三話
メンヘル要素が濃いです。ご注意を。
目当ての小さいビルが見えてきた。入口から奥へ向かい、ネットカフェの受付に着いた。
店員との決まりきったやり取りで、小さなクリップボードに止められた伝票を受け取り、席へと向かう。
荷物を下ろし、リクライニングソファに座る。そして大きなため息を吐く。
私はどうしたらいいかわからなかった。自分が本当に家出をしたいのかどうかも。してしまってから言うのもなんだが。
「どうしよう...」
とりあえず席にあった古いパソコンを立ち上げ、インターネットのページを開く。検索バーに「家出」と入力して、エンターキーを押した。
うわあ、ウィキペディアの「家出」の項目のページ以外はアダルトサイトばっかだ...
何か糸口が見つかるかと思ったのに。
私は諦めて仕方なく、CO-LLONEの動画を見ようと、動画サイトに足を向けた。パソコンの脇にあったヘッドホンをかぶる。
少し暗い店内の狭い個室で、パソコンの光が青白く光る。
「あっ」
ジュン君と行ったコンサートで流れてた曲だ。そうだ、ジュン君のことを思い出すのが辛くて、CO-LLONE、あんまり聴いてなかったんだっけ。
あの日を思い出す。楽しかったなあ...
前もそんなによくなかったけど、なんだか今の日々は、すべてが悪く思えて..
ジュン君...私も、もう死んじゃいたいよ....
でも、死ぬ勇気もない...
そう思うと力が抜け、私はリクライニングソファに横になり、腕で顔を覆った。長袖のTシャツに、静かに涙が染みていく。
ああ、もうダメだ。
私は起き上がり、無意識の内に「自殺」と検索していた。
検索結果にずらっと出てきたのは、自殺の意味を説明したページや、自殺を止めるためのページなどだった。
その中に一つ、掲示板のページがあった。「自殺掲示板」と書いてあった。
そのリンクをクリックすると、大量の文字がずらっとリンクになっていた。トピックの件名のようだ。
学校でいじめを受けている人や、重い病気を抱えている人、生活していくのが大変な人など、それぞれトピックを立てて、誰にも言えない気持ちをこうして書いている。
私も、ここに書いてみようかな...
私は、「初めましてトピ」と書かれたトピックの入力欄に、こう書いた。
17才女子です、初めまして。
友だちが亡くなりました。今度両親が離婚するらしいです。
どうしたらいいかわからないです。もう死にたいです。
普段、使い慣れないキーボードに苦戦したが、書けた。
文章にしてみると、なんだか少しだけ気分が落ち着いた。
でも、たったこれだけ、数行で済んでしまうことなのかと、少し虚しく思った。
本当の愛の詩ほど、白けるくらいに単純なのと、似ている気がした。
メールアドレスを入力する欄があったので、ケータイのアドレスを入れて、投稿ボタンを押した。
元のトップページに戻ると、チャットのページがあるらしい、私はクリックして、チャットに入った。名前はなんとなく"ジュンコ"にした。
誰かと話したい。
ジュンコ:初めまして、ジュンコです。
タイガー:こん!初めまして!
夕紀:初めましてジュンコさん
( ;´Д`):こん!
え?"こん"って何?
ジュンコ:こんってなんですか?
タイガー:こんばんはの略だよ
へえ、そうなんだ。
ジュンコ:そうなんですか。ありがとうございます。
タイガー:ジュンコさんっていくつ?
ジュンコ:17才です。よろしくお願いします。
( ;´Д`):若いね!
ジュンコ:みなさんはおいくつなんですか?聞いてもいいですか?
タイガー:35wwwはいよろしく
夕紀:私は23です、よろしくお願いします。
( ;´Д`):俺は24!よろしくね!
なんだかこのチャットはイメージと違って、みんなで明るく話す場のようだった。好きなもののことや、さいきんの出来事など、話した。
タイガー:じゃ、おれ寝るわ、おやすみー
夕紀:おやすみなさい、タイガーさん。
( ;´Д`):おやすみー
ジュンコ:おやすみなさいタイガーさん。
( ;´Д`):どうしよう今日またねむれる気しない(笑)
夕紀:大丈夫ですか?薬効かないんですか?
( ;´Д`):調子よくなくてね;大丈夫だよー
夕紀:そうですか、、
眠れないという( ;´Д`)さん。不眠症というやつだろうか?わからないけど、むやみに聞くのは悪いし...
夕紀:私もそろそろ落ちます、おやすみなさい。
( ;´Д`):おやすみ!
ジュンコ:おやすみなさい、夕紀さん。
そしてチャットルームには私と( ;´Д`)さんだけになった。
( ;´Д`):ジュンコさんって○○市なんだよね、俺近いよ○×市だし
ジュンコ:そうなんですか!隣ですね!
( ;´Д`):ところで寝なくて大丈夫?
ジュンコ:最近、私もあまり眠れないんです。
( ;´Д`):そっかあ、病院とか行ってる?
ジュンコ:いいえ、行ってません。( ;´Д`)さんはどこかお悪いんですか?聞いてもいいですか?
( ;´Д`):行ってるよ、ちょいうつで精神科
え、精神科?病院って精神科のことなんだ。私は少し怖くなった。
ジュンコ:そうなんですか...
そうだ、メンヘラとか聞いたことある。うつとか、精神病で、病院に通ってるんだ。
なんか、私なんかがここにいていいのかな...
( ;´Д`):気分が重かったり眠れなかったり食べられなくなったりしたら病院行くのおすすめするよ
ジュンコ:そうですか、ありがとうございます。
( ;´Д`):いえいえ、おせっかいでごめんね
ジュンコ:そんなことないですよ。
( ;´Д`):よし、じゃ俺もちょっと寝られるかやってみる、おやすみ!
あ、もういなくなっちゃうのか...
ジュンコ:おやすみなさい( ;´Д`)さん。
私がチャットに入ったのが夜中の3時くらいだったからか、すぐにみんな寝てしまった。
ふとケータイを確認すると、電話とメールが来ていた。
母から5件着信、3件メール。無視した。
それから、知らないアドレスから1件メール。誰からだろう。
受信ボックスからメールを開く。
件名:初めまして
本文
自殺掲示板見ました、私も今死にたくてたまりません。
どこに住んでいますか?近くなら、会えませんか?
何これ。気持ち悪い。出会い系サイトと間違えてるんじゃないの?
私はそのメールは無視しようと思った。が、最後の文で、その気持ちが揺らいだ。
一緒に死にませんか?
お返事待ってます。
一緒に...死ぬ?それなら、あんまり怖くないかもしれない。
もうどうでもいい。
もしかしたら売り飛ばされるかもしれないなんて、私は考えていなかった。
私はそのメールに、あいさつと、今いる場所だけ書いて、返信した。
すぐにまた返信があった。
件名:返信ありがとうございます
本文
うちからすごく近いです。
今は何をしているんですか?これから会えませんか?
「なんだかすみません、夜中に連れ出してしまって...」
「いえ、いいですよ」
私が駅前に着いてすぐに現れた彼は、洋二さんというらしい。
私は洋二さんと歩きながら、気分が重く、胸が苦しく、頭が全く働かないのをうっすらと自覚していた。
「うち、すぐ近くなんで...」
洋二さんは終始申し訳なさそうにしていた。




