「7年目、6月中旬『捜査』の記録」
淡々と。
19:43 南口駅前広場、この場の全てが作り物のように、何もかもが静寂を保った空間。
電車すらも原因不明の遅延により、30分以上の遅延の報告が上がっている。
恐らくは、「領域型」「概念指向」による時間停止、能力者は相当な手練れ。
爆発の痕跡が複数見受けられるが、人々や建物に損傷はなく、煤汚れが残る程度に留まっている。
これも、時間停止の副産物であるなら、恐ろしいほど強力な影響力を持っている。
『朔月さん、フロードさんを発見しました!能力により時間停止している模様!』
事態の把握の為に散った部下の声だけの報告。
「把握した、そちらに向かう」
今の部下に捜索を命じた地点へ進路を変えたその時、光がすれ違うように走り抜ける。
「無為自然-リセット-」
光が駅の入り口に吸い込まれる直前に元のごく普通の青年の姿に戻る。
青年は勢いで転びそうになりつつも、体勢を立て直し、スマホを一瞥したのちに駅の中へ消えた。
「駅構内に、能力者が侵入、探索班は構内の情報をサーチし、随時報告せよ」
『イエッサー』
報告の中にあった「光」の能力者はこの事件の関係者ではなく、大学内でのスカウトの対象だったはず。
「反射」「爆発」「時間操作」を扱えるほどの人物ではない。
その確認をする為にも、まず現場に先行したフロードとの合流が先決。
駅前広場の恐らく最大規模爆破の中心地点、時間停止がなかった場合を考えると、この煤の範囲が破壊の範囲内だったと思うと、ここにいる人々は不幸中の幸いだった。
その爆破の範囲内の隅に、女性隊員とフロードの姿を確認、報告通りに時間停止の被害を受けていた。
再度「無為自然-リセット-」を行うと彼は蛙の姿に戻り時を取り戻す。
「女性…?!朔月 戒さん?!もう応援に来て下さったんですね!」
そう言いながら足元を跳ねるフロードだったが、次の瞬間、目をぎょろつかせて慌てた声を出す。
「あの大男が消えた?!」
どうやら彼に施された時間停止の影響なのだろう、全てが一瞬のこととして処理され、停止中の記憶や情報は一切ないようだ。
「確認だが女性というのは、私の性別を間違えたわけではないな?」
「まさか、あなたのようなフォーマルな衣装を着こなす男性ではなく、そこに現れた美しい金髪の女性です…見失ってしまいましたが…」
おそらくその金髪の女性が時間停止能力者でフロードが対峙していたはずの大男の協力者。
ここでの戦闘の形跡を見る以上、大男の方が爆発の能力者。
そして、目撃情報では車事故の被害を広げながら走る反射能力を持つ者もいるはず。
自分の能力を使えば時間停止を解除できることは確認したが、道路での惨状をこの場に再現しない為にも、それらの能力者達を拘束し、「忘却処理」を施し、魔法を扱えないようにした方が安全だと判断する。
まずはこの現場全体の能力解除の前に、魔法犯罪者の行方を確かめなければならない。
「フロード、報告を」
「はい」
粛々と。