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「7年目、6月中旬『取材』の記録」

鬼ごっこは終わり。

 闇に飲まれ世界が止まったような、異質で不気味な駅前に、声を揃えて話す男と女。

 散々走ったことによる、自身の息の荒さ、心拍の激しさ、不快に滲む生暖かい汗。

 これらの全てが、まるでホラー映画の世界に足を踏み入れた感覚に陥れていた。


 「「あぁ、この能力解除したいな…どうやるんだ?」」


 腕に羽交い絞めにした女と、なぜか同じような格好になっているに男から、同じ言葉が出る。

 道化に遊ばれている感覚に苛まれていると、女側が別の言葉を発した。


「こんな、奴らに捕まるなんて」


 いかにも不服そうに顔をしかめながら悪態を吐き捨てる。


「あれ、もしかして自力で能力解除したの?お姉さんやっぱりすごいね!」


 この鬼ごっこの提案者が、先程までの姿勢から解除されこちらに寄ってくる。


「あのなぁお前ら…結局何なんだよ」


 このゲームに勝てたら、能力について知ることができる。

 そう思って参加したが、混沌とした空間でどう聞いたらいいのかもわからずに困惑した。


「勝利者インタビューです!まずは君がこの人捕まえたから勝ち!お名前は?」


 イケメン男はいい年して取材ごっこのようなことを始める。


「お、鬼塚 煉だ…」

「鬼塚選手!では今のお気持ちは?」

「あー…なんだ?その…」


 調子が狂い、何も言葉が浮かばない。


「では続いての質問!世界滅亡についてどう考えてますか?」


 意味不明な質問だ。


「んなのどうでもいい!」


 仕事も家族も失った俺には、居場所も目的もない、世界がどうだってどうでも良かった。


「なるほど!では残念ながら捕まってしまったお姉さんは?」

「…」


 女は奔放すぎるこいつを黙って訝しげに睨む。


「あ、ボクは天羽 煌希ね!よろしくお姉さん!」


(あもう、ってなんか最近人気のモデルだかの名前だった気がするが、こいつ本人か?)


 あまり芸能関係に詳しくないが、それでも聞いたことあるような名前だ。


「…」


 女の方は、相変わらず話そうとしない。

 人気モデルが目の前にいたら女はキャーキャー言うもんだと思ったが、この女はその限りじゃないらしく、ずっと不機嫌そうだ。


「んー…ボク、お姉さんと仲良くなりたいんだけどなー…」


(今更だが、俺はいつまでこの女を羽交い絞めにしてればいいんだ。)


 いい加減イライラしてきた。


「そこの二人!女性を放しなさい!」


 突如、この異質な空気を切り裂くように別の女の声が響く。

 そちらに振り返ると、声の主と思われるジャージに水色髪の女と、シルクハットの英国紳士風の男がこちらに厳しい目を向けて立っている。


「いや、これは…」


 第三者の突然の介入に、思わず拘束の腕を解くと、金髪女はこれ見よがしに逃げ出す。


「あ、逃がさないよ!」


 天羽も一瞬、来訪者にに気を取られ、女の逃走に対する判断が遅れたが、また追いかけ出す。


「待ちなさい!!」


 この場から走り出す二人を、更に水色ジャージ女も追いかける。

あっという間に取り残されたこの場の紳士と俺を、街灯が静かに見つめる。


「さて、あなたは地球の滅亡についてどのように考えているかな?」


 紳士風の男から、さっき聞いたような言葉が発せられる。


「またそれか…どうでもいいよ!どうでも!」


 思うようにいかず、イライラが積もる。


「ところで、あんたこの能力についてわかるか?」


(「イライラ」を「爆発」に「変える」)


 目の前で静寂をぶち壊す大規模な爆発が起こり、周囲の灯りが気を失う。

 立ち籠もる爆煙の中から紳士が飛び出し目の前に接近する。


「あなたには教えられません」


 冷たい一瞥。


「…知ってるなら、聞き出せるじゃねーか」


 拳を横なぎに振るい、接近した紳士を追い払う。


(こうならば力ずくでも、何でもいい)


 ストレスと興奮で引きつった笑みが溢れ出した。

我慢の限界。

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