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『終末魔術目録-Stella Apocalypse-』  作者: 天樹 吾芽
序章「入門者」の章
5/30

「7年目、6月中旬『不審者』の記録」

彼の正体は…?

 豊かさを鮮やかな色彩で感じる中庭の、人工的ながらもそれでも自然な林の中で、響く蝉の鳴き声が、還って場の静寂を表していた。


(やっぱり不審者だ!!)


 という心の声も口から発せなくなるほどの動揺。

 先程まで、冷静に見えたコオリナ(少しでも親しみを持つ為に、心の中で勝手にあだ名を命名)も流石に固まり、睨むような逆三角の目も、まん丸に見開いて驚いている。


 長く沈黙が続く中、紳士はその思惑を読ませない仮面のような笑みを崩さずにただ待っている。


(何も言わないと、埒が明かないか…?)


 このまま異国風不審者と、堅物真面目女子との、居心地の悪い密会が続くのはきついので、仕方なく声を出す。


「魔法、あったら面白いなーとは思う…いますけど」


 あたりさわりのない言葉を選んだつもりだが、固まっていたコオリナは表情はそのまま真ん丸の瞳だけをこちらに向ける。


(まじか、とか思ってそー)


 なんにしても、こんな質問にまともに取り合う意味はわからないのだろう、こちらも同じ気持ちだと言いたい。


「えと、…私は考えたことがないので、明確な回答はできません」


 焦りながらも、一応は真面目に回答してるあたり見習うべきなんだろうなと思う。


「自覚はないようだけれど、お二人には魔法の素養がある」


 こちらの回答が出揃うと、フロードは準備をしていたように続きの言葉を告げる。


(まさかと思うけど宗教勧誘じゃないだろうな…)


 猜疑心の霧は濃くなるばかりで、一向に話の先が見えない為、警戒が強まる。

 コオリナも再び思案している様子で押し黙る。


「星見 疾風くん、君はトラックにぶつかる時、自身が輝くことを考えていたね?」


 突如、先程のトラック事故のことを指摘され、身体がびくりと反応する。


(たしかに子供の頃の自分が輝いてるようなこと考えた気がする、が…)


「さっきの事故見てたんですか…?」


 そう尋ねるとわかりやすく頷き、その事実が更に不信感を募らせる。

 いつの間にかついて来てるとは思ってたけど、その時からこの話をしようとしてたのだろうか。

 そうなると大学関係者ですらない可能性も浮上し、純粋にストーカーということになり、怪しさのストレートフラッシュの完成だ。


 なんて冗談めいた考えを巡らせてる間にフロードは言葉を紡ぐ。


「君は自身に意識を向け、輝くことを考えたその瞬間だけ光になった」


 そんなこと言われても、あの時の現象が魔法の力だという認識はない。


「それが魔法だって言いたいんですか?」

「そうなるね」


 こちらの釈然としない反論を、意にも介さないように流し、紳士はコオリナの方に向き直る。


「そして小織 凛凪くん、君は先程の屋内で彼に対し冷たい視線を送っていたね」


 訝しんで見て気付いたが、この男は話の対象にわかりやすく全身を向けて意思疎通を図ろうとしている。

 あまりの自然さに意識していなかったが、この挙動により会話のメリハリと、発言の順番を誘導されている。

 要するにこちらが必要以上に話を広げようとするのを、意図的に遮ってると感じた。


「…周囲からはそう見えたかもしれませんね」


 指摘にやや後ろめたさがあるのか、強がるような言葉でコオリナは応える。

 彼女の言葉から先程の丁寧な回答とは違い、やや反抗的な色を見せてるように感じる。


「発現には至ってなかったが君を取り巻く空気は更に冷ややかになっていなかったかな?」


 たしかに彼女とのやり取りで冷房以上の寒気を覚える瞬間はあったように思う、彼の話を疑いたいと考える反面、自信満々な語り口と堂々とした振る舞いから妙な説得力を感じる。


「もしかして、宗教の勧誘ですか?あなたたちグルになって私をやりこもうとしてるのね?」


 いよいよ彼女の目つきが鋭さを取り戻し、こちらも含め睨みを利かせようとする。


「いや、俺はちが、」

「何を言うかと思ったら冷房が強くなったくらいで魔法なわけないでしょう」


 否定しようにも即座に遮られ、冷静さの中に憤慨を含むコオリナの言葉からは、こちらに向いた誤解はもう拭えないと感じさせた。


「わたくしは寒さには敏感でね…屋内であのまま話を続けようものなら、冬眠が永眠になるような気持ちで、ひやりとしました」


 そんなコオリナの憤りすら微塵も意に介さないフロードの態度も才能なのか図太いだけか。


「言葉で信じられないなら、視覚に働きかけましょう」


 フロードは注目を集めるように片腕を掲げると、指をパチンと鳴らし、緑色の煙となって居なくなる。


「「消えた?!」」


 ずっと相容れなさそうだと思っていたコオリナと声が重なる。


「消えたわけではありませんよ」


 どこかからフロードの声が聞こえてくる。

 遠くにも近くにも聞こえる声の出所を探すと、彼の居た足元に日本には生息しないはずのマダラヤドクガエルがこちらを見上げている。


「わたくしこの通り蛙なのです」


 フロードの声を放つ青緑と黒の鮮やかで毒々しい小さな生き物を前に、コオリナは泡を吹いて引っくり返ってしまった。

カエルでした。

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