第六話 ~結局、何も変わらないもの~
「その・・えぇっと。先輩は・・彼女とかいますか?」
「ん?あぁ・・いないよ」
「じゃぁ、好きな人とかは・・」
「いない」
どこかで聞いた質問だ。
いや・・どこかで聞いてなくてはおかしい。
「あの・・誠先輩・・」
言うべきだろうか。やはり、見た。と。
あの手帳を見たと。
しかし、言いたい事ってなんだろう。
「私・・」
こんな時、彼女なら。なんて言うだろう。
・・いいや、忘れるんだ。彼女のことは。
ここは自分で乗り切らなければならない。
「花梨?」
「は、はい!?」
「笑わないで聞いてくれるか?」
「え・・え?」
「俺、未来から来たんだ」
「へ?」
さすがに無理がありすぎたかな。
・・それにしても、やっぱり彼女の言葉じゃないか。
「え、え、み、未来!?え!?」
新鮮な反応だ。唖然とするいうより、動揺しているような。
・・これ、信じてはいないだろうな。まさか。
「え、えと、つまり、私よりあとに生まれてて・・えぇと、過去に戻ってきたっていう・・えぇ!?」
信じちゃってるよ、この子。どれだけ素直なの。
まぁ、好都合・・かな。
「そ、そう。だから、君の未来を知っている」
「な、なんですか・・!?」
「でも君は、自分の未来を知らない」
「え・・?」
「過去も。思い出も。文字とでしか覚えてない。」
「・・・・」
花梨は黙り込んだ。
少なからず気づいたのだろう。自分のことだと。
自分の事象だと。
「・・・先輩・・」
「でも君は、今を覚えている。そしてこれからを楽しめる。」
また励ますだなんて言わないけど、
俺はきっとがむしゃらに抗うんだと思う。
ほおっておけないのだ。お節介で。
それでいて鈍感で。単純で。
だからこそ、まっすぐに。
「未来なんて見えたところで何も面白くない。過去なんて囚われるだけで、捨てたほうがいい」
正直、これは自分に言っている事でもあった。
だから少し、羨ましく思えてしまったのだ。事実を知ったとき。
過去を忘れられたらどれだけ楽だろうと。
でも、全てがすべて悪い思い出だらけじゃないだろう。
そんなものまで。自分まで忘れてしまったら。
ものすごく寂しいと思うんだ。
「本当に好きな記憶っていうのは。過去っていうのは。言葉じゃ表せられないものはさ。自分勝手なんだよ。わがままなほどついてくるんだ」
いくら忘れたくても。
「すべてが無益なんだよ」
ひどい言葉かもしれない。彼女に突きつけるには少し重すぎたかもしれない。
それでも過去にも未来にも縛られないものの定めはすべてを「無駄」にして生きていくことしかできない。
だからこそ。
「だからこそ、今を全力で楽しめ。そういうことだ。」
「嫌です。」
即答だった。俺は急な返答に固まってしまった。
「誠先輩のことも、この学校の思い出も、忘れたくない」
花梨はまっすぐな目で俺を見つめている。いや、睨んでいるだろうか。
「誠先輩が好きだっていう気持ちも・・忘れたくない」
「・・・・え」
今なんて言った?
「誠先輩。好きです。私、先輩のことが好きです」
「な・・え、えぇと」
「未来の私は、誠先輩と・・どうなっていますか?」
それは返事を聞いている・・と捉えていいんだろうな。
どうしよう。
どうしよう。・・・どうしよう。
俺は今、過去を捨てられるのか?
「・・・ごめん」
結局、あんな事を言っておきながら俺は。
無益にすがりついて、定めの螺旋を回り続けるのだ。
繰り返すように、何も変わらない。
「やっぱり、菖蒲先輩のこと。好きだったんですね」
「ど、どうしてそれをっ・・!・・あ」
「ふふっ・・図星ですね。そっかぁ・・勝てないなぁ~」
花梨は立ち上がり、手を背にこちらへ笑いかける。
「私を好きになった罪だ、ばーかっ!」
その目には、涙が流れていた。
「誠先輩が私をフッたとき、そう言えって菖蒲先輩に言われました」
「菖蒲が・・?」
そうか。花梨の白いマフラーは確か菖蒲からもらったんだっけ。
もしかしたら、その時とかに話していたのかもしれない。
「結局、過去を捨てられないのは誠先輩じゃないですか」
「そう・・そうだな。ごめん」
ただの見てくれ。さっきまでの自分はなんだったんだ。
結局俺はなにもかも自分のせいにできなくて。
全部他人事で。だから自分の事なんて考えてなくて。
だらしない。何も出来やしない。
「謝らないでください。そんなことより、やっぱり手帳見たんですね」
「うん」
「ずるいですよ。・・・ずるいですよ・・」
花梨の涙が勢いよく流れ始める。
「私はっ・・私はっ・・!こんな私じゃ好きになってくれないと思ってっ・・!忘れないように必死でっ・・!」
拳は儚げに震えていた。
「だからっ・・・だから私はっ・・ずっと誠先輩の近くにいたいんです!もっと近くにいてくれたら、絶対忘れないってっ・・!」
囚われた俺は、他の物も捕らえてしまったようで。
彼女は俺という過去に囚われているようだ。
「離したくないんですっ・・過去も全部!」
「いいんじゃないか?」
「・・・ふぇ?」
真っ赤に染まる目に、俺は一番近くで覗き込む。
そして、強く抱きしめてあげた。
はなさないように。
「花梨のこと。よく知らないけどさ。出会ってからの花梨は俺はよく覚えてるよ」
「うっ・・うっ・・」
「でも、今の花梨は。全てを言ってくれた花梨は。この手で覚えたから。頭じゃなく、この手で。絶対に忘れない。だから花梨も忘れないさ」
「ずるいです・・ずるいですよ・・!」
結局そのまま、花梨泣き終わるまでずっと抱きしめていた。
流星群のことなんてとっくに忘れて。




