6.魔術の関係性
サーシャが魔術学校の高等部ということなら、魔力の基礎の話はされているはずだが、基礎とは忘れていることも多々あるものだ。
改めて話すことで、どこが上手くいかない原因なのか、突き止めることができるかもしれない。
「魔力は体内に流れているものと、体外で空中に満ちているものとがあります。それぞれ言えますか?」
「体内がオド、体外のものがマナだな」
「そうです。私たちはオドで直接魔術を発現させることも出来ますが、このオドを使い、空中に満ちているマナを借りて魔術を行使することも出来ます」
人形の周りには水の膜を張り、その周りには小規模な霧を再現した。
これが仮にイメージする、オドとマナである。
ここまではいい、ここからが徐々に魔術師見習いたちの頭をこんがらがせる内容なのだ。
中等部辺りで習う内容だが、この人はどこまで理解が出来ているのか、まずは知る必要がある。
「魔力を使う時、基本的には陰と陽魔術が、五属性魔術への橋渡しの役割をします」
ヴァニーユは幻覚の右手に二つの水の玉、左手に五つの玉を浮かべる。
これが『属性魔術』と仮に置く。
「陰と陽魔術は特殊な役割を持っており、魔力の濃度が薄い場合は、この橋渡しの役割にしか使えません」
陰と陽の2つの玉から糸のように水を伸ばし、そして属性魔術へと繋げる。
「ここまで大丈夫ですか?」
「あぁ。陰と陽はオドの濃度が濃い者のみ、それを具現化出来るのだろう?」
「そうです。私はオドの濃度が濃いので、陽魔術の具現化も戦闘する際の手札として使えます」
シェリー村が竜に襲われた時に放ったあの眩しく輝いていた魔法は、この『陽魔術の具現化』だ。
それは、オドが濃い者にしか使えない――つまり、陰魔術と陽魔術は、オドの濃度が薄い場合では攻撃魔術として使えないのである。
しかし、マナを自分の得意な属性魔術「土」「水」「雷」「火」「風」へと変化させる際に、この陰もしくは陽魔術の力が、ほんの少しオドから必要になる。
これが「橋渡し」の意味だ。
「ほとんどの人は、陽魔術を使います。……陰魔術の使い手は少ないので、私もその原理をよく知りませんが……」
「陰魔術は借り入れるマナの強制力が強いんだ」
「強制力……?」
サーシャの言葉にヴァニーユは眉を顰めてその話に聴き入る。
「知り合いの話だが、陰魔術の使い手がいる。その人は陰魔術と陽魔術の違いを、こう話した」
うとうとと眠りそうになっていたライラックまでもが顔を上げて、サーシャをその目にしっかりと映していた。
陰魔術の使い手は少なく、その人の意見を間接的に聞けることすら、珍しいことなのだ。
「陽魔術はオドでマナを借り入れて使うのに対し、陰魔術はオドでマナを強制的に集めて体内のオドに溶かし込み、使うことが出来る。……ただしそれは、体に大きなは負担をかけることだと言う」
「――その情報は誰から聞いたものかは」
「悪いが、言えないな。きっとそのうちわかるだろう」
陰魔術とは「魔力を奪う力がある」とは、授業でも習った。
しかしそれは「そういう仕組み」としか話されることはなく、実際に使い手から語られることも少ない。
なぜなら陰魔術の使い手が、あまりにも少ないからである。
「……魔術の基礎は大丈夫そうですね。あとは、魔力測定はしましたか?」
子供の魔力は少なく、基本的に学校で測るなら高等部へ進んでからとなる。
彼は恐らくもう測ったことだろう。
ヴァニーユも師匠の元で測ったことはある。
「魔力か――あぁ。それはもう美しく、深い夜空の色であったぞ」
魔力測定をした時のことを思い出しているのか、サーシャは柔らかな笑みを浮かべて目を閉じた。
それを聞いたヴァニーユは、思考が一時停止をする。
「……深い夜空の色……ですか? 正気で?」
「あぁ。測ってみるか?」
「……ちょっと、この目で確認させてください」
この国では、魔力は魔水を定型の丸い瓶に入れ、魔力を込めることでオドの量と濃度を測る。
魔水の色は最初は透明だが、魔力量が多ければ濃い青色になり、魔力の濃度が濃いほど暗くなる。
つまり夜空の色とは、オドの量も濃度も最高レベルということになる。
現在の技術では、まだこの測り方しか出来ていない。
ちなみに魔術師の平均は白んだ空〜青空程度の薄い色が多いのだ、深い夜空の色なんてひと握りしかいない。
「オドの器と濃度を測るものなので、オドの消費はありません」
「あぁ。珍しい夜空の色を、その目にも見せてやろう」
サーシャはそう言い、誇らしげに笑った。
ヴァニーユは手元にある魔水の入った瓶を取り出し、それからふと幻術の自分を見る。
幻術のヴァニーユではこの瓶を渡せないことに気付き、自分の失態に呆れて頭を抱えたのだった。




