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「7年目、6月中旬『熱中症』の記録」

皆様も熱中症にはお気を付けて。

 夏の訪れを告げる目覚まし時計のような、けたたましい蝉の声。

 ふと目を開くと木々の隙間から青空を見上げ、背中には草花の感触、額から零れる汗が頬をなぞる。


(頭が痛む…外で倒れてしまうなんて、暑さにやられたのかな…?)


 熱中症なのか、蜃気楼に化かされたような、悪夢を見ていた気分。


「大丈夫、か…?」


 頼りない声色を漏らしながら、意識を失う前にも見たようなぼやけた顔がこちらを覗き込む。


「若いうちから無理は良くない」


 今度はどこからか別の落ち着いた声が、こちらを諭すように語り掛ける。


(最近、根を詰め過ぎたかしら…)


 大学に入学して1年。

 初めての一人暮らしと学校生活を平行しながら、親に負担をかけまいと勉強にバイトに明け暮れて、ちょっと神経質になっていたような気がする。


 冷静に意識を取り戻そうと、一息、深呼吸。

 澄み渡る青空と、木の葉をくすぐるように吹く風に爽やかさを感じながら、自身の身の振りを思い返し反省する。


(地面に横になったら洗濯も大変…)


 宙を見つめながら一休みしていると頭の中は整理されていき、今度は服が汚れていないかに気が向き始める。


「ご心配ありがとうございます」

「いえいえ」


 倒れたところを見守っていただいたことに、感謝を述べながら上体を起こすと、お腹の上で返事をしていた小さな生物と目が合う。


「きゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「うわあああ」


 悲鳴の衝撃でお腹の上から蛙が弾き飛ばされる。


「き、気持ち悪い!いゃあ!!なんなのこれ?!」


 嫌悪感と非現実感で状況が飲み込めない。


(蛙が喋るわけない!もしかしたらまだ夢の中かもしれない!!やっぱり疲れてるんだ私!!!)


「そ、そんなに嫌がられると流石に傷付くな…」


 蛙は悲しそうに目を瞑ってそういうと、再び緑の煙を上げ人間の姿に戻る。


「あわあわわわわ」


 やっぱり、これは夢だ。蛙が人になるわけない。


「わたくしとしてはこっちが仮の姿なんだがね…」


 シルクハットの奇人が紳士風の装いを正しつつ、少ししょんぼりしながら立ち上がる脇で、その後ろから覗き込むように、だらしなく縒れたTシャツの男が、こちらを見てニヤニヤしてる様が視界に入る。


「なんか、自分よりリアクションいい人が居ると、逆に冷静に物事見れるなー」


 自分と同じように動揺していたはずの星見は、そんな素振りを欠片も見せず、にやけた口元に手を当てている。


「あなた!人を見て笑うなんて失礼よ!!」


 反骨心の勢いで立ち上がり、星見に詰め寄る。


「で、信じるしかなくなったんじゃない?魔法」


 こちらの叱責にも慣れ始めたのか、そんなことよりと言うようにうしろの蛙人間に意識を誘導する。

 癪に障るが、彼の嫌味な態度が私の正気を揺さぶり起こしたようだった。


「…ベッドで目が覚めるまでは信じてあげるわよ、こんな夢」


 もはやそれよりも背中に土がついてるんじゃないかと気になってきた。


「では、改めてお二人に魔法について教えましょう」

(もう、早く帰りたい)


 夢でもこんな非現実、早く終わってしまえと願うばかりだ。

夢と(うつつ)の境界は曖昧なまま。

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