「7年目、6月中旬『逃走』の記録」
これは『終末魔術目録』序章の28話で間違いありません。
人々は、この事件の解決に向かっているつもりになっているみたいだ。
拘束した天羽を10数名で取り囲み、状況整理やこの自体の終息への調整を話し合っている。
そうやっていれば、やがて時がすべてが解決すると思っている。
『人間は愚かだ、文明に身を置いて生きた時間を当たり前と思っている。感覚が麻痺しているんだ。』
他者を排斥し繁栄した文明の上にあぐらをかいて、ただ生を貪りながら、過ぎた己の欲を追う生き物たち。
そんな人間に、私は思い知らせなければならない。
終わりはこれから始まるのだと。
「おい、天羽の奴捕まっちまったぞ」
氷壁の向こうに見える彼らを差しながら、鬼塚が動揺しこちらに声をかける。
だから何だというのか。
それに答える気もないので、ただ時間を少し戻すことにした。
一息吹けば、群衆の目の前で星見の姿が冷凍が行われる前に戻る。
「コオリナ!俺を凍らせろ!!」
突然再び発せられた氷壁越しでも聞こえる程の大声に、その場の全員が注目する。
誰の予想にも反し、繰り返されたその声に困惑する群衆。
滑稽、無様と思う他ない。
その間に、ひとたび息を止め、場に完全な静寂を齎す。
「あいつ、昼間に会った…」
この場で唯一動けるようにした鬼塚が意味ありげに、意味のないことを呟く。
「爆破しなさい」
星見を指差し、ぶつくさ話す鬼塚に指示を出す。
彼はこちらの言葉に耳を疑い、視線を泳がせ、躊躇した様子で少し時間をかけたが、言われるままに星見の背後、氷の壁を小規模に爆破する。
それに呼応するように再び動き出す時間。
天羽はその影響を意にも介さないが、生身の星見は爆風で小織の作り出した氷の舞台に弾き出され、その氷片で身体のあちこちを刻み傷を与えられる。
「星見 疾風くん!!」
フロードが、彼の下に駆け出し、周囲がそれに注目する内に再び時を奪い、天羽の背後に立つ。
時間の流れを正常に戻した時、突然現れたように見えたであろう私達を、彼らは啞然と見つめる。
「私は、イヴ・ネヴァ、汝らの敵」
宣戦布告。
それ以上は何も告げずに、こちらの三人以外の時を止めて、踵を返す。
正義の面をして秩序を保つという、大義名分を振りかざす愚者共が、雁首揃えてもこの様。
たかが人間が世界の理を律して制するなんて、星が終わるまで時間をかけても到底無駄。
「ハヤテのいつも無茶振りに付き合ってくるところ好きだよ。今日から敵だから、また遊ぼうね♪」
天羽は一方的に動かない後輩に向けて、不敵な笑みを溢しながら勝手な約束を取り付け、共に逃走路へ向かう。
静まり返った駅の構内、止めていた急行電車に三人で乗り込み、時間を元に戻せば人々は何も知らずに日常に帰す。
電車は何も知られないまま、駅を離れた。
大胆な暗躍。




