第3話 『初戦、開戦』
舞姫と帝の関係を幼馴染から〝昔馴染み〟に修正。帝の能力名の修正。よくよく考えたらあいつら幼馴染ってほどでもなかったわ( ˙-˙ )
遅くなった上に今回少ないです。手を抜いたわけではないんです。本当です。
・刺青は参加者以外には視認できない。
・能力でいっぺんに強化できる〝力〟は3つまで。
・能力を使うと何故か黒目が紅く変色する。
「こんなもん、か」
新しく買い直したキーボードで、能力に関してのわかったことをまとめる。
例のゲームに参加して、約1日。
現世に戻ったあの後、抜けた腰を何とかしてちゃっかりキーボードを購入して帰宅。舞姫とは「色々整理しよう」という結果に至り、何をするわけでもなく家の前で別れた。
ちなみにこのキーボードは俺の金で買ったわけではなく、例の助けた子供の親から『何かお礼をさせてください!』と断っても断っても縋り付かれた結果、キーボード代をいただいて購入した代物である。ありがたいんだか申し訳ないんだか。
「──────」
右手の刺青を眺めて、溜息をひとつ。
力を力にする能力────よくわからないごちゃごちゃした名前の、人の領域を遥かに超えた能力。
正直手に余る。けど、ほんの少しだけワクワクしている自分もいる。
あんな物騒な言われ方こそはしたが、これは漫画やら所謂ライトノベルでよくある展開だ。そんな展開のど真ん中に放り込まれて、年頃の男の子がワクワクしないわけがない。
『その願いを使えば、キミの悲惨な過去も────』
「…………」
ゲームの賞品とやらは気になるけど、まだそれはいいだろう。勝ち残れるとは決まったわけじゃない。
そんな思考の連鎖から俺を現実に引き戻すように、ポケットに入れていたスマートフォンが震える。
ホーム画面にはチャットアプリの通知が一件。差出人は舞姫だ。
『ごめーん傘忘れたから学校まで持ってきて♡』
「………………………」
文面を見て、思わず頰がひきつる。
コイツはとりあえずハートつけときゃ可愛いとでも思ってるのか。しかも窓の外に広がる天気はお世辞にも良いとは言えるものではなく、一面の曇り空が広がっていて、雨もポツポツと降り始めている。
確か今朝のニュースでも雨の予報だったし、コイツはバカなのか。バカだとしか思えない。
『了解。コーラ買って待ってろ、引き換えな』
なんて、そんなバカに返してしまう甘い俺もまたバカなんだろうが。
◇◆◇
「えー、コーラ……」
帝からの返信に思わず溜息。まったく、けちんぼなんだから。
私、琴美舞姫は傘を忘れてなんだかなあ、と昇降口で待ちぼうけをくらっていた。
まあでも、この学校の校則はゆるく、ケータイを持ってこれることが唯一の救いだ。こうして帝に連絡はできるし、待ち時間が長くなるようならこうして暇つぶしをすることもできる。
……と言っても入ってるゲームのスタミナはあらかた消費してしまったわけだけど。打つ手なし!
「うぁーだめだ。ここで新しいゲームを入れるのもなあ……」
スマートフォンを片手に唸る。どうしても帝やら、誰かと一緒にいないと独り言が多くなっていけない。
ふと、足音が聞こえて独り言を抑える。誰かに独り言を聞かれるほど恥ずかしいことはないからね、しょうがないね。
ケータイをカバンに戻しながら足音の方に思わず視線を向けた。と、そこには
「あれ、舞姫センパイ。こんちゃー」
「うす」
同じ部活〝だった〟後輩二人が眠そうに片手を上げて立っていた。
こんちゃーと可愛い挨拶をしてくれたのは中村 瑠璃ちゃん。声変わりが始まったくらいの声で短くうす、と挨拶してくれたのは松崎 健人くん。ちなみに健人くんは松崎って苗字だけど、肌は黒くない。……あーこれ滑ってるなあ。
「久しぶりー、2人とも」
「久しぶりですねー舞姫センパイ。帝センパイとはどうなんですか?ええ??」
瑠璃ちゃんがニヤニヤと楽しそうな笑顔を貼り付けて寄ってくる。明るい笑顔の似合う、カチューシャをつけたショートカットの女の子。前髪があげられて全力で押し出されているおでこがチャームポイント。
「どうって……まー帝はアレだから。なんの進展もないよ」
「そりゃそうですよね……あのセンパイですもんね……」
お互い苦笑。密かにガッツポーズしたのは気のせいかな、瑠璃ちゃん?
瑠璃ちゃんと健人くんとは同じバスケ部だった。
……3年になってすぐに私はしんどくなってやめてしまったけど。1度、イヤイヤ言っていた帝を無理やり休日の部活に連れて行ったことがあって、何でか瑠璃ちゃんと健人くんは帝のことが気に入ってしまったらしい。まあ2人は帝の数少ない友人その2とその3なわけだ。ちなみに私はその1。健人くんは何か帝にライバル意識だとかそんなのを向けてるような気もするけれど。
「……………センパイ、その手」
懐かしいなあ、なんて1年と少し前の思い出に想いを馳せていると。
2人の視線が私の左手の甲────そこにある刺青を捉えたまま、固まっていた。
◇◆◇
ジメッとした風が鬱陶しい。これだから夏の雨は嫌なんだ。
雨が降るならいっそ涼しくなってくれればいいのに、と空を睨みながら住宅街を進んでいく。引きこもりたい。
「はあ……もう帰ろうかな」
いや、帰るわけにもいかないんだけど。ボヤいてないとやってられない。
曇り空から視線を前に戻して、溜息をひとつ。そんな俺のため息に混じって、カチッカチッと小気味の良い音が聞こえた。
「……お?なんだこの音」
カチッ、カチッという音は徐々に近づいてくる。
金属と金属をぶつけているような音。それが真後ろにまで来た途端────
「──────ッ!?」
熱と殺気を感じて、とっさに横に飛んだ。
シュボッという音と同時に、俺のいた場所に刃のようなモノ────いや、炎が現れた。
「あーあ、外しちまったか」
背後から聞こえてくる楽しそうな声。こんな事やらかすヤツは────
「────参加者か、畜生!」
横目で背後を見ながら、能力を解放する。一瞬目の前が紅く染まり、脳内に3本の回路のイメージが現れた。
「やっぱりお前も能力者か!右手の刺青が丸見えなんだよォ!」
再び感じる熱。回路の一本を脚〝力〟に繋ぎ、ありったけ能力を注ぎ込み強化し────跳ぶ。
「っ、ぶねッ!!」
お気に入りのパーカーを再び炎で出来た刃のようなものがかする。濡れた地面でなんとか受け身をとり、能力者と向き合った。
相手は黒いパーカーを羽織り、フードで目元を隠している。右手にはジッポーライターが握られていて、そこから普通ではありえない量の火が吹き出ていた。多分さっきから行われている攻撃はあのライターを使ったものだろう。なら能力は炎関連────
「不意打ちだなんて趣味が悪いな、お前。正々堂々戦ってこいよ」
「は。生憎オレの能力は一目見られただけでバレバレなんでね。対策を練られる前に倒しちまうのが一番いいのさ」
言いながら、再びライターから火が吹き出る。その火は大気に触れて黒く変色し、槍を型取り宙を舞った。
相手が槍を持ち、構える。
「番号XIII 穂村 礼二。さあ、お前の名前と番号は?開戦時に名乗んのは最低限のマナーだろ」
「……そうなのか。番号XV瑞樹 帝」
名乗りを上げて、構えを取る。
「さァ開戦の狼煙をあげろ!かかってこいやァ!!」
相手のやけにテンションの高い口上を合図に、俺の初戦が始まった。
◇◆◇
私たちの学校には談話スペースなるものが設けられていて、放課後は次の日の授業の予習をするものや友達とくだらない話に花を咲かせている人で溢れかえっている。
今日も例に沿って人がごった返しているのだが、むしろこれくらいがちょうどよかった。
……今からするのは願いを叶える権利をかけた、常識なんてものからは外れたモノの話。周りの話し声にかき消されるくらいがちょうどいい。
「じゃあ、この辺にしますか」
「ん、そだね」
談話スペースの端の方の席を陣取り、健人くん瑠璃ちゃんの後輩ペアと向かい合って座る。
座って、流れる沈黙。気まずい。
周りの話し声に耳を傾けていると、瑠璃ちゃんがゆっくりと、沈黙を切るように口を開いた。
「センパイ、参加者だったんですね」
「うん、まあ。いろいろあってね」
「………もしかして、帝センパイも」
「……うん」
そうですか……と俯いてしまう瑠璃ちゃん。
参加者、ということは戦ってその人に勝たなければいけない。その参加者の中に身内が2人もいたことがショックだったんだろう。
「というか私もビックリだよ。仮面の人には『残酷な過去を送ってきた』ってのが参加条件、みたいに言われたのに」
自分で言うのもアレだけれど、私も帝もまともな過去は送ってきていない。
でもこの目の前の二人は、それなりに普通の平和な日常を過ごしてきたはず。なのにどうして────と。
俯いたっきり黙ってしまった瑠璃ちゃんの代わりに、今度は健人くんが口を開く。
「……事故みたいなモンだったんです。だから、オレ達には願いがない────から、センパイ」
健人くんの視線が、私の目にまっすぐ刺さる。
「オレ達を、仲間に入れてくれませんか」