「7年目、6月中旬『惑乱』の記録」
少し遡り、一人、惨状を見つめる。
俺のいつもの帰り道は、まるで地獄絵図だった。
車両事故の多発、なんてレベルじゃない。
道路上をひっくり返した様な、大規模で凄惨な車の残骸と、警察や救急隊に野次馬達の群。
(フロードさんの言っていた「魔法犯罪」…まさか、先輩が…?)
『先輩、今どこにいますか?』
『駅の方に向かってる所!来るなら待ってるよ>□<』
返信の内容に心を乱し、背中を照り付ける夕焼けの暑さを忘れさせるほどの冷や汗が湧き出す。
事故の形跡は先輩のいるはずの駅へと向かうように果てなく続いていた。
(もしかしたら、俺はとんでもないやらかしをしたのか…?)
フロードさんのことを先輩に伝え、大学に来る原因を作り、そして彼の組織について先輩に漏らしてしまった。
動悸が、吐き気を刺激する。
夕日が現実から目を瞑るように、俺を置いて逃げ去る。
どうせ消えるなら、俺も連れていってくれと、理不尽な願望を太陽に抱くほど、目の当たりにした現実が襲い掛かる。
(地球の滅亡についてどのように考えているかな?)
フロードさんが言う、地球滅亡はこの現実よりも悲惨なのだろうか。
「そりゃ…そうか…地球滅亡…だもんな…」
(「私は…危険が迫っているなら対策を講じるべきだと考えます」「俺も、そうは思う、かな…」)
俺は愚かだ、綺麗ごとを言う人間の後を追いかけて真似ることしかできない。
(ま、本当なら誰かが何とかするだろ…)
本当の俺は、当事者になろうとせず、自堕落な日々を貪るだけのクズ。
(「大きくなったらヒーローになる!」)
今の俺が、あの頃の俺を、恥と思う理由が、嘲笑していい理由が、いい訳があるか。
頭が割れそうなほど痛い。
だけど、目から零れる大粒の涙は痛みのせいじゃなかった。
逃げたい、この辛さから。
逃げたい、この苦しさから。
逃げたい、この痛みから。
(逃げたい、どこに?逃げ場なんて、あるのか?)
俺は、まだ逃げていていいのか?
「逃げて、いい訳が、あるか!!!」
雑踏と夕闇を切り裂くような怒号。
渦巻いた邪念を、これまでの自分を。
今、捨て去らずに訪れる未来に俺の居場所なんてない。
(「君の人格は組織に理解を持っていただければ、魔法を行使できるようになっても、悪用はしないと、信じるには値する」)
フロードさんは少なくとも、こんな俺を最低限信じてくれた。
そのフロードさんが、俺の失敗の、先輩の事件の始末をつけようとしてるなら、組織に所属していなくても、俺は何かすべきだ。
(「俺」がこの事件を解決する「光」に「なる」!)
怒号に驚いた人々はその声のする方を振り返るが、そこには一筋の残光が消えていくのみで、誰もその正体を見つけることはなかった。
過去の自分を置き去りに。
彼は未来に向かう。