第一話 〜天文学部、唯一の部員〜
「はぁ…」
冬休み一週間前。
夏休みは休み内に二週間だけ授業があるとかいう変な夏休みだったが。
冬休みはなにもない。存分に休める。
と言っても暇になるんだろうな。
冬休みは最大イベントがある。
クリスマスだ。男子生徒は誰もが期待する。
ただし、彼女持ちだけだが。
……あまりこれには触れないほうがいいか。
どこか、心が痛む。
でも、あの事は乗り越えるべきなんだと思うんだ。
菖蒲が死んだ事。
俺は彼女を忘れてはならない。
だけど、いつまでも好きという気持ちを捨てないで、引きずっていたら。
それこそ、菖蒲に怒られそうだ。
でも、唯一、心を分かち合った人を亡くすことは……とても辛い。
「それにしても…暇だなぁ…」
今は放課後の部活時間。
天文学部の部室。
ちなみに、天文学部は菖蒲が抜けた事によって、正式には俺しかいない。
他、部活として成立するための兼人がふたりいるだけ。
「あっ…!」
部活を保つには4人必要だ。
しかも、来年には俺も部活を引退する。
ぁ…サッカー部兼天文学部の櫻井陽もだな。そもそも、あいつは一年に二三度来るのがやっとだけど。
となると…花梨一人になる。
なんとか後輩を集めるか…新入生の勧誘を頑張ってもらうか…難しいか。
実際、この天文学部はほとんど活動実績を残していない。
校長に活動実績のレポートらしきものを顧問が出さないといけないのだが、この部は上級生が顧問を務め、実積がないのは校長が黙認している。この部だけ特別…。
このシステムを通したのは、花梨の姉の篠原胡桃。謎が多すぎて、何をやったのかは知らないが…これのおかげで、結構楽している。
…それはいいとして。
「どうするか…とりあえず、花梨に伝えとかないとな…美術部かな…?」
ここにいてもやる事がないので、花梨のとこまで行って伝える事にする。
「冬休みは課題もでないしなぁ…」
ドアを開ける。
「ふにゃっ!」
変な声がしたと同時に、なにかにぶつかったような音がした。
「あれ…?篠原さん…?」
後輩の篠原花梨が、ドアの前でうずくまっていた。まさか…
「ご、ごめん!大丈夫?」
「大丈夫…です。た、たぶん…」
「血とかでてないよね!?」
「本当、大丈夫です…」
そういうと、すくっと立ち上がった。
少し怒ってる顔だった。いや、これは事故で…
「誠先輩…私の事は花梨でいいって言ったじゃないですか…さん付けまで…」
「あっ…」
それか。忘れていた。
あの夏以降、花梨とは殆ど会っていなかったから…内心では花梨とよんでいるが、いざ声に出すと、敬語になってしまう…
「あ…その、ごめん。花梨。」
「いえ…だいぶあれから期間もたってましたしね…こちらこそ部室に顔出さなくてすみません。」
「いいよ、いいよ。花梨は絵が上手いんだし、美術部にいたほうがむしろ…」
「いえ!昨日、退部してきました!元々、冬までの兼部だったんです。今日からは、天文学部の部員として、よろしくお願いします!」
「ん?でも、一年の兼部って言ってたような…」
「あ…その、早くなったんです。」
まぁ、手伝う程度の兼部って言ってたし…
「誠先輩…ここで話すのもなんですし、中に入りません?」
「あ…あぁ、そうだな。」
とりあえず、部室にはいる。
俺はいつもの席に先に座る。
花梨は元菖蒲の席に座る。
…そこしかないんだけど。
「…そういえば、菖蒲先輩は…?」
「……転校した。」
「そ、そうなんですか。どこの学校ですか?」
「…聞いてないな…遠い場所だよ。」
「そうですか。残念です…」
本当の事はなぜか言えなかった。
そもそも、菖蒲が死んだというのは、この学校で担任先生と俺くらいだ。
他は転校して、どこかの高校で今も元気に…と思ってるんだろう。
「あ、それで…誠先輩は何処かに行こうとしてたんじゃないんですか…?あ、それなのに私。引き止めちゃっ…て…先輩?」
「あ、え?」
「何処に行こうとしてたんですか?」
どうやら、考え込んでいたらしい。
殆ど聞き流してした。
「えっと…あぁ、そうだ。花梨に伝えとかないといけないことがあったんだよ。」
「えっ、私にですか?」
「部活の件でね。部員の事だよ。」
「……そっか…そろそろ引退ですよね。2月からいなくなる…んですよね。」
「そう。そうなると、花梨一人になるんだ。存続されるためには、4人必要なんだけど…」
「……大丈夫です!私の友達でも誘ってみますし、新入生が入ってくれますよ!」
「そ、そうか…?」
言葉に熱が入っていた。
こんなに、部活の事を考えてくれている子だとは思わなかった。
だって、自分が辞めれば、簡単なのに。
「私、星好きですから!天文学部は存続させたいです。誠先輩のためにも…」
「え?」
「え、えーと、あの、い、今までの先輩達のために…という…意味で…」
「うんまぁ…」
この天文学部。創部5年くらいだけどね。
まぁ、それはともかく、花梨が言うなら安心できそうだ。
「俺も協力するよ。何かあったら言って。」
「はい!」
立ち上がって、ガッツポーズをする花梨。
律儀な子だって思ってたけど…
「意外と天然…?」
「えっ?う…えと…よく言われます…テンション上がっちゃうとなんか…すみません…」
「いやいや、もっと楽になっていいよ。2月まではふたりなんだし。」
「そ、そうですね…わかりました。」
花梨も知らない一面があるかもしれない。
"〜らしい"という自分の表し方は、縛られたものじゃないことは…菖蒲との件で打ち解けあったんだ。
花梨も律儀だけど、もしかしたら
我慢しているのかもしれない。
まぁ…先輩と後輩だから多少の礼儀さは必要だけど。
「あ…そうだ。すみません、私今日家の用事があって…帰らないと…」
「そっか…それなら俺も帰るわ。特にやることないし…とりあえず、今日は部員が集まればよしということで。」
「じゃ、じゃあ一緒に帰りませんか…?」
「どうせ、一緒になるだろ。もちろんいいよ。」
二回目の花梨との帰り道。




