斜め後ろに立ってた電柱にキス。そりゃまあ、冷たい目でも見たくなる。
……こりゃ、加減を覚えないと使いこなせないぞ。よっぽどのじゃじゃ馬みたいだぜ☆
「………オレな、おまえに攻撃しなくても倒せる気がしてきちまった」
「奇遇だな。俺もそんな気がしてきた」
ずっと電柱と仲良ししてるわけにもいかないんで離れる。なんかちょっと腹部が痛いけど大丈夫だろ。たぶん。
……でも今のおかげでどんだけ速さが出るのかはわかった。いける、大丈夫。無駄に能力の使いようを考えてたわけじゃない。
もう一度、一気に力を込めて跳ぶ。一瞬で景色が変わり、相手の背後を通過────しそうなところで、何とか踏ん張って減速。そして、
「らぁぁぁぁあああああ!」
回し蹴り。強化しているのは脚〝力〟だ。回し蹴りに使うのも踏ん張るのも跳ぶのも全てソレで行われているわけで、蹴りもかなりのスピードが出ている。
だが相手も甘くはなかった。槍を地面に突き立てしならせ、蹴りが飛び込んでくるタイミングで槍を使って前に跳びやがった。どんな身体能力してるんだ、アイツ。
「────でも逃すわけにもいかねーんだ、よっ!!」
着地地点を予測して跳ぶ。落ちてくるであろう場所────未だ宙に居る相手の真下で減速し、脚力に繋いでいた回路を引き抜いた。
そして、引き抜いたそれを────
「ああああああッ!」
拳を構えつつ、腕〝力〟に全て繋ぎ直した。
相手を一発で気絶させるとしたら腹部を狙うべきだろう。狙いをしっかり定め、腕の力をありったけ込め、腰を入れた拳を放つ。
それと同時。再びシュボッと乾いた音が聞こえた。
ライターから吹き出る炎。炎は空気に触れると黒く変色し、穂村の身体を包み込んでいく────
「ちょっと、これはヤバいんじゃ」
ないか、と言いかけて拳に熱と痛みが走った。
「だ、い、いづ、いて」
痛みで口が動かない。思わず拳をすぐに引っ込めて、腕を使って前に跳び、地面を転がっていく。
いて、いてえ。超いてえ。しかも拳には火傷の跡ができている。なんだよ、アレ。ズルすぎねえか。
熱いだけじゃない。強度もかなりあった。アイツを倒すんなら、あの壁をどうにかしないと……。
◇◆◇
一服はさみ、再び談話室。
……あ、帝のコーラ忘れた。まあいいか。
同じように再び座って、健人くんが口を開く。
「で、です。協力するんなら互いの能力を把握してたほうがいいと思うんですけど、どうッスか」
「ああ、そっか。能力」
協力というからには一緒に戦うこともあるだろうし、互いの能力を知ってたほうが戦略とか立てやすいだろう。主に帝が。よしよし。ならさっそく能力を────
「待ってくださいセンパイ。近くに他の参加者いたらどうするスか」
「えっ?」
能力の説明やらするために解放しようとした瞬間、健人くんから必死に制止の声がかけられる。瑠璃ちゃんも引きつった笑みを浮かべて私のことを見ている。
……え、私なんかマズいことしただろうか。
「……知らないんですか、舞姫センパイ。能力を使うと近くの能力者が共鳴して、酷い耳鳴りを起こしちゃうんです」
と、引きつった笑みをそのままに瑠璃ちゃん。なにそれ私聞いてない。
「その様子じゃホントに聞いてないんスね……能力の使う度合いによって共鳴する距離は変わるんスけど、そんなに頻繁に能力は使うべきじゃないッスよ」
「知らなかった……」
じゃあここ最近ずっとしてた耳鳴りは帝のせいだったりするのか……。
「って、違う。それならもしかしたら帝、ヤバいかもしれない」
実験だと言って、結構な度合いで昨日能力を使ってたし。もし近くに参加者がいたなら────
いてもたっても居られなくなって、談話室から飛び出した。
シリアスになりきれないバトル……時間かけたくせに文字数少ないし。次は本気出します