婚約破棄した王子を底値で買います
第一王子クラウス殿下が震え気味の声で仰います。
頑張って!
「僕はベアトリス・アッシャーブルム公爵令嬢との婚約を破棄する」
「はい、殿下の仰せに従いますわ」
茶番です。
アッシャーブルム公爵家主催のパーティーでこの演出ですものね。
やり過ぎじゃないかって、眉を顰めているパーティー参加者も多いのですけれど、ベアトリス様や公爵様は気付いていますかね?
どういうことかですか?
ミルカーランス辺境伯家の件ですよ。
先日御当主様がお亡くなりになって、テレンス様に代替わりしたでしょう?
クラウス殿下の生母である正妃様はミルカーランス辺境伯家の出ですけれども、テレンス様とは兄妹仲が大変悪いと言われていますから。
影響力がガクンと落ちるのではないかとのもっぱらの噂なのです。
一方で第二王子ウォーリー殿下の生母である側妃様はハウイット伯爵家の出。
現在宰相を務めるシェルドン様の娘でしょう?
赤丸急上昇中と見られているのですね。
だからベアトリス様ったら、下り坂のクラウス殿下を見切ってウォーリー殿下に乗り換えなさって。
……一説に実直なクラウス殿下に飽き足らなくて、甘い言葉を吐くウォーリー殿下によろめいたとか。
ろくでもないとは誰もが思っていることですけれども、大貴族アッシャーブルム公爵家には勝てないのですわ。
それにバックが弱くなったクラウス殿下よりも、ウォーリー殿下の方が王太子に相応しいと見る向きも多くて。
……もっとも真面目なクラウス殿下の婚約者に、発展家のベアトリス様は似合わないと、わたくしは常々思っていましたけれど。
今日の婚約破棄は、アッシャーブルム公爵家の意向で行われるとのこと。
ベアトリス様が積極的に主導したというより、婚約破棄されたのでウォーリー殿下に近付いたとするほうが外聞がいいからでしょう。
でも皆さん内幕を御存じですので、アッシャーブルム公爵家のあざとさが浮き彫りになるだけですけれどもね。
ああ、ウォーリー殿下とベアトリス様による第二幕が始まりましたわ。
ウォーリー殿下のセリフ、何が『哀れなベアトリス嬢』ですか。
喜色満面ではないですか。
三文芝居も甚だしい。
バカバカしいったらありゃしません。
クラウス殿下が肩を落として下がっていきますね。
……誰もクラウス殿下に注目していません。
チャンスです。
わたくしもクラウス殿下を追って控え室へ。
「クラウス殿下」
「ん? ああ、シンシア嬢か」
「ハーブティーを持ってきたのですよ。殿下もどうぞ」
「ああ、ありがとう」
大分お疲れのようですね。
わかりますけれども。
「今の公開婚約破棄、ひどい話ですね」
「僕に同情してくれるのかい? では僕が強要されて、ベアトリスとの婚約を破棄したことも知っている?」
「今日のパーティー参加者は全員知っていると思いますよ」
「ハハッ、そうだったのか」
乾いた笑いですね。
でもガッカリすることはありませんよ。
クラウス殿下が言います。
「陛下も母上も存じているんだが静観でね」
ふうん?
正妃様はともかく、陛下が口を出さないのですか。
何か意図がありそうですね。
「シンシア嬢は僕の側にいるべきではない。今後ネイシエレス王国は、ウォーリーとアッシャーブルム公爵家を中心に動くだろうから。僕に近付いていいことはないよ」
「でしょうか?」
「ああ。ウォーリーやベアトリスに白眼視されるだろう」
「多分大丈夫です」
「ふむ、何故?」
ちょっと興味がおありのようですね。
「わたくしは伯爵家の娘に過ぎませんので。仮にわたくしがクラウス殿下の婚約者になったとするではないですか」
「婚約者」
仮に、ですってば。
はしたなくもないですってば。
呆れたような目で見ないでくださいよ。
「するとウォーリー殿下やベアトリス様は、クラウス殿下は強い後ろ盾を求めること諦めて、ロックウェル伯爵家の娘で満足した。自分達が次期王次期王妃に一歩前進したと思うでしょうね」
「……なるほど?」
「一方でわたくしとロックウェル伯爵家の思惑というのもありまして」
「何だろう。聞こう」
クラウス殿下が前向きになってきました。
よかったです。
そういう覇気のある目が似合いますよ。
「うちは商会を営んでいるのです」
「うむ、よく知っている」
「商売には強いと思っていただいて結構です。そのロックウェル伯爵家の娘が見るところ、現在のクラウス殿下は大変お買い得なのですよ」
「お買い得」
「底値と言い換えてもいいです」
再び呆れたような目ですけれども。面白がっているのはわかりますよ。
「殿下を取り巻く状況が不利に働いていますね。逆風なのは誰が見ても明らかです」
「であろうな」
「ところがクラウス殿下御自身の失策ではありませんよね? 殿下が優秀なのもハンサムなのも変わりありません」
「だから今買っておくということか」
「はい。わたくしを殿下の婚約者にしていただけませんでしょうか?」
仮に公爵令嬢や侯爵令嬢がクラウス殿下の婚約者になると、おそらくウォーリー第二王子殿下の派閥に大いに警戒されると思います。
ネイシエレス王国を割ってしまう可能性を考えてもよろしくありません。
でも一伯爵家の娘ならいかがです?
子爵家以下の家格から婚約者を得るのは軽過ぎるでしょうが、わたくしならちょうどいいのではないでしょうか?
「驚いた。学院で成績がいいことは知っていたが、シンシア嬢がここまで賢いとは。僕以上に状況が見えているじゃないか」
「傍からはわかりやすいというだけですよ」
「可愛らしいだけではないのだな」
まあクラウス殿下ったら。
可愛らしいだなんて。
嬉しいですね。
「どうでしょうか、わたくしをクラウス殿下の婚約者にしていただくという案は」
「これシンシア嬢の父君はどう考えているのかな?」
「もちろん賛成ですよ。うちの商会は王都近辺には強いですけど他はもう一つですから、正妃様の御実家であるミルカーランス辺境伯家と縁ができるのは万々歳なのです」
「伯爵は賛成か。……母上と辺境伯家当主のテレンス叔父上とは、現在仲違いしていてな」
「存じております。ロックウェル伯爵家が間に入り、全力で関係改善に取り組ませていただきます。それがうちの利益にもなりますので」
わたくしのプレゼンはこれで終了です。
さあ、クラウス殿下の考えはいかに?
「実にいいね。陛下に相談してみるが、まず問題なく認められると思う」
「ありがとうございます!」
「まだ早いよ」
「いえ、わたくしがいいと、クラウス殿下に思っていただけたことが嬉しいのです」
うふふ、殿下の顔が赤くなりました。
可愛いところがおありなのですから。
「と、とにかく陛下に諮ってみるから」
◇
――――――――――一ヶ月後、王宮にて。
「……というわけなの」
本日は王宮にお呼ばれして、クラウス殿下との婚約後、初めてのお茶会です。
クラウス殿下の他、正妃様も参加されています。
「母上と叔父上との確執って、そんなくだらないことだったのか」
クラウス殿下がぼやいています。
いえ、わたしが聞いてもバカみたいだなあと思います。
辺境伯テレンス様が、正妃様の好物だという辺境伯領の柑橘を王宮に届けたのだそうで。
正妃様は喜んで、パティシエにスイーツを作らせ食べたとのこと。
ところがこれを聞いたテレンス様がむくれてしまったのですって。
辺境伯領の柑橘はそのまま食うのが一番美味いに決まってる。
姉上は王都にかぶれてしまったのかって。
その後は売り言葉に買い言葉で険悪になってしまったのだそうで。
「わたしもテレンスとケンカしているのはよろしくないと思っているのよ」
「僕が迷惑を被っているのですが」
「あら、クラウスはよかったじゃない。シンシアちゃんみたいないい子が婚約者になってくれたのですから。不幸中の幸い」
「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです」
「ベアトリスちゃんは……王妃なんて務まらないと思うわよ」
えっ? ベアトリス様は意外と如才ない方だと思っていましたが、正妃様の評価は高くない?
単にクラウス殿下との婚約を破棄したから好かないというだけではなくて?
お妃教育が進んでいなかったのかしら?
わたくしもクラウス殿下の婚約者として、お妃教育は始まっていますが……。
クラウス殿下は頷きながら言います。
「ベアトリスは愚かではない。要領もいい。が、我が儘で自分勝手なのだな」
「アッシャーブルム公爵家の令嬢なの、という傲慢さが前面に出過ぎているのよね。その態度が反感を買うと理解していないのがよろしくないわ」
確かに。
先日の婚約破棄の有様はそうでしたね。
くだらない茶番劇を見せられていると、快く思っていない参加者は多かったと思います。
「シンシアちゃんはいいわあ。とっても可愛いわあ」
「王妃は可愛いだけでも務まらぬのだが、シンシアなら素養を身につけていくだろうな」
「えっ? わたくしは王妃などという大それた考えはもっていないのですが」
「備えあれば憂いなしということよ」
正妃様の微笑から考えは読めませんねえ。
でもウォーリー第二王子殿下が王となり、宰相閣下やアッシャーブルム公爵家が支えるという構図は難しいと見ているみたい。
となるとクラウス殿下が再びクローズアップされてくることはあるのでしょうか?
いえいえ、婚約者が伯爵家の娘であるわたくしですよ。
ムリだと思うのですけれど……。
とにかくわたくしはできることをやるだけですね。
「シンシアちゃん。弟テレンスのほうはどうにかなるかしら? テレンスが領にこもって出てこないのは、ネイシエレス王国全体を考えてもよろしくないのよ」
「正妃様と辺境伯様の関係がこじれているのは理解いたしました。ではクラウス殿下と辺境伯様との関係はいかがなものです?」
「僕が叔父上に何だかんだと言われているわけではないな。姉の息子という目では見られるのだろうが」
「ならば殿下とわたくしが婚約したことを口実に、殿下からわたくしの実家ロックウェル伯爵家を辺境伯様に紹介していただくのがよろしいですね」
そうしていただけば、商人スキルで関係を深めることはできますよ。
辺境伯様も領を発展させたい思惑はあるでしょうから、姉である正妃様とは別の王家と繋がるルートに興味を示すと思います。
となれば徐々に正妃様と辺境伯様との仲を取り持つことは可能です。
だって正妃様に和解の意思があるのですから。
「ふうむ、シンシアは大したものだな」
「いえ、とんでもないです」
「人間関係の調整に強い気がするわね」
「商人寄りの伯爵令嬢だな」
かもしれません。
人脈は大事とお父様によく言われていますしね。
「シンシアちゃん。テレンスとクラウスのこと、よろしく頼むわね」
「全身全霊をもってことに当たらせてもらいます」
◇
――――――――――半年後、王宮にて。宰相シェルドン・ハウイット視点。
陛下に拝謁する。
呼び出された用はわかっている。
そろそろ建国祭のことを考えねばならん時期であるし、今年は第一王子クラウス殿下の成人の年であるから。
立太子の発表は建国祭で行われることが多い。
「シェルドン、率直な意見を聞かせよ。王太子はどちらにすべきだと思う?」
どちらとは、第一王子クラウス殿下か第二王子ウォーリー殿下のいずれかという意味であろう。
それ以外の王子はまだ若く、婚約もしていないから、立太子の必然性がない。
どちらが次代の王に相応しいかと言われれば……。
「論ずるまでもありません。クラウス殿下がよかろうと思います」
「ほう?」
陛下が少しだけ意外そうな表情を見せる。
第二王子ウォーリー殿下がわしの孫であるからだろう。
しかし……。
「理由を聞こうか」
「長幼の序に則り、また正妃様の王子でありますれば」
当たり前の理由だ。
クラウス殿下は、瑕らしい瑕が公開婚約破棄事件しかない。
その公開婚約破棄事件も、アッシャーブルム公爵家があえてやらせたなどと自ら吹聴しているものだから、却って同情されている始末。
まったく公爵もベアトリス嬢も驕り過ぎている。
元々クラウス殿下は優れた王子であったのだ。
単純に器量をウォーリー殿下と比べても上であろう。
しかも新たに婚約者となったシンシア・ロックウェル伯爵令嬢が只者ではなかった。
正妃様と辺境伯テレンス殿を和解させ、クラウス殿下の後ろ盾を強くした。
同時に辺境伯家との関係を深めて、ロックウェル伯爵家自体の影響力を大きくした。
騎士団寮や憲兵詰め所、国教会礼拝堂、王立孤児院などをクラウス殿下とともに頻繁に訪れ、人気と知名度を上げている。
貴族学院の成績も妃教育の進捗もいい。
挙句の果てに宰相府にまで時々差し入れしてくれる。
「クラウスの婚約者、シンシア嬢をどう見ている?」
「よくできた令嬢です。まさにシンシア嬢とロックウェル伯爵家あったればこそ、クラウス殿下の実直さが光るものと思います」
あれほどの令嬢とは思っていなかった。
地位を与えれば伸びる者はいる。
シンシア嬢もその類か。
「アッシャーブルム公爵家とロックウェル伯爵家では、後ろ盾としての力に差があるであろう?」
「御意」
問題はその点だ。
しかしアッシャーブルム公爵家の面々は、自らの力を頼みにするところ大きい。
アッシャーブルム公爵家がネイシエレス王国を支える、というくらいの自負があるのだ。
勘違いもいい加減にしてもらいたい。
宰相であるわしにも働きかけてくるが、正直邪魔でしかない。
「削れ」
「は?」
ポンと陛下に渡された、これは……。
公爵一族の失言集。
そしてちょっとした税金の誤魔化し、領民の怨嗟の声、商人に対する未払い、学院でのベアトリス嬢の虐め行為、その他もろもろの証拠か。
アッシャーブルム公爵家の力を削げということだな?
「王家の影に調べさせたものだ。有効に使え」
「はっ!」
「まあ残念ながらウォーリーは王の器ではない。そなたの孫でもあるのにすまぬな」
「いえ、とんでもございません。わしは陛下の、ネイシエレス王国の忠実な臣でございますれば」
「うむ、アッシャーブルムの行き過ぎは目に余る。そなたもやりにくかろう」
「……正直に申せば」
「クラウスが次代の王ならばアッシャーブルムは邪魔だ。建国祭までに処理しておけ」
「はっ!」
陛下もまた、アッシャーブルム公爵家を必要としない選択をした。
陛下の御心はよく理解した。
クラウス殿下が王太子か。
うむ、孫のウォーリー殿下が王になるという、夢は夢でしかなかったな。
現実になったらわし自身が苦労しそうだ。
「シンシア・ロックウェル伯爵令嬢か」
「陛下もよくクラウス殿下の婚約者として見出されましたな」
いや、半年前はウォーリー殿下が王太子という路線が本線だったか。
ウォーリー殿下に支持を一本化するため、あえて家格が低めの令嬢を指名したということかもしれぬ。
「ハハッ、それがな。クラウスによると、シンシア嬢の自薦なんだそうな」
「自薦?」
「うむ、例のベアトリス嬢を婚約破棄した日があったろう?」
「アッシャーブルム公爵家のパーティーですな?」
「その日に言われたそうな。底値でお買い得だと」
唖然とした。
しかしクラウス殿下が底値でお買い得、言い得て妙だ。
「予はむしろシンシア嬢をウォーリーの婚約者として考えていたのだがな」
「やはり目をつけてはおられたのですな?」
「婚約者候補リストにあった令嬢の中では優秀とされていた。商人のような気の使い方は、王妃向きだとは思わなんだが」
シンシア嬢がウォーリー殿下の婚約者だったら。
優秀な王弟としてネイシエレス王国を支えたかもしれぬなあ。
いや、その場合はベアトリス嬢がクラウス殿下の婚約者のままなのか。
うまくいかぬものだな。
ハハッ、すっかりベアトリス嬢が悪女扱いだ。
「シェルドン。ともかくあとは任せたぞ」
「はっ」
◇
――――――――――さらに三ヶ月後、王宮にて。シンシア視点。
王宮のお茶会にお呼ばれしました。
お妃教育がてらなので、今日は正妃様と二人でクラウス殿下はいません。
ちょっと寂しいです。
「おバカさんなことになったわねえ」
正妃様の呟きに苦笑せざるを得ません。
先日の陛下の在位一〇年を記念するパーティーで、ウォーリー殿下と婚約者のベアトリス様が大喧嘩したんです。
互いに飲み物をぶつけ合って大騒ぎでした。
陛下がさぞかし怒るかと思っていたら、笑っていましたけどね?
「本当にそうですね」
「シンシアちゃんには教えてあげる。あれには仕込みがあったの」
「仕込み……ですか?」
「ウォーリーとベアトリスちゃんでは国が治まらないということを、パーティー参加者に知らしめるためにね」
正妃様の説明はこうでした。
アッシャーブルム公爵家の領政や徴税に不備があることが司法省や財務省に指摘され、御当主の公爵様が過ちを認めて謝罪し、最近謹慎したそうで。
おまけにベアトリス様も学院での横柄な振舞いが問題視され、厳重注意を受けていたとか。
「王太子を狙うウォーリーはベアトリスちゃんを叱責したの。足を引っ張るとは何事だと」
「ある意味当然と思います」
「でもウォーリー自身も下級生の美少女令嬢にクラッと来てしまっていて、それをベアトリスちゃんに察知されていたのね。今二人の仲は最悪で。パーティーで二人がうまくいっていないことを、それとなく参加者にわからせるだけのつもりだったのよ? なのにあろうことか大喧嘩を始めてしまったの」
「状況は理解できましたが、どの辺が仕込みなのでしょう?」
「全部よ。公爵家の不備やベアトリスちゃんの横柄さは、もちろん以前からわかっていたの。見逃していただけ」
ベアトリス様の学院での高飛車な態度は、誰もが知っていましたけど触れられない部分でしたね。
「建国祭でクラウスが立太子するでしょう? 求心力を高める必要がありますからね。相対的にウォーリーとベアトリスちゃんの評判を下げなくてはならなくて」
「何とまあ」
「陛下と宰相の画策よ。ちなみにウォーリーへのハニートラップも仕込みと聞いたわ」
「何とまあ」
陛下も自分の息子にハニートラップだなんて。
王家の評判にも関わるでしょうに、シビアなものですねえ。
「ウォーリーとベアトリスちゃんの婚約は解消秒読み。これで名実ともに王太子はクラウスのものよ」
「はい……お膳立てしてもらったのですね」
「それだけクラウスとシンシアちゃんに対する期待が高いということよ」
「身が引き締まります」
「クラウスとシンシアちゃんの子供に対する期待も高いと思うの」
一瞬何のことかと、意味が頭に入ってきませんでした。
理解すると、顔が赤くなるのを自覚します。
もう、正妃様ったら。
「け、結婚はわたくしが成人してからですから、まだ一年以上ありますね、はい」
「これまでクラウスが一緒のお茶会ばっかりだったから、色々聞けなかったのよ」
「何をでしょうか?」
「クラウスのことをどう思っているか。シンシアちゃんの本心が知りたいの。これは王妃命令よ」
王妃命令って。
完全に面白がる気満々ではないですか。
「シンシアちゃんの方から売り込んだって聞いたわよ? 例の婚約破棄の日に」
「そうなのです。クラウス殿下が婚約破棄という決断をなさって。でも格好良くて成績優秀で剣の腕も立って決断力があってお優しい王子様であることは変わらないですから」
「随分並び立てたわね。クラウスのことを大変好いているということは、今の熱意で伝わったわ」
「一番好みなのは顔です」
「あら、御馳走様」
ウフフオホホと笑い合います。
「クラウスがベアトリスちゃんとの婚約を破棄したこと。あれはクラウスの意思も入っているのよ。アッシャーブルム公爵家の圧力があったのは事実ですけれども」
「そうだったのですか?」
「ええ。もちろん事前に話は聞いていたのですけれども、陛下もわたしもその決定には関与していなくて。……ミルカーランス辺境伯家の事情が絡んでいたから、わたしは口を出せなかったのです」
正妃様と辺境伯テレンス様の確執とされていた問題ですね。
無事解決できてよかったです。
「アッシャーブルム公爵家には、ベアトリスちゃんの夫が王だという考えがあったと思うわ。勢力バランス的に必ずしも間違ってはいないけれども、その考えは王家の誰もが面白く思っていなかった。ウォーリーも含めてね」
「えっ、ウォーリー殿下もですか?」
ではクラウス殿下を追い落とし王太子になるために、必ずしもよくは思っていなかったけれどベアトリス様に近付いたのですか。
ウォーリー殿下もやりますねえ。
惜しむらくは詰めが甘かったですけれども。
「悪いけどベアトリスちゃんは結婚できないと思うわ。第一王子第二王子とうまくいかなかった令嬢をもらうなんて、王家に睨まれたいって言っているようなものですからね」
「はい、わかります」
「現在のネイシエレス王国には既に、アッシャーブルム公爵家の勢力を生かして支配体制に組み込むという考えはありません。繰り返し頭を小突いて台頭しないようにするでしょう」
わたくしもお妃教育が進んで理解しましたが、王家は強いです。
おそらくアッシャーブルム公爵家が考えるよりもはるかに。
ベアトリス様もお妃教育を真面目にこなしていれば、従順な妃を目指したかもしれませんのに。
いえ、その場合わたくしの出番はなかったですか。
ある意味ベアトリス様のおかげでした。
「ただあの婚約破棄の時点ではまだ、アッシャーブルム公爵家を生かすという考え方が主流だったのよ。アッシャーブルム公爵家からの突き上げがあって、またクラウス自身もほとほとベアトリスちゃんのことが嫌になって。ウォーリーとベアトリスちゃんの君臨するネイシエレス王国を、皆が容認しかけたタイミングだったわ」
「はい」
「それを独力でひっくり返したのはシンシアちゃんよ。すごいわ」
「いえいえ、過分な褒め言葉です。恐れ多いです」
「うふふ、わかる人にはわかっていますから。陛下とか、宰相とか」
本当に恐れ多いです。
わたしには次期王の婚約者になろうだなんて気持ちはなくて。
クラウス殿下がお買い得だから買っておきたかっただけなのです。
「我が子クラウスも報われました。わたしはシンシアちゃんにはとても感謝してるのよ。だからサービスで教えてあげるわ」
「何をでしょう?」
「クラウスがシンシアちゃんのことを、本心でどう思っているか」
正妃様なら、当然クラウス殿下にも詰め寄っているでしょうね。
押しが強いですから。
「ぜひ聞きたいですね」
「一言、好きだって。これ以上ないくらいシンシアちゃんを気に入っているわ。鼻の頭を擦りながら言っていたもの。あれはクラウスの照れた時の仕草なのよ」
「嬉しいです!」
わたくしのことを好いていてくださったとは。
またクラウス殿下照れた時の仕草というのも見てみたいものですね。
楽しみが増えました。
「どうしたんだい? 楽しそうだね」
「あら、クラウス」
「いらっしゃいませ」
「何の話をしてたのかな?」
「女同士の秘密よ。ねえ、シンシアちゃん」
「はい」
クラウス殿下は微妙な顔も男前ですね。
わたくしは殿下のために、王国の未来のために、もっともっと頑張りますよ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
どう思われたか下の★~★★★★★で評価してもらえると、励みにも勉強にもなります。
よろしくお願いいたします。




