表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻術師ヴァニーユのアリア  作者: RIM


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/11

1.幻術師



 ブロンドの長い髪が昼下がりの穏やかな風に乗り、踊るように揺らぐ。


 〜♪〜♪


 ヴァニーユは口遊む。


 それは最近流行りの優しい恋の歌だが、その澄んだ歌声に人々は誰も振り返ることはない。


 誰も、その鈴の転がるような歌声に気が付かない。




 柔らかく流れる風に甘く乗る、その香りに惹かれた彼女は、導かれるようにその店に足を向けた。




「あ、あの! そのクッキー、ひとつください!」




 ルビーのようなワインレッドの瞳が、店の商品を物欲しげに眺める。




「……え? あぁ、クッキーひとつね。はいはい……あれ、そういや君、いつからお店の前に……?」


「これ、お金です!」


「あぁ、はい、まいどあ……あり?」




 店の主は一瞬視線を外してから、また彼女のいた方を見上げると、そこにはもう彼女の姿はなかった。




「消えた……?」




 それは一瞬の出来事で、まるで夢か幻かと思ったが、クッキーの在庫が一つ減っていたのは確かだった。






 彼女はご機嫌になって、また歌を口遊む。


 今度は今にも踊り出しそうな歌声で、彼女はまた街を歩いた。


 彼女の姿も、歌声も、今は誰の目にも止まらない。




 彼女はこの国で最も優れた幻術師、ヴァニーユである。


 ヴァニーユは、自分の姿を『見られない』ことが得意なのであった。










 この世界において、魔術とはふたつに分けられる。


 それは『空間干渉魔術』と、7種類の『属性魔術』である。




 街を歩けば、道の端では子供たちが集まって、目を輝かせて魔術の話をしている声が聞こえてきた。




「俺この前、土属性使える兄ちゃんに土人形作ってもらったんだ!! 属性魔術ってすげぇよな!!」


「属性魔術? って7つあるやつだっけ?」


「そうだよ! 兄ちゃんが言うには、属性魔術には土と水とー……」




 そうして男の子は指を一本ずつ折り曲げて数えていく。




「あと雷、火、風の五つの魔術と、あといんようがあるって言ってた!!」


「それ、姉ちゃんも教えてくれた!! 姉ちゃんは火属性の練習中なんだけど、その前に陽魔術のコントロールも覚えなきゃいけなくて」


「陽魔術? って僕まだよくわかんないや。何が違うの?」


「確か、陰と陽は属性魔術の基礎だってよ。どちらかが使える必要があるんだけど、ほとんどの魔術師は陽魔術は使えても、陰魔術の使い手はめったにいないんだって」


「陽は魔力を流し込んで属性魔術を使うけど、陰は魔力自体を奪って使うんだ! 陰魔術かっけぇよな、俺も出来ねぇかなぁ」




 その男の子は物欲しそうに自分の両手を眺めて、開いたり閉じたりする。




「何に使うんだよ? 魔力を奪う力なんて」


「なんかすげー敵と出会った時とかに! ……使えねぇ?」


「わからん」


「想像できねぇな」




 想像を膨らませている男の子たちは微笑ましい。


 陰魔術は男の子たちの憧れのようだ。


 ヴァニーユは思わず足を止めて聞き入っていた。




「それより英傑えいけつのがカッコよくね? 五人しか選ばれないんだぜ」


「今は火、水、雷とあと……結界と幻術だっけ?」


「雷のおっちゃんは引退したよな。綺麗なねーちゃんに変わった」


「でもそのねーちゃん、雷のおっちゃんの弟子ではないんだろ?」




 初等部を卒業する頃くらいの年齢だろうに、今の子たちはよく知っているなと、ヴァニーユは感心する。


 この中に未来の魔術師、未来の英傑は現れるだろうか?


 そうでなくとも賢い大人になりそうで、ヴァニーユは未来が少し楽しみに感じてきていた。




「結界と幻術は空間干渉魔術に入るらしいけど、まだよくわかんねぇや」


「雷のおっちゃんの弟子は今、幻術師のねぇちゃんだよ! 俺あの姉ちゃん推してるんだ!! あんまり顔見せないけど」


「え、雷のおっちゃんの弟子なのに雷属性じゃねぇの?」




 そこで突然出てきた自分の話に、幻術に隠れて彼らの話を聞いていたヴァニーユは「ぐふっ」と変な声が出た。


 これ以上聞かない方がいいと思い、ヴァニーユはさっさとその場を立ち去ったのだ。






 陰と陽の属性魔術は、五つの基本属性魔術を使う際の魔力との結びつきの役割を果たす。


 そして幻術とは空間干渉魔術のひとつであり、生物に幻を見せる魔術である。




「また寄り道しちゃったって、師匠に怒られるかな……。でも少しくらい、自分にご褒美があってもいいよね」




 そうして、先程買ったクッキーの袋の中身をひとつだけ取り出して、その香ばしさと美味しさに浸る彼女は。


 ヴァニーユ・ブロンド


 アルカナ学園の中等部に通う、まだ14歳の少女である。




 そして彼女はこの国の頂点に立つ五人の英傑のうちの一人、『清澄せいちょうの幻術師』なのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ