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「7年目、6月中旬『先輩』の記録」

よく知った先輩。

 夕方が近付いてきたせいか、コオリナの魔法のせいか、夏の景色とは思えない冷えた空気が中庭を支配していた。


 天羽先輩とは学科ごとに行われていた新入生歓迎会で出会った。

 当時の先輩たちの集まりでも中心人物のようで、歓迎会では俺達を楽しませようと場を盛り上げてくれたのが最初の印象だった。

 新しい学校生活の不安を拭い去ってくれ、すぐに打ち解けさせてくれ、先輩が卒業するまでの1年の間に授業のサボり方なんかもアドバイスしてくれた。

 気さくで人懐っこく、面倒見の良い先輩だった。


 そんな仲の良い先輩の、知らない一面がその非現実を更に混沌に染め上げる。

 目の前で繰り広げられる非現実に、自分が何をすればいいのかわからず立ち尽くしていた。


「てか、ハヤテはなんか魔法使えるの?」


 先輩の身体と、興味がこちらに向く。

 その表情には門限を迎えたが遊び足りない子供のような、物足りなさを感じさせる。


「え、よくわからないんすけど、なんか光になれるっぽいです」


 自覚はないが、それ故にフロードは俺に近付いたらしいのでそう答える。


「えー!みたーい!やってよー!」


 いつもの無邪気な先輩、違和感はない、だが何故か恐ろしい。


「できるかな…」


 自身がないまま、フロードに言われた「自分」が「輝く」イメージをする。

 が、特に変化はない。


「…センスないのかも」


 自分よりも懐疑的であったコオリナは確かに魔法を発現させたが、俺にはできなかった。


「えーつまんないなー」


 先輩は唇を尖らせ悪戯っぽく文句を言うが、それよりも、自分が期待したものが手にすることができていない事実がショックで、立ち尽くした。


「それじゃどっか遊びに行こー」


 俺の沈んだ気を察したのか、わからないが、いつものように誘われる。

 すこし、気が病みそうだったので一瞬救われた気持ちになるが、同時に倒れたままの二人が視界に留まった。


「先輩あの二人は…?」

「んーまぁ組織とかは気になるけど言わないなら時間の無駄かなーって」


 少し考えるそぶりは見せたが、ほとんど興味をなくしている様子。


「あ、いや放って置くんですか?」

「うん、義理なくない?」


 この事態を引き起こした張本人の、あまりの情のなさに血の気が引く。


「でも、やりすぎなんじゃないかなって…」


 それでも親しい先輩ならと、一縷の期待を込めて諭す。


「あー…傍目に見るとそうなのかな?」


 先輩は口元に手を当て少し考えるそぶりをし、そして改めて口を開く。


「ボクの能力は「鏡」なんだよね」


 両手を広げながら自身の能力について語りだす。


「自分から何かをする能力じゃなくて、相手の能力をそのまま返す能力なの」


 全身を使い左右反転をジェスチャーで示しながら能力の解説を行う先輩。


「だから、あの紳士君が痙攣してるのも、あの女の子が氷に弾かれたのも、全部自業自得だから」


 爽やかな顔で自身の落ち度はないと清々しく言い切る。


「あー…そうなんですね…」


 一理あるのかもしれないが、相手に能力の発動を煽ったのはどちらも先輩だ。

 俺には、今の先輩が何者なのか、曇った鏡が輪郭をぼかすようで、分からなかった。


「俺、今日課題やりに来たんでー遊ぶのは今度でいいっすか?」


 気持ちの整理がつかない、今日のところは先輩には帰ってもらうほうが良い。


「んー…そっか!魔法が使えるようになったら教えてよ!またね!」


 さっぱりと割り切った笑顔の裏に何を考えているのか、俺には読めないまま、先輩は帰った。

 何時間も続いたようなほんの数分の出来事が、嵐の過ぎた後の静けさと取り残された自分達が現実なんだと証明していた。


「おい、大丈夫、か?」


 コオリナは自身の放った吹雪と草花がクッションの役割を果たしたようで、出血の様子はないが、打ちどころが悪かったのか完全に気を失っている。


「死んではないよな…?」


 専門的なことはわからないがひとまず医務室に運んだほうが良いだろう。


「フロードさんは…?」


 辺りを見回して先程まで先輩が立っていた場所に目をやると、吹雪の名残の中にうずくまる紳士の姿を見つける。


「寒い…寒すぎる…!!」 


 …どうやら元気みたいだ。

静かに嵐は去る。

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