「7年目、6月中旬『目的』の記録」
彼の組織の目的。
医務室から雪を除け終わる頃、お二人は落ち着きを取り戻しながらも神妙な面持ちになっていた。
びしゃびしゃになった床は、わたくし好みではあったが、今はそれどころではないと判断する。
「さて、お二人にはもう教えてしまっていいでしょう」
先程の来訪者が来る前に受けていた、小織 凛凪くんからの質問の回答。
「教えるって…」
星見 疾風くんがこちらを伺いながら確認する、小織 凛凪くんも同様にこちらに体を向ける。
「組織の目的について、です」
組織、いやわたくしにとって最も重要な目的の話。
「いいんですか?」
質問者本人も再度確認を重ねる。
こちらの都合を考慮しているのだろう。
「組織からは情報の出し惜しみを強いられてはいない、あくまでわたくしの判断で全て決めているからね」
半信半疑の相手には語るわけにはいかないが、一波乱の跡だからこそ、今ならお二人に事の重大さを示しながら語れる。
一呼吸、肺に空気を満たし、吐き出す息に乗せ、語る。
「わたくし達の目的は「世界滅亡の危機を、魔法を用いて回避する」こと」
組織全体での共通認識にして、わたくしが最も重きを置く文字通りの最重要事項。
「世界滅亡…」
お二人はわたくしの表情から真剣さを汲み取ってくれた様子で聞き入る。
世間では都市伝説とされている、一過性の話題だったものだが、今やお二人は疑いの色も見せず、真っすぐわたくしの目を見ている。
「隕石は7年前に発表された通り、観測から10年以内で地球に飛来する」
現在、組織では明確なタイムリミットと飛来地点の割り出しを探り、隕石に対抗するために様々な魔法の可能性を求めている。
「そして研究の結果、理論上、誰にでも魔法の発現が可能であると示された」
素養があると伝えたのは嘘ではない、魔法が大衆化するのには時間がかかる。
だが、隕石衝突はそんな時間を待つほど、悠長じゃない可能性が高い。
「ただし、魔法の研究が完璧とは言い難く中途半端に公表すれば、世間に混乱をもたらすというのが組織の見解で、実際、秘密裏に「魔法犯罪」とされる事件が増加している」
星見 疾風くんが先輩と呼んだ彼のような、「魔法を自己の利益、享楽の為に使う者達」は人知れず動き出している。
本日、多発している交通事故にも、魔法が行使された形跡が確認されたため、わたくしは事件の捜索活動に赴き、星見 疾風くんの魔法発現に出会い。
そして、彼の光が事故を引き起こした可能性も視野に入れ、追跡を行った。
「魔法が公になり、犯罪増加が問題視されてしまえば、世論から組織の本来の目的にまで反感が及ぶ。
そう考えたわたくし達は、組織の情報網で魔法の発現者を特定し「贖罪」を与えるという二つ目の目的とも言える活動を並行して行い始め、故に魔法の素養のあるものの人格を査定、接触、勧誘を行っていたのです」
ひとしきりお二人に内情を伝えた。
その時、タイミングを見計らったかのように組織の情報班から電子の糸による共有を受け、現在地の近辺の街中にて事故の再発と発現者による衝突が観測されたことを知る。
(現場に向かうために、話の幕引きをいそがなくてわ)
急遽、今から酷なことを告げる心構えをし、息をのむ。
「だが星見疾風くん、悪いが君は組織にふさわしいとは言いかねる」
ここまで話したが、彼を組織に招くリスクには変えられない判断だった。
わたくし自身は覚悟をしていたが、星見疾風くんがわたくしの言葉に表情の影を濃くさせたのを見て、やはり少し苦しかった。
突き付けられる通告。