「7年目、6月中旬『光』の記録」
その後。
天羽先輩達は、忽然とその姿を消した。
フロードさんと一緒にやってきた人達は数人が残るのみで、大半はそれぞれ捜索に散っていた。
そんな中、俺はフロードさんに介抱され、魔法による傷の手当てを受けている。
氷の破片で出来た無数の傷を一つ一つ確認しては、みるみる傷口を繋ぎ合わせるように塞がっていく。
「わたくしの魔法は回復ではなく変化なので、もし傷のあった場所に違和感があればより専門的に回復を行える方に受け継ぎますので」
そう言いながらフロードさんは真剣な眼差しで俺の身体に傷が残っていないか丁寧に観察する。
「あ、ありがとうございます…」
勝手に出しゃばり、挙句に怪我して、その隙に先輩達を逃してしまった。
自分のやったことの無意味さに、情けなくなってくる。
「あ、あんたねぇ!」
後ろからコオリナが呼びかけてくる。
「人に、あんなことさせないでよ…ちょっと心配したんだから…」
強気な彼女の振る舞いとは思えない、後ろめたさを含むような言葉。
「わたくしも凍った星見疾風くんを目撃した際には動揺を隠せませんでしたよ」
(…?まだ凍る前に振り解かれたはずだけど…?)
先輩の目を眩ませ、背後を取るまでは良かったが、他に協力者がいることは知らず、完全に隙を突かれてしまったというのが俺の認識なのだが。
「星見 疾風君だったね?」
全身黒いフォーマルなスーツにサングラスをかけた男性が、向こうで他の人達との話を終えてこちらに寄ってきた。
「は、はい…」
申し訳ない気持ちも相まって圧倒されながらも返事をする。
「その…俺のせいで目的を果たせなくて、申し訳ありませんでした…」
魔法犯罪を取り締まる為に、10人近くここに動員されている。
これだけの人数を動員したのに、俺の勝手な行動で解決に至らなかった為、何を言われても仕方ないと思っていた。
「私は朔月 戒、この組織
『Magical Archivists Law Enforcement Bureau :Restoring Apocalyptic Nature Coherent Harmonious Establishment』
通称:マレブランケ(MALEBRANCHE)を指揮させて貰っている者だ」
「マジカル…?あ、えっと、はい…?」
長すぎて正式名称を何言ってるかわからないが、とりあえずこの人が偉い立場なのはわかった。
「君と、小織 凛凪さんに、改めて我々の組織への協力を要請したい」
「え?」
予想外の言葉、この場の責任を問われるか、激しく怒られるのだと思っていた。
「え、あ、俺、フロードさんに組織にふさわしくないって…」
「その言葉に関しては、改めさせてください。そして、その件で君に不快な思いをさせたこと、謝罪させて頂きたい」
フロードさんが、胸にシルクハットを構え頭を下げる。
「星見 疾風くん、君の勇気は組織に必要です、協力していただけますか?」
そう言いながら、真っ直ぐ真剣に俺の目を青色の瞳が見つめる。
「あ、いや、待って、状況がまだ…」
フロードさんの真剣な表情の脇で、こちらを覗き込むようにコオリナが口元に手を当てニヤニヤしてる様子が見える。
「自分より反応がいい人が居ると、冷静に物事見れるって本当なのね」
馬鹿にされたような気分だったが、先ほどの反撃をされたのだと反省しつつ、緊張の糸が解けて噴いてしまう。
「あ、あなた!また人を見て笑うなんて失礼よ!!」
先程と変わらないコオリナの憤慨した声も、すっかり耳に馴染んでしまった。
「俺にできることがあるなら手伝わせてください」
これから、俺が滅亡から世界を救う光になるために。
彼の光。
ー余談ー
「マレブランケ(MALEBRANCHE)」の正式名称。
「Magical Archivists Law Enforcement Bureau :Restoring Apocalyptic Nature Coherent Harmonious Establishment」
「魔法記録官法執行局:終末の自然を調和的に修復する組織」という意味になります。