「7年目、6月中旬『質問』の記録」
連れ出した目的は?
シルクハットの男性によって、私とよれたTシャツの男は図書館から連れ出されてしまった。
図書館で騒ぎを起こしたことを咎められるのだろうと後悔する反面、私はいまだに彼の不真面目な態度が許せずにいた。
「図書館でうるさくしてしまい、すいませんでした」
まずは自分の非を謝罪することが先決と思い頭を下げると、男性はケロッとした顔で返事をする。
「気にしないでくれたまへ!君たちに用があったのはわたくしの方なのだから」
意外な反応に続く言葉を失ってしまい、用があるというのは想定外だったため思わず警戒心が沸く。
気が付けば男性は辺りを見回しながら人気のない方を選んで進んでいるようだった。
「あぁーエーっと…?俺らになんか用があったて…?俺、二人とも初めましてだと思うんですけど…間違いじゃないですか…?」
歯切れ悪そうな彼と同様、私もこの二人とは初対面だ、いったい何の用なのだろう。
「まぁ落ち着いて、場所は…あの辺にしよう」
あまり来た事のない学校裏の中庭、ちょっとした林の木の陰で足を止める。
時間的に今日の最後の講義が始まった頃合いで、周囲には誰もいない。
(この時間、履修してる講義がなくて助かったわ…)
本当は自分の課題を終わらせるために図書館で作業するつもりでいたので、予定は狂ってしまったが、最低限、問題はない。
そう考えていると男性はこちらに向き直りいよいよ語りを始めた。
「まずは自己紹介からさせて頂こう!わたくしはフロード・アムフィビオス・ラヌンクルス・フォージャー(Frodo Amphibios Ranunculus Forger)以後お見知りおきを」
シルクハットを片手に持ち直し、紳士的に一礼すると彼の短い黄緑色のくせ毛がふわりと揺れる。
「なげぇー…」
私も少し同じことを思ったが、隣の男の口はつむぐ努力もなく言葉がそのまま零れており、挨拶を返す前に失礼だ。
「あ、私は小織 凛凪です、よろしくお願いします」
礼をし挨拶をするが、もう一人はなかなか続こうとしない。
余計な事は言うのに名前を言いたくないのか、挙動不審で優柔不断な態度にイライラしてくる。
「あなた!名乗りなさいよ!それとも言えない理由でもあるの?!」
我慢できずに声を荒げてしまう。
「せっかちだな…星見 疾風です…」
またも反発する余計な一言に、更に印象を悪くするがひとまず堪える。
「まぁまぁ大事なのは君達の名前ではないから」
フロードさんに窘められるが、物言いに若干、失礼だなと感じてしまうが、話の腰を折りたくないので押し黙る。
「ではお二人に聞きたいのだけれど」
いよいよ本題かと身構える。
「地球の滅亡についてどのように考えているかな?」
「え?」
唐突に、何の話をするかと思ったが予想外過ぎて思考が固まってしまう。
「えーと、それ隕石のやつ?ですか?」
隣の星見が尋ねたそれは、よくある学生のノリの、科学的にも確実性のない一過性の噂話だった。
「えぇそうです」
まさかの回答を、またもケロりとした表情で当たり前と言わんばかりな態度のまま、一言で済まされる。
「まさか、本気にしてるんですか…?」
流石に星見もずっと動揺している様子だった。
私もこんな話を本気で始めるとは思ってなかった。
「重要なのは君たちが地球の滅亡についてどのように考えているかだよ?」
本気で考えてるかはともかく、仮定として、何かの例え話ということなのだろうか。
「私は…危険が迫っているなら対策を講じるべきだと考えます」
一応、思考を巡らせて自分なりの回答を出してみる。
「素晴らしいっ」
フロードさんは初夏にも関わらず革の手袋をした手でパチパチと拍手をする。
「俺も、そうは思う、かな…」
星見もこちらの言葉に続き、私の回答を便乗するかのような、責任感を感じない回答を述べる。
「なるほど、なるほど」
それでもフロードさんは満足そうに頷くと次の質問にうつる。
「では、お二人は魔法についてどう考えるかな?」
先程以上に斜め上な質問に、その場は固まる。
少し早い蝉の声よりも、謎の質問の方が耳に強く響き、残った。
読者の「あなた」はどう考えますか?