「7年目、6月中旬『野望』の記録」
影が侵食する。
夕日はビル群に飲まれ、夕焼けの明かりも息を潜めるように影に隠れていく。
静まり返る駅の周辺は、いつものように仕事帰りの一般人達で溢れ返っている。
しかし、人混みの全てが、時を奪われたように制止し、その人の迷宮を利用して逃げ隠れする長いプラチナブロンドを童心に返ったように追う。
「あの人、こんなこともできちゃうんだ…!」
時間操作ってどうやってるんだろう、一人一人を止めてるというより、この空間から時間の概念を奪ってるような様子だけど。
(魔法の定義で考えるなら「この場所」の「時間」を「止める」なのかな?)
でもボクは動けてるし、反射されてるならあの人自身が固まるはずだから、「この場所」っていう定義が違うのかな。
もし、能力の詳細を理解できれば自分でもこんなことが出来るのかもと思うと更にワクワクする。
(さて、大男くんが駅に着く頃合いに合わせて、あの人をUターンさせたいな…)
今いるのが南口側の駅前広場、理想的には別の入口側からもう一度ここに誘き寄せられるとタイミングは良い気がする。
(問題はどうやって誘導するか)
速度上昇のバフ自体は今も残ってるけど、それだとボクが普通に追い付くだけになってしまう。
(「反射」「コピー」と「鏡」で連想している自分の能力を上手に派生させて、彼女の動きを想うがままに操れれば…)
「ん?動きを…思い付いた!!」
鏡に映した姿は自分と同じように動く、つまりボクの能力を「鏡」として使うなら。
その時、人の群を隠れ次いでいた視界の先に目標の姿を確認する。
(「彼女」に「ボクと同じ動き」を「連動-シンクロ-」させる)
そして、試しに自身の両手を上に振り上げると、視界の先にいた女性も万歳の姿勢になる。
「できた♪」
目論見通りに能力が発動したのを確認し、踵を返して来た道を戻る。
後ろを振り返ってみれば、ボクと同じように後ろを振り返りながらこちらに走ってくる滑稽な女性の姿があった。
「あはっ♪鬼ごっこの鬼が変わったみたい♪」
先程まで追っていた女性が今度はボクを追うような構図に矯正されるのを見て楽しくなる。
(ま、このままじゃボクには距離も詰められないし予定通りに…)
進行方向の先に大男くんが走ってきたのが見える。
「「おーい!ここにいるから捕まえて!!」」
わかりやすく大きく手を振る二つの人影と声に、大男くんは少し唖然とする。
「な、どうなってんだコレ?!」
状況を飲み込めない彼とすれ違うように追い抜き、そしてそのまま振り返ると大男くんが彼女を羽交い絞めにし「ゲーム」が終了する。
先程の呼び声で気付いたが、彼の腕に組み伏せられた女性は喋る権限もボクに奪われている様子で、同時にボクも組み伏せられる姿勢にされてしまっていた。
「「アハハ!あー面白かった!」」
結果的に自分も動けない姿勢になるのは予想外で思わず笑ってしまう。
「「あのさ、ボク達でチームを作ろうよ、魔法の力を存分に使って楽しめるチームを!」」
夕闇が三人の影を喰らい尽くす。
カエル紳士から組織の話を聞いてから、胸の内に秘めていた野望。
ボクの秘密結社の設立
最後の瞬間まで、面白いことに付き合ってくれる同志の集結。
もし世界が終わるとしても、その日まで楽しく遊べる場所を。
無邪気で破滅的な夢。