11.国の宝
サーシャとのかくれんぼを終えたその日の夜、ヴァニーユはベッドに横になると、サーシャと最後にしていた会話を思い返していた。
森からライラック達の家への帰り道、サーシャはふとヴァニーユに問いかけてきたのだ。
「ヴァニーユは、この国の結界術がどうして発展してきたか、知っているだろうか?」
彼にしては落ち着いた表情で、少し眉を下げて話していたことが、印象的だった。
「昔、何か事件があり、それを境に国が結界術の研究に力を入れるようになったと聞いています。詳しいことはあまり……事件当時、私は五歳でしたので」
まだ世間というものを何も知らなかった頃だ。
ライラックも詳しくは教えることはなく、ただ、次々発表されていく結界術関連の論文を隅から隅まで読んでいたことなら、覚えている。
「そうか……。その頃五歳といえば、君は弟と同い年か」
「サーシャ様には弟さんがいらっしゃるのですか?」
「あぁ、可愛くて仕方がないのだ。少しツンケンしているが、それすらも愛くるしい。芯があり、結界術などわたしより上手いものだ」
「サーシャ様よりもですか」
「あぁ、彼はすごいのだ」
ヴァニーユはその話を聞いて、少し彼の弟にも興味を持ってしまった。
サーシャの結界術はまだすべてを見たわけではないが、中級魔術師の使うレベルのものである。
結界に属性魔術を拡散させ、足元で維持するなど、簡単にできることではない。
「リアトリス王国が結界術に力を入れ始めたのは、この国の宝を失ったからだと聞く。それは幼き第二王子が所有していたと」
「第二王子の……?」
第二王子の名前は確か『ゼファ・アズール・リアトリス』
その上の第一王子の名前は確か『アシュリー・アレクサンドル・リアトリス』
この国では18歳になるまで顔や身分を隠され育てられるとは聞いたことがある。
あまりにも魔術師に狙われることが多いからだ。
詳細は明かされていない事件、王子の情報の制限……つまり、意図的にぼかされている?
「……だからもしかして、あの事件の詳細がぼかされているのですか?」
「きっとそういうことなのだろう。英傑の方々は知っておられるかもしれぬが、ヴァニーユも聞いておらぬようだな」
「師匠は、黙る時は黙っているお方なので」
「うむ。その方が良いこともあるだろう」
いつしかヴァニーユは、サーシャと話すことに遠慮がなくなってきていた。
それはきっと、なんだかんだこの人柄の良さとまっすぐさが影響している、そう思った。
一日でこんなにも警戒心が解けたことなど、これまではなかった為に不思議なものである。
そのようなことを思い返しながら、ヴァニーユは寝がえりをうち、目を瞑る。
「国の宝……か」
この国は一体、何をなくしたというのだろうか?
その話は事実なのか、それとも噂止まりのことなのだろうか?
噂止まりであったとしても、ある時を境にこの国が結界術の研究に力を入れ始めたのは、確かなことである。
そう考えると、本当に国の宝はあったのかもしれない。




