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ミストラルシリーズ

最終兵器ロボットのサポート係

作者: リィズ・ブランディシュカ



 白くて埃一つない清潔な部屋。

 そんな室内で、私ーーミストラルの目の前にあるのは一台のシンプルなキューブ。


 たて・よこ・たかさ、一メートル程度の箱だ。

 その箱は世界を救うための最終兵器のロボット「イージス」。


 私はそんなイージスのサポート役である。


 


 イージスがいきなりあれな事を言い出した。


「人類はやはり早急に滅ぼすべきです」

「だから早急に物騒な結論を出すのはやめてってば」


 この兵器、精神面がちょっとあれなのだ。

 人類のために作られた最終兵器なのに、ことあるごとに人類滅ぼそうとする。


 そんな兵器をそのままにするわけにはいかないと言う事で、私がサポート役に選ばれたのだけど、この頑固ちゃんはなかなか自分の意見を曲げない。

 直角に曲げろとは言わないからせめて三度とか四度くらいは自分を曲げていただけないのだろうか?


「無理ですね。人類にはことごとく失望しましたから」

「心の中を読まない」


 人の心が読めるくせに、救世主的なメンタルが壊滅的なのって、人類を救うための最終兵器として不安要素が大き過ぎる。


「自業自得ではありませんか? 汚染された環境のせいで複雑進化を遂げた怪物が生まれ、各地で暴れまわっていたり、欲張った宇宙飛行士が宇宙に見捨てた船の事故で、外宇宙からの侵略者がやってきているんですから」

「うっ、その点に関しては否定は、できないけれどもっ!」

「挙句の果てには神話の時代に人類が裏切った神様が目覚めて、人間を不要だと決断したのでしょう? 根っこから救えませんよ」

「それもそうかもしれませんけれどもっ!」


 ぐうの音もでない正論だけれども。


 それではいそうですね、と大人しく滅ぼされたくはないのだ。


 かなり勝手な話ではあるが。


「はぁ、一体どうやったら人類を守る事に積極的になってくれるのよ」

「ありえません。断定します。百パーセント」


 とりつく島もない。






 数日後。


 戦ってくださーい。

 お願いですから戦ってくださーい。


 サポート役の私は、ただいまイージスに必死に呼びかけてる最中。


 怪物が暴れているのでイージスに出動要請が出たのだけど、うんともすんともいわない。


 労働拒否されている最中だ。


 当然それではいけないから、なんとかしようとしているのだが。


「戦ってくれたら、イージスが前々から興味を持っていたアーティストを連れてきてあげるわよ」

「ーーーー」

「じゃあじゃあ、考古学者もびっくりな遺物を特別に博物館からゆずってもらっちゃおっかなー?」

「ーーーー」

「それならっ、私が一日大人しくするのは? あなたにっ、声かけない! これでどう!」

「ーーーー仕方がないですね」


 交渉終了。

 私の勝利。

 だけどゼンゼン勝った気がしないのはなぜ?





 そんなこんななやりとりを数日事にはさみながら、サポート役の私の日々が過ぎていく。


 イージスは口ではあれこれ言うものの、一応仕事はこなしてくれるので、追いつめられた人類の状況も徐々に改善していった。


 けれど、どんなに強い兵器でもやれることには限度がある。


 ある日、イージスが侵略者と戦いにいった後、私達の働いている研究室が攻撃を受けた。


 神様が遣わしたせん滅天使という生き物からの強襲だ。


 私を含めた何人かはかろうじてシェルターに逃げのびる事ができたけど、研究所は全壊。


 拠点の移動を余儀なくされてしまった。


「ーーこれは! 一体なにがあったというのですか!」

「イージス、無事だったのね。神様に天使にやられちゃったわ。あやうく天に召されちゃうところだったわよ」

「損傷率9割。この惨状では、ここでの活動は断念せざるをえませんね」

「そう。だから、ちゃっちゃと荷物をまとめちゃいましょう」


 とりあえず残り一割の無事だった区画から、使える品物を運び出して、移動の準備を整える事にした。


 生き残った職員と共に汗水ながしながら、がれきの間を行ったり来たりするけれど、イージスがいつになく真剣な声音ーー(といっても機械音声だけども)で話しかけてきた。


「ミストラル。いくら私でも創造主にはかないません。人類は神に創造されたもので、私はそんな人類に創造された意思なき存在にすぎないのです。勝率なんて最初からゼロパーセントなんですよ。ですが、生存率ならまだーー」

「ごめんなさい。あなたが心配して言ってくれているのはわかっているけど、私はこの星に住む他の人たちを見捨てられないわ」


 イージスが隠れて避難用の宇宙船を製造していることは知っている。

 それに乗って安全な星に逃げれば、今よりは楽に生きていけるかもしれない。

 けれど、私はそうはできなかった。


「人類は卑怯です。あなたのような人間を私のサポートにつけるなんて」

「あはは、それって少しは人間を好きになってくれたってこと?」

「ありえません。私が人類を好きになるなんて。私が好意を抱いたのは人類などではなくーー」


 私は罪悪感を抱きながらもイージスにお礼と謝罪の言葉を告げる。


「ありがとう。ごめんね」

「ーー本当に、卑怯です」




 イージスは人類なんて滅びてしまえと思っていて、価値のないものだと思っている。

 私個人の事はそれなりに大切に見てくれてはいるけれど。

 

 それが救いになるのか、絶望になるのかは、私には分からない。


 私がいるから、イージスは戦ってくれているけれど、そのせいで全てに見切りをつけて、イージス一人だけが別の安全な星に逃げるという選択肢を潰してしまっているのだから。






 崩壊したがれきの上で誰かが泣きだした。


 崩壊した建物の隙間から、知り合いを見つけでもしたのかもしれない。


 私の知り合いもきっと、何人もこのがれきの中に埋まっているのだろう。


 私達は、自分の手で喉を占めているような自業自得な状況かもしれない。


 さんざんほうほうに迷惑をかけて生き延びるのは、酷く身勝手な事なのかもしれない。


 でも私は、愚かな選択をする人間がいれば、そうでない人間もいるのだと信じたい。


 救われるべき人間もいるのだと、そう思いたい。


 イージスの目にはそうは映らないかもしれないけれど、


 そうした方がイージスのためになるのかもしれないけれど。


 泣き出した職員に寄り添って、その肩を抱き、慰める別の人を見つめながら思う。


 私はいつかイージスにも、私と同じ目で同じものをみてほしいとそう願ってしまうのだ。


「イージス。ありがとう、ごめんね」

「もう聞きましたよ。その言葉は」



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