「7年目、6月中旬『膠着』の記録」
冷たく美しく咲く花。
暗い駅の廊下に、光を散りばめる氷の芸術品は、ここが美術館ならば美しい作品として楽しめただろう。
けれど、その見た目以上に、対自分を想定したバトルフィールドに思わず息をのむ。
(なるほどね…ボクもさっき気付いたばかりの弱点、この子目聡いね…)
壁にぶつかって転んだ時に思わず零れた声と、昼間の氷弾、今の蹴り。
反射の出来る範囲を確認しながら、こちらに何が有効なのかを試してる。
そしてボクの能力が静物を反射できないことを調べるために、転べば怪我をする戦場を作り出した。
(草花を模したのは最低限怪我を負わせるかの確認で、命を奪うつもりがないってことかな)
もし、致命傷を負わせるような殺す気なら槍状に隆起させるのが正解だろう。
「で、ここからどうする気?」
せっかく場がこれだけ整ったのに、お互いに次のアクションを起こさない。
「…応援が来るまで、ここで足止めします」
「随分とお優しい考えで」
正直な感想甘いと思ったが、こちらが目の前に気を取られる反面、密かにボクの足元を捕縛しようと試みた形跡がある。
こちらは反射により目的を遂行するには至っておらず、虎視眈々と策を練っているが、決定打に欠けるため、これ以上の進展がないのが現状だった。
(今できる、反射、身体能力のコピー、シンクロじゃこの場を逃げる算段立てられないしな…)
その気になればこの氷の草原を駆け抜けて逃げ出せるかもだけど、水色女子がそれを見逃してくれるはずはない。
(停滞…お姉さんにも逃げられたし、ちょっとムカついてきた)
邪魔さえなければ、あのお姉さんからゆっくり魔法のこと聞きだしてたのに。
せっかく魔法バトルするなら、こんなせこい時間稼ぎじゃなくて、派手な技の応襲の方が面白いのに。
改めてこんな受け身な能力じゃ、物足りない。
その時、LINEの通知音が鳴る。
『もうすぐ駅着きます、先輩どこにいますか?』
この場の硬直を覆す可能性が出てきた。
「そういえば、ハヤテは一緒じゃないの?」
「…」
そう尋ねると、水色女子の表情が少し曇り押し黙る。
「そっか」
彼女の反応を見て、協力関係がないことを悟り、口元がにやける。
『駅の廊下にいるから見つけてー☆』
つまり、まだ終わりじゃない。
物語は始まったばかりだ。
これはまだ序章。