4.かくれんぼとは
「ライラック師匠? さすがにそれはどういうことでしょうか?」
さすがにこのまま聞いていられないと思い口を挟んだヴァニーユは、ライラックの背中を掴んだ手にぎゅっと力を入れて、微かに反抗を見せる。
ライラックも背中に置いた手で彼女の手を振り払おうとするが、ヴァニーユもその手を離す気はない。
精一杯の反抗心を見せるためだ。
師弟は二人には見えていない位置で密かに攻防をするが、どちらも譲る気などなかった。
「ヴァニーユ。このお方は私に魔術を教わりたいそうだ」
「……じゃあ師匠が教えればいいじゃないですか」
なぜそこにヴァニーユを絡ませる必要があるのだろう?
本気で解らないヴァニーユは、ライラックの服をさらにくいっくいっと引いて急かした。
「彼は雷属性魔術のコントロールがまだうまくできないそうだ。しかし私はまずサーシャ様に、索敵魔術を習得していただきたい」
サーシャと呼ばれるその人にも聞こえるように、ライラックはそう話す。
彼、サーシャ様とやらは、雷属性魔術のコントロールをしたいらしい。
けれど、ライラックの提案は、ヴァニーユとのかくれんぼである。
索敵魔術というのは空間干渉魔術の一つであり、広範囲のマナを使用して感知する仕組みで、繊細なコントロール力が必要となる。
主に隠れている敵を探し出す時に使う魔術だ。
サーシャの希望とライラックの提案は別の点のように見えて、繋がっている。
ヴァニーユには、ようやくそれが一つの線に見えてきた。
しかしそこまで考えて、かくれんぼでヴァニーユが相手になる必要があるのか? というのは、未だ疑問の余地がある。
「つまり……幻術をかけた状態の私を探し出すことが出来れば、彼は師匠の訓練を受けられるということですか」
ヴァニーユがそう口にすることで、ライラックの真意を知った二人は息を飲む。
相手はこの国に選ばれた英傑の一人、清澄の幻術師……彼女の幻術を相手に特訓など、ハードルが高い。
本当にそのような事が出来るようになるのだろうか?
かくれんぼ……つまり、幻術で姿の見えない状態のヴァニーユを索敵魔術で探し出せたら合格ということとしたいようだ。
索敵魔術はオドを感知するものであり、確かにヴァニーユでも索敵魔術には引っかかるため、不可能ではない。
けれどそれでもヴァニーユは不可解に思う。
英傑に頼む程のことなのだろうか? と。
このお方がどこの誰だかは知らないけれど、その《《かくれんぼ》》をするとなると、きっとすぐに達成出来るようなことではない。
「師匠」
「なんだい?」
「それって一日二日で出来ることじゃないですよね?」
「ふむ」
つまり、ヴァニーユはしばらく、この大柄な男との《《かくれんぼ》》に付き合わされるということになる。
「幻術も師匠が教えてくれたじゃないですか。どうして私が……」
「私では動きが鈍くて仕方がないだろう」
「かくれんぼなら別に動かなくてよくないですか?」
「お前の方がこういう繊細な分析が得意だろう?」
つまり、この頼りなさげなおじは、サーシャの分析をヴァニーユに頼みたいらしい。
確かにそれなら、老眼の入り始めた師匠よりもヴァニーユの方が得意ではあるかもしれない。
それに、幻術を使っていいということなら、この男の視界にはヴァニーユが映らなくて済むということである。
色々と腑に落ちない所はあるものの、幻術ありならば渋々受け入れても構わないラインだ。
というより、このおじは彼女の妥協点すらも計算に入れているのである、悔しい。
「――彼が、それでいいなら……」
「いいぞ!!」
ヴァニーユは、ほんの少しだけ期待していたのだ。
大柄な彼が「どうしても雷造の魔術師からしか教わりたくない」と主張するのを。
あんなにも憧れているのだから、そうであって当然だ、そうに違いない! ……そう思いたかった。
しかしその願いも虚しく一瞬で砕け散り、この日からサーシャとの《《かくれんぼ》》が始まった。




