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「7年目、6月中旬『水色』の記録」

清潔感のあるベッドの中。

 ひんやりと心地よい空気の中で穏やかに目が覚める。

 真っ白な室内、カーテンで切り抜かれたベッドのみの空間。

 柔らかくてふわふわなベッドは自分のものではなかったが、気持ちよく目覚めるには最適だった。


 何故ここで目覚めたのか思い出そうとする、図書館で勉強していたが、中庭に連れ出され、魔法を使った。

 嬉々として魔法を行使していた自分の姿は、到底、現実とは思えない。


「やっぱり、全部夢だったのね」


 ほっと、胸を撫で下ろす。

 自身の魔法に打ち付けられた屈辱も夢ならば悔しくはない。


「気が付いたね」


 ぴょこりとベッドの上に這い上がった蛙が喋る。


「きゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「うわあああ」


 またも悲鳴の衝撃にベッドの上から蛙が弾き飛ばされた。

 その声で私の目覚めに気付いたのか、白いカーテンを開け、星見がこちらを覗き込む。


「ベッドで目が覚めたぞ、夢を信じるのはおしまいか?」


 鬱陶しい皮肉を突き付けられ、夢と信じたかった出来事が真実であると理解する。


「ここ大学の医務室ね、担当看護師さんはもう帰ったみたいだから勝手に使ってるけど」

「そ、そう?」


 講義終了のチャイムからどれだけの時間が経過しているかはわからないが、さっきまでの出来事は夢じゃない、もう目を逸らすのも限界だった。


(魔法を使って…あの男に負けたんだ…)


 魔法が実現した時、柄にもなく興奮し、先輩と呼ばれた男の挑発に乗り、自分で放った魔法が男にあたったと思った次の瞬間、その氷塊が目の前に返って来て、反応する間もなく跳ねられた。


「なんで、制御が上手くいかなかったんだろう…」


 思い出すと悔しさが滲む。


「彼の能力が、魔法を反射することを得意としてたんでしょう、小織 凛凪くんに落ち度はありませんよ」


 再び緑色の煙を上げ人間の姿に戻ったフロードさんが、身嗜みを整えながらそう言う。


「怪我はわたくしの魔法で治しました、簡易的なことしかできませんが」


 たしかに体のどこにも痛みなどはない、が、ふと、自分の着てる衣服に違和感を覚える。

 布団をめくり確認すると大学の購買で販売してる青いジャージを着ていた。


「あー…服は泥まみれだったから、着替えは買って来てやった、奢りでいいぞ?」


 ばつの悪そうに眼を逸らす星見。


「お…」


 つま先から頭の先まで沸騰する様に体温が急激に上がる。


「おおおお乙女の寝てる間に!!ふふふふ服を!??訴えてやるうううううううううううう!!!!!!」


 静かだった医務室に乙女の金切り声が反響し、あまりの音に男共は耳を塞ぎ全身を痺れさせる。


「ね、寝てる間に肌を見られた…いや下着も…?辱めだわ…死にたい…」


 布団にうずくまり涙目を枕に押し付け濡らす。


「恥ずかしがることはないですよ!大変美しい身体でした!」


 大きな声で私の身体を称えるフロード。


「お、俺は見てないから!」


 その傍で、自分はやってないと弁明しようとする星見。


「信じられるかあああああああああああああああああああああああ!!」


 布団から伸ばした腕の先から全力の吹雪で男共を部屋から吹き飛ばす。


「あぁ、蛙だとしても…誰にも見られたことないのに…初めてが蛙だなんて…」


 再び布団の中で丸くなる。


「それは美しい白肌と淡い水色のコントラストが…」


 慰めてるつもりなのか、フロードが近くまで戻り、再び私の身体を称賛しようとする。


「言うなあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

「なんで俺まで…!」


 星見は巻き添えで再び吹雪に飲み込まれたようだった。

 その後、繰り返された吹雪によって医務室は雪かきが必要になるのだが、この時はそこまで頭が回らなかった。

乙女を怒らせてはいけませんね。

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