恋に落ちる
別に最初から君が好きだったわけじゃない。
むしろ、最初は君のことが嫌いだったんだ。
「本読むの、本当に好きなのね」
たくさんの本に囲まれたこの部屋で、彼の隣に私はわざと座り、声をかける。
本に向けられていた視線がこちらに向けられ、私の胸は少しだけ高鳴る。
「好きじゃなかったらここにいない」
そんな素っ気ない言葉を発して、彼はまた視線を私から本へと戻した。
素っ気ない仕草や、そんな言動が、私は大嫌いだった。人が話しかけているのだから、もっと気の利いた言葉を言えないのだろうか。
一言で終わってしまった会話を残念に思いながら、私もまた持っていた小説に視線を落とした。
「ああ、そうそう」
数十ページを読み終えたところだった。
彼は、静かに本を閉じて、私の方を向いていた。
私の視線と、彼の視線が、混じりあった。
「本も好きだけど、ここに来るのは、お前もいるからだよ」
そう発せられた言葉に、私は情けない声をだし、そして持っていた本を落としてしまった。
(本の主人公たちのような恋愛に憧れたわけじゃないけど、その一言で君に惚れてしまうなんて、私は少し単純過ぎるのだろうか)




