3.訪問者
彼らが師匠と自分を知っているとなると、師匠が英傑だった頃の知り合い……なのだろうか?と、ヴァニーユは思考を巡らせていた。
大柄な男の後ろには、剣を携えたひょろっと背の高い男が控えている。彼が護衛らしい。
彼らはただ爽やかに立っているだけなのに、どことなく威圧感があった。
それが、人からの視線を怖がるヴァニーユにとっては心地が悪い。
ヴァニーユは心の中で「幻術使っちゃダメですか?」を連呼しながら、ライラックに届くはずもない念を送り続けていた。
出来る限り人の視界には入りたくないので、彼女はライラックの一歩後ろで師匠の陰に隠れようとするが、腰の曲がった師匠は背が低く、背の高い二人の視線からは逃れられなかった。その背の高さが憎い。
「まさか昼過ぎに使いの鳥が来たと思えば……貴殿が訪れてくる知らせだとは」
師匠から出たその言葉に、ヴァニーユは心の中で「え、昼過ぎに!?」と、思わず信じられない気持ちで二人を見上げた。
昼過ぎといえば、ヴァニーユが依頼を終えて王都へ戻ってきた頃である。
本当にヴァニーユの帰ってくるすぐ前のことだ。
「申し訳ない、時間が空いたものでな。このような好機はなかなかなくて浮かれてしまった」
本当に喜ばしげな顔でそう話している所で悪いが、ヴァニーユは不信感を少しでも払拭する為にライラックの耳元で尋ねる。
「ライラック師匠……? この方本当に大丈夫ですか? 何者なんです?」
しかし、ライラックは首を横に振るだけで何も教えてはくれない。薄情な師匠である。
本当に一体何に足を突っ込もうとしている所なのか? と、彼女は震えあがっていた。
その時、その男の護衛が小声で主人に話しかけると、男が「おおっ」と何かに気付いたように驚き、ヴァニーユへとまっすぐ目を向ける。
「幻術師殿を驚かせてしまっていたか。それは申し訳ない。わたしのことはサーシャと呼んでくれ。歳は十七だ」
「……えっと」
別に、名前を知った所でこの心の荒ぶりは解けないが……などと考えながらも、ヴァニーユも名乗った。
「ヴァニーユ、です……」
「ヴァニーユか、良き名だ」
本当になんなんだろう、この人は。
男の輝かしい圧に耐えかねたヴァニーユは、泳がせていた目を師匠にじっと向けて、こちらも圧をかける。
はやくこのなんとも言えない空気をどうにかしてほしい。
「それで雷造の魔術師殿、例の件だが……」
大柄な男が言い出した「例の件」という言葉に、ヴァニーユは再びピキンと体を硬直させる。
彼女の心の中では「今度は例の件ってなんですか!?」と大騒ぎであるが、師匠にはその件がちゃんと解っているらしく、顎に手を当てて何かを考えている様子だった。
そしてヴァニーユはこの場に置かれていることで察していることがひとつある。
絶対に自分は、何かに巻き込まれている事を。
「ふむ……」
師匠は考える素振りをしているけれど、これはきっともう師匠の心の中では何かが決まっている時の「ふむ……」であろう。
決めていなければ、ヴァニーユまでこの場に連れてくる必要はないからだ。
なんなら師匠は幻術で隠れるヴァニーユを悪いとは言わない人だ、なんだかんだで優しいおじである。
その上で彼女を表に出し、何かを考えているとするならば……きっと、先の段取りだろう。
「そうですな……サーシャ様とお呼びしても?」
「構わぬ」
「ではサーシャ様とヴァニーユには、これから《《かくれんぼ》》をしていただこう」
心の荒ぶりを鎮めようとしていたヴァニーユの耳にも、それははっきりとした声で届いた。
「……はい?」
一体全体どういうことだ?
ヴァニーユはさすがに説明を求めて師匠の服をぎゅっと掴んだ。




