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幻術師ヴァニーユのアリア  作者: RIM


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3/10

2.納得できません

 魔術師とは、簡単になれるものではない。


 魔術は体内に流れるオド、もしくはそのオドを使い、空間に満ちているマナに干渉して起こす現象である。




 多くの人々は魔術を使えるほどのオドを持っておらず、オドを使えなければマナを使うこともできない為、生活には魔術の込められている魔石が必需品であった。


 ここ、リアトリス王国の人々は、魔石を頼って生活している。


 ヴァニーユは街の様子を見渡して今日も平和なことを確認しつつ、森林を目指して歩みを進めた。




 王都の西部、フローライト森林の手前に、その一軒家は建っていた。


 軽い足取りで帰宅したヴァニーユは幻術を解いて家の中へと入り、師匠がいるのを確認した。




「ただいま戻りました」




 そこには、頼りなさげなおじさんが栗をむいて食べていた。


 一見頼りなさげなおじだが、かつてはこの国の頂点に立つ五人の英傑えいけつの一人、『雷造らいぞうの魔術師』と呼ばれていた五十代のおじである。


 今は引退し、このフローライト森林でヴァニーユと暮らしている。




「おやヴァニーユ、おかえり。甘い匂いがするね」




 まだ顔を合わせて数秒しか経っていないのに、速攻でクッキーの香りがバレていた。


 ヴァニーユはおじの嗅覚の鋭さに身を震わせつつ、おずおずとクッキーを取り出して見せる。




 袋の中からクッキーを一つ取り出した彼の名は、ライラック・ブロンド。


 ヴァニーユの師匠であり、孤児であった彼女の親代わりである。




 腰を痛めて引退をしてからというもの、この王都の端に建つ家でのんびりと二人は暮らしていた。


 今は症状が落ち着いているようで、激しい運動さえしなければ大丈夫なようだ。





 ヴァニーユも栗を手に取り、剥き始める。


 栗はまだたくさんあるので、今晩は栗ご飯にしようかなと考えていると、ライラックが栗をむいているそのままの状態で、なんでもない話のようにふと告げた。




「この後、来客がある」


「……そうですか」


「ヴァニーユも一緒に迎えるように」


「え? ――えええ!?」




 ヴァニーユはピキンと体を硬直させて、目を見開いてライラックに視線を向ける。


「信じられない」と顔一面に書いて自身のお師匠様を見た。




「なんで私もですか!?」


「必要だからだ」


「え、だって、幻術師としての依頼じゃない、ですよね? え?」


「相手になってほしいからだ」


「うそぉ……」




 そんな漠然とした理由じゃ納得なんてできない。


 とはいうものの、師匠の言うことに強く逆らえるわけでもない。




 ヴァニーユはこの国の頂点に立つ幻術師である。


 その幻術師になった理由とは『人と顔を合わせるのが怖いから、幻術を極めた』


 ――ヴァニーユにとっては、ただそれだけのことであったのだ。




 人からの視線を怖がって幻術を極めていたはずなのに、幻術師が少ないこの国でいつしかその高度な幻術が注目を浴び、あれよあれよと祭り上げられていたのである。


 確かにそのきっかけは、あったけれど……。




「お師匠さま、私には無理です」


「だだをこねるんじゃない」


「納得できません」


「まだ来客があるとしか話していないではないか」




 ライラックと栗を剥きながらそんな言い合いをしているうちに、無情にもその時は訪れた。









 


 納得のいかないヴァニーユの前には男が二人、立っていた。


 主人と従者のようで、どうやら用があるのは主人の方のようだ。




 ライラックとヴァニーユが魔術訓練場としている庭でその客人を出迎えると、その客人はニカッと笑いながらライラックを見て、それからヴァニーユへと視線を移す。


 ヴァニーユは心の中で「2人もいるなんて聞いてない!!」と、叫びながら、この謎の時間が早く過ぎることを願っていた。


 彼らが一体何者なのか、ヴァニーユはまだ知らされていない。




「突然訪れてすまない、雷造の魔術師殿」




 淡い青の溶けるような銀髪に、筋肉がしっかりとついているその大柄な男は、愛想よくライラックに話しかける。




「そして君が例の清澄の幻術師か」


「……は、はぁ」


「よろしく頼む。あぁ、彼のことは気にしないでくれ、護衛だ」




 「あまり関わりたくない」というのがヴァニーユの正直な気持ちではあるが、軽くこちらも挨拶をした。


 彼はライラックとヴァニーユが、元英傑と、そして現英傑であることを知っている上で、ここへ訪ねてきたようだった。


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