第四話 ~無限にある、違う自分~
11月27日、28日、29日。
土日を経て、12月を迎える。
12月2日
今日も天気予報士は寒そうに今日の天気を告げる。
「寒っ!絶対、氷点下だろこれっ!もう絶対、信じねぇ」
恒例となった文句を並べる。
天気予報士も大変なんだな。ただ、天気を言ってるだけかなと思うけど。
当たらなければ、国民全土に文句を言われる。
寒さや暑さなんて人の感度によって変わるものだしな。
でも天気ってそういう移り変わりが楽しいんだろうな、と思う。
ある意味「未来予知」に似たものが、天気予報にはあるからね。
だからといって、天気予報士になりたいなんて思ったことないけど。
そもそも、文系の俺には理解不能すぎる。
そんな俺が星を勉強するには、かなりの苦労がいた。
放課後、天文学部に顔を出せば。花梨がいつも星の図鑑を抱えて待っている。
「待ってました!」
そう言うと「天体図鑑【冬の星】」と書かれた厚い図鑑を、ゆっくりと開く。
そして、毎回同じ星を読み上げる。
もちろん同じ図鑑を読み上げているので、全ての星を説明してもまた繰り返される。
一ページ目を再び迎えるのだ。
でも、花梨は一言一句「初めて」というように話を始めるのだ。
特に不思議に思わなかったが、たまに「同じような言葉」を発する。
どこかで聞いたことがあるなぁ・・・と。頭の片隅で違和感を覚える。
「よっぽど好きなんだね・・・」
「何がですか?」
「星が。だって、楽しそうだもん。いつも新鮮って感じで」
「いつも、新鮮?」
「同じ星、同じ文章で説明してるのに、毎回新たな星を紹介してるような。そんな感じ」
「そうですね。同じ星でも、昨日の星と今日の星と明日の星と・・無限にありますから」
なるほど。そう言われてみるとそうだ。
「たとえ同じ私でも、昨日の私と今日の私は違いますから」
俺らだって、昨日の自分や今日の自分、明日の自分がいるんだ。
たとえ同じ容姿、肩書き、性格だとしても状況や発する言葉、その日の過ごし方は全部同じってことはない。
何通りもの自分があるわけだ。
それは、今を今説明しないといけない。天気予報のように予測できない未来。
同じ星でも、こんな楽しみ方があったとは。感心した。
「きっと私は明日も同じ話をします。だけど、明日の天文学部にいる今日と同じ私と、明日の空に映る今日と同じ星。同じだけど違う。そこが面白くて、飽きない理由です」
「そうか。感心したよ。俺も興味を持てるようになってきた」
「え、私の説明じゃ興味持たなかったんですか」
「そういうわけじゃないよ!でも、見方を変えるとこんなにも違うもんなんだなって」
「そうですね。明日の自分が、星が楽しみになってくるんです」
「あぁ。今日はどんな空の、どの時刻に、どの距離で・・そうやって変わってくんだな」
花梨は俺の受け答えを笑顔で受け取っている。
俺も新しい考え方が、妙にはまってしまって楽しかった。
花梨も「わかってもらえてうれしいです」と、ガッツポーズをする。
「・・・明日は、不安でいっぱいです」
そうつぶやいていたのを気づいたのは、その日の夜だった。
頭の中でリピート再生されて、うるさかった。
自然に疑問が湧いてくる。なぜあの時、「不安」と言ったのか。
「明日の自分が、星が楽しみになってくるんです」
そう花梨は言ったはずだった。
まだその時は、花梨の言葉の意味を理解できなかった。
無限の星と、無限の自分。同じ自分でも、違う自分と例えたその言葉。
「たとえ同じ私でも、昨日の私と今日の私は違いますから」
あれは、星の例え話ではなく。自分に対する言葉だってこと。
気づき始めたのは、ふたご座流星群が流れる前日のことだった。




